無効の契約は継続中

おはぎ

文字の大きさ
上 下
20 / 25

こうして誤解は広まっていく

しおりを挟む

「帰ってくるの早過ぎねぇ?」

「待ってたくせに何言ってんだ。」

…まだそれ言う!?

帰って来て早々、公爵家に連れ込まれるとペイっとクラウドの部屋に投げいれられる俺。扱いが雑過ぎる!そう思いながら振り返ると、目の前にはクラウドの胸があり、背中に腕が回って抱き締められる。突然の抱擁にギョッと驚いていると、

―――ブワッ!

温かい風が吹いて髪の毛が舞い上がる。俺は久しぶりの感覚に思わず笑ってしまう。しばらくそのまま風を受け続けていたが、なにせ温かいもので…。抱き締められている安心感もあり、ついウトウトしてきてしまう。

「…はぁ、やっとマシになった。悪かったな突然。リラ…?おい、まさか寝てんのか?おい、嘘だろ…。」

そのまま、スヤァと寝てしまった俺は全身をクラウドに預けて眠りについてしまったのだった。


―――



…こいつ、本当どうしてやろうか。

腕の中でスヤスヤと気持ち良さそうに眠るリラを見下ろしてため息をつく。

リラが故郷に戻ってから、数日は何ともなかったが、徐々に魔力が溜まっていくのが分かった。魔力を放出するにも周りへの影響を考えなければいけないこともあり、なかなか出来ずに不調が出て来る一方になっていった。それでも調査は必要で、あっちこっちに行っては襲い掛かって来る魔物に魔法をぶっ放して発散していたが、それでも足りず。

ケール魔術師団長には何度もいつ迎えに行けるのか聞いていたが、のらりくらりと躱されては時間を伸ばされ、苛々も募ってきていた。リラが傍にいると居心地が良い、それは認める。リラと一緒にいると、魔力が一定以上増えなくなっていたのだ。溢れるであろう俺の魔力が、リラといることで無効化されている可能性があると気付いた。最近、リラが自分の部屋に戻ることを面倒臭がって、勝手に俺のベッドで寝ていることが増え、必然的に共に過ごす時間が多くなっていたのだ。恐らくそれが、俺の魔力が溜まらず一定量を保てていた理由なのだろう。初めて会ってからしばらくは、魔力が溜まれば放出に協力してもらうといった方法をとっていたため気付かなかったが。

リラと過ごす時間が増えていたこともあり、魔力暴走することもなく体調も良好に過ごせていた。そのことには気付いていたが、あの様子だとケール魔術師団長も気付いていたな。それでまたリラと距離を置かせてどうなるのか研究したかったんだろう。リラが王都を出てから、毎日のように魔力量を測定されておりうんざりしていたのだ。

苛々が募る一方だった俺に、やっと迎えに行けとの命令が出た。俺は騎士2人を伴い、馬を走らせてリラの実家に向かったのだが。

「あら、リラのお迎え?随分遅かったのねぇ。え?リラはまだ帰ってきていないわよ。あら?そういえば昨日から帰って来てないわねぇ。どうしたのかしら。」

母親らしき人物が首を傾げてそう言ったかと思うと、あ、これ荷物ね、と渡してきたリラの物。

「そういや帰って来ねぇなぁ。仕事長引いてんのか。何の仕事って?何だっけ。隣町に行ってるけど、どこで働いてんのか聞くの忘れてたな。まぁ連れて帰るならリラのことよろしく頼むわ。」

父親はそう笑って言ってきた。

「お兄ちゃんね、元気なかったの。まだかなって、待ってたの…。寂しいけど、また帰ってくるよね?」

おい、妹に心配されてんぞ。

「あぁ。王都にも遊びに来るといい。身体、大事にな。」

ルルというリラの妹に片膝をついてそう言うと嬉しそうに笑った。

…ったく、なんで家にいねぇんだよ。仕事って何だ。どうしてあいつはジッとしていることができねぇんだ。迎えに行くって言ってんのに、普通仕事探すか?何だあいつは動いとかねぇと死ぬのか?

すぐに連れて帰れると思っていた分、肩透かしをくらって苛つく。隣町と聞き、最速の道を飛ばして到着したが、どこで働いているのか分からないため聞き込みから始めなければいけない。クッソめんどくせぇ…。リラは別に特徴的な髪色や瞳の色をしているわけでもないし、ちょこまか動いてるぐらいで説明しても分かるかどうかだ。溜め息をつくのを堪え、連れて来た部下と共に目に付いた街人に声を掛けた。

…あいつどれだけ色んなやつと知り合いになってんだ。

「黒髪の?最近来た…。あぁ、リラちゃん!はいはい、リラちゃんは向こうのダリルの店で働いてるわよ。」

「騎士様がこんなところまでどないしたんや?…リラ?リラってーと、あの子か?よく働く、あー、リラはさっきまでは働いとったぞ、向こうの店だ。」

「ダリルの店?リラ?あの子が何したんだ?…迎えに?なんだ、そうかそうか、ダリルの店はあそこだ。」

「騎士様だ!何してるの?悪い人捕まえに来たの?リラ?リラ兄ちゃんは良い人だよ!」

「はい?ダリルは私ですが…。リラ?あぁ、昨日急遽欠員が出まして、変わってもらったんです。ついさっき、帰りましたよ、入れ違いですね。話は聞いてます、また暇ができたら来てくれと言っておいてくれますか。」

最初に声を掛けた人物がリラのことを知っており、芋づる式にどんどんリラの居場所が分かった。最後にリラが働いていた店主辿り着き、すでに去った後だと知り、言付けを受けるとすぐに踵を返した。

そして、のろのろと歩いているリラを見つけ、馬から下りて駆け寄ったのだった。間抜けな面を晒して逆切れしてきたリラだが、思っていたよりも迎えを心待ちにしていた様子に、苛立ちも吹き飛んだ。さっさと連れ帰って、溢れ出しているであろう魔力を無効化してもらった矢先に眠りこけるこいつ。

…はぁ。

気持ち良さそうに眠るリラを抱え、お決まりのように俺のベッドに寝かせる。魔力をぶつけられて寝るってどういう神経してんだこいつは。ギシッと上から覆い被さるようにしてまじまじと観察する。魔力もついでに溢れさせると、リラの髪が揺れて、小さく笑う。すると、

―――コンコン

扉をノックする音が聞こえたと同時に開け放たれる。

「クラウド、帰ってきたなら一度報告を…。…お前、さすがに我慢できなさすぎじゃないか?帰って来て早々、ケダモノじゃないか。」

退ける間もなく開けられたせいで、この状況を見られとんでもない誤解をしたであろう親父が、呆れたようにそう言ってきた。

「…ノックしたら返事を待ってから入れや。」

面倒臭くなり、リラの上から退けると、そう言って生温かい目で見て来る親父に苛つきながら、部屋から追い出すと自分も出たのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

処理中です...