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番外編 月夜祭2

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 カイトさんと待ち合わせする場所につき、キョロキョロと周りを見ながら待つ。昼過ぎからすでに店が開かれており、良い匂いが漂ってくる。食べ物の店だけでなく、おもちゃや生活用品を売っていたりと様々だ。開催宣言がされたため、そろそろだとは思うのだが、何せ人が多い。僕は小柄のため埋もれて見えないかもしれないとウロウロしていると、

「ねぇ一人?さっきからずっとここにいるよね?」

「俺ら暇しててさ、一緒に回らない?」

 二人組の男の人が声を掛けてきて、囲い込む様に見下ろしながらそう言われる。

「いえ、待っている人がいるんです。そろそろ来ると思うので……」

「え~、でもずっと待ってるじゃん」

「そいつが来るまででいいから一緒に回ろうよ」

 一人ではなく、待っている人がいると言っても、同じことを言われて困ってしまう。僕がもう一度言おうとした時。

「あんたらみたいなのとユンが回る訳ないでしょ。散れ!」

 聞き慣れた声が男たちの後ろから聞こえて驚く。スルッと男たちの間をすり抜けて僕の傍に来たレーテルは、男たちの方に向き直ると、何かを言った気がしたのだが、良く聞き取れず。男たちは、何を言われたのか焦ったように笑うと、そそくさと立ち去ってしまった。

「レーテル、ありがとう。あの人たち知り合い?」

「ううん。たまたま顔だけ見たことあるやつだったから。カイト隊長はまだ来ないの?こんなところにユンを一人で待たすなんて何考えてんの?」

「ち、違うの、僕が待ち合わせしたいって言ったんだ。ちょっと憧れてて……」

 デート自体、カイトさん以外としたことないから正解なんて分からないが、僕もいつかしたいと思っていたシチュエーションがあり、今回は頑張ってその要望を伝えたのだ。憧れていたことを話すのは少し恥ずかしくてもじもじとしてしまう。

「もう!可愛いのもたいがいにしないとすぐにガブッと食べられちゃうんだからね!」

「あぁ、それは同意だな。……ユン、待たせてすまない」

 レーテルの言葉に返しながら、近付いてきたカイトさんはそう言うと僕に謝ってきた。

「やっと来たの?遅いんだけど」

「悪かった、急いで来たつもりだったが。レーテル、お前も早く戻らないと機嫌最悪だったぞ。」

「どうして僕が戻らないから機嫌悪くなるのさ。まぁでもさすがに邪魔しないよ。ユン、じゃあね、楽しんでおいでね。」

 レーテルはそう言うと、僕に手を振って行ってしまった。レーテルは誰と一緒に来たんだろう。機嫌最悪だって言っていたけれど、レーテル大丈夫だよね?

「カイトさん、レーテル怒られたりしませんか?ぼ、僕、ちゃんと言ってくる……!」

 僕のせいでレーテルが怒られたらどうしよう、と不安になって、レーテルが行った方向に足を踏み出そうとすると、優しく腕を掴まれる。

「大丈夫だ、レーテルを傷付けることはしないだろうから。ユン、向こうに飯の屋台が並んでいたから行こう。」

 そう言いながら、掴まれた腕を引き寄せられて、背中に腕を回される。力強い腕に抱かれるように密着して、思わず顔が熱くなる。

「か、カイトさんは、レーテルと一緒に来ている人のこと、知っているんですか?」

「あぁ。ユンも知っていると思うが。……ユン、レーテルより俺を見てはくれないのか?」

 悪戯に笑って僕を見下ろすカイトさんに、言葉が詰まって熱い顔を隠すように俯いた。

 人が多い中、カイトさんに連れられるように歩いて出ている店を見て回る。美味しそうな匂いに釣られて、買って食べたり、綺麗な装飾品を眺めて楽しんだりと過ごす僕たち。そして、祭りも終盤に差し掛かり人も少なくなってきた頃。自然と、僕たちは帰路につく。離されない腕に、僕はドキドキしながら一緒に歩いて、もう来慣れたカイトさんの家へ。

「先にシャワーを浴びてくるといい。」

 促されて浴室に行くが、心臓はドキドキとこれからの展開を想像してしまっては手が止まり、時間がかかってしまう。それに、いつもより念入りに身体を洗ったりして余計に長くなってしまっていると、

―――コンコン。

「ユン?のぼせていないか?」

 浴室をノックされ、ドア越しにカイトさんの声が投げかけられて身体が跳ねた僕。

「だ、大丈夫です!」

 ドア越しにカイトさんがいる事実にも恥ずかしくなって、声が裏返ってしまい焦っていると、

「そうか、俺も入っていいか?」

「え!?え、え、え!?」

「フッ、冗談だ。入りたいのは山々だがな。」

 冗談なのか本気なのかそう言われて、僕は慌てて身体に湯を掛けて泡を洗い流すと、何とか浴室を出る。いつも借りているカイトさんの服を着て、おずおずと出ると、カイトさんが「もっとゆっくりでも良かったんだが」と笑って言った。僕と入れ替わりでカイトさんも浴室に向かったが、もう僕の心臓はドックンドックンと鳴り響いており、座ったものの何も手につかずジッと待っていた。いつの間にか、カイトさんが出て来て、僕を見て目を丸くする。

「そんなに緊張しなくていい。温かいものでも入れよう。」

 カチコチの僕に、カイトさんはそう言って温かいお茶を入れてくれた。ホッとしていると肩の力が抜けて、隣に座ったカイトさんとゆっくりしながら話す。夜が更けていき、外も寝静まって静かな時間。手を取られて、そこに唇を落とされる。

「……ユン、いいか?」

 カイトさんの問いに、僕は息を飲んで、じわじわと赤くなる顔のままゆっくりと頷いた。カイトさんは、そんな僕の腕を優しく引くと寝室へと連れて行く。ベッドに座ると、全身が脈打ち耳元で心臓が鳴っているかのような感覚に襲われクラクラしてしまう。

「か、カイトさ……んっ……。」

 重なった唇に、目をギュッと閉じて受け入れる。啄む様なキスを繰り返していると、そのまま押し倒された。キスをされながら、服の中に入ってくる手に身体が固まるが、腰や背中を撫でるように這うそれにだんだんと力が抜けていく。

「ぁっ……!」

胸辺りまで上がってきた手が、尖りを指でクニクニと揉んで、腰が少し浮いてしまう。指でコリコリと弄られながらも、唇は重なったままで、こじ開けて侵入してきた舌が上顎を舐め上げてきて声が漏れる。

「ぁ、ふっ、んん……。」

「ユン、可愛いな。感じてくれているのか。」

 いつの間にか服は脱がされていて、素肌同士が触れ合って気持ち良い。引き締まり、筋肉がついたカイトさんの身体が目に入って、触れてみたくなり指でちょん、とつついてみる。だが、すぐに恥ずかしくなって引っ込めようとすると、スルッと指を絡められる。

「か、カイトさ……!」

「好きなだけ触れればいい、君のものだ」

 そのまま手の甲に唇を落とされて、真っ赤になる僕に、そう言うと意地悪気に笑ってシーツに縫い付けられた。敏感なところに触れられ、声が漏れる。

「可愛い。ユン、愛してる」

 何度も優しく言われて、安心しつつも恥ずかしくて目をギュッと瞑った。下へと降りていくカイトさんの手に、ビクっと身体が揺れるが、頬に額にと唇を落とされ力が抜ける。

「あっ、か、カイトさ、あぁっ!」

 すでに立ち上がっているそこを大きな手で包まれて、思わず腰が逃げるが、それよりも先に擦られて呆気なく達してしまう。

「ご、ごめんなさい……」

「ユン、触られるのは初めてか?」

 カイトさんの言葉に、熱が集まった顔でコクコクと頷いて目を逸らす。あまりにも慣れてなさすぎる反応をしてしまい、面倒臭いと思われたらどうしようと不安になる。

「全部俺が初めて?……さすがに、はっきり聞くとクるな。愛しすぎてどうにかなりそうだ」

 だが、嬉しそうにそう言ったカイトさんは僕の目元に唇を落とすと、腰に手を這わせて下へと降ろしていく。そこを指でほぐされながら、身体は刺激を与えられる。舌で胸の突起を舐められ、腰が浮いてしまう。与えられる快感にもう何が何だか分からなくなってきた時、グッとカイトさんの熱く硬くなったものを押し当てられたかと思うと、そのままゆっくり僕の中に入ってきて、圧迫感に息が詰まる。そんな僕に唇を重ねてこじ開けてきたカイトさんに、呼吸を促されながらも舌を絡められて何も考えられなくなる。

「あっ、あぁっ……!」

 中で擦られて、ビクビクと身体が跳ねると、そこを何度も突かれてひっきりなしに声が上がる。そして、そのままカイトさんに愛されて、夜が更けていったのだった。

――――

「ユン、身体は大丈夫か?君が可愛すぎて手加減できなかった」

 起きると、肘をついたカイトさんが俺を見下ろしていて、額に唇を落とされながらそう言われる。僕は起き抜けに格好良いカイトさんの顔面が目の前にあることに動揺して真っ赤になる。

「あ、あ、だ、大丈夫です……。」

 恥ずかしくて目を逸らすと、カイトさんの手が頬に当てられ、

「ユン、婚姻届けを出す日を決めよう。出来るだけ早い日がいい。」

 続けてそう言われる。僕はポカンとするが、『月夜祭の日、俺と共に夜を明かしてくれないか』とカイトさんに言われたことを思い出して、じわじわと実感する。あの言葉は、いわばプロポーズと同義で、月夜祭の日に一緒に朝を迎えられたら、より一層その仲が深くなるとされているのだ。そのことから、わざわざ月夜祭の日まで待つ人もいるぐらいだ。了承しその日を一緒に過ごした時点でそれは婚姻の申し出を受けたということ。でも、カイトさんにそう言われると、本当にそうなるんだと今更ながらに分かってきて恥ずかしくなる。

「あぁ、引っ越しもしないとな。ユンの必要なものを揃えないと」

「そ、そうですね、また色々決めないと……」

「このままここに住めばいい。ユンの家でもいいが」

言われたことに目をパチクリする僕。

「ぼ、僕の家狭いよ?」

どう返せばいいのか分からなくなって、そう言った僕に、

「君がいるなら俺はどこでもいいが。でもそうだな、こっちの方が職場は近いから、ここに住みながらどうするか二人で考えよう」

 そう言われて、僕はまだ理解が追い付いていないまま頷いた。そうして、一緒に住むことがあれよあれよと決まり、同じ家へと帰る日々が始まった。

―――

「ユン、おいで。今日はまだ無理か?」

「ま、まだ無理です……!」

「そうか、仕方ない。じゃあ先にベッドで待っていてくれ。」

 一緒にお風呂に入りたいカイトさんと、まだ恥ずかしくて入れない僕。そんな僕の腕を引き寄せて抱き締めると、軽く唇を合わせて促される。

 毎日のように繰り返される甘い攻防と、愛される日常に顔を赤くしながらも幸せに過ごしていくのだった。


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