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帰る時は一瞬で
しおりを挟む「なぁ、クラウド。俺帰るのか?どうしたらいい?」
「親父はケール魔術師団長に従えとさ。一時の里帰りだ。また戻って来て貰うことになる。」
そう言われ、どういうことか分からない俺。とりあえず帰るけど、また戻って来なければいけないらしい。その時はどうやって見極めたらいいんだ?と疑問が顔に出ていた俺に、
「俺が迎えに行く。それまで家で待ってろ。」
クラウドがきっぱりとそう言った。というか、何故俺が帰ることになったのか、また戻らなければいけないのか、何も分かっていないんだけど。ケール様の口ぶりだと、俺は離れた方がいいらしい。だが、それが何からなのか、どうしてなのか…。
「全く分からん。俺いつ帰ったらいいんだ?」
何気なく聞くと、
「明日だ。荷物まとめとけ。」
…明日!?すげぇ急じゃん!俺のこと魔法を無効化するクラウドのアイテムだと思ってない?もっと俺のこと大切にして欲しい!
わーわー言いながら、余韻に浸る時間もなく最後の夜を過ごした。もちろん疲れた俺はそのままクラウドの部屋でぐっすり寝たのだった。
―――
「ただいま~。」
久しぶりの我が家。帰って来たが、今はみんな仕事に出ているようだった。帰る連絡をする時間もなくさっさと帰された俺なので、もちろん家族は帰って来ることを知らない。俺は久しぶりの家に懐かしくなるが、すぐに隣町に行く準備をする。働かる者食うべからずって言うし。いつ王都に戻ることになるかは分からないが、何もせず家でゴロゴロしているのは性に合わない。仕事を探しに行こうと思って、荷物を整えていると、
「お兄ちゃん…?」
玄関の方でドタドタと足音が聞こえて、開かれた扉の先に、俺を見て目を見開くルルの姿。
「ルル!すげぇ、めっちゃ元気じゃん!」
走ってきたであろう姿に、俺は嬉しくなってそう言うと、ルルはハッとしたように顔を歪めると走って突撃してきたため、慌てて受け止める。
「お兄ちゃん、帰って来たの?ずっと家にいる?ルル元気になったよ、もう行かなくていいよ。」
ギューッと抱き着いて来る小さい妹に、寂しい思いをさせていることに申し訳なくなるが、それより元気そうで嬉しい。
「少しだけ休みを貰ったから帰って来ただけなんだ。また行かないといけないけど、しばらくいるよ。」
「本当?いる?ルルとご飯食べる?」
可愛いお願いに頬が緩む。ルルはそれからもずっと俺にべったりで、その日は隣町に行くことは諦めた俺。母は、帰って来た俺を見て首を傾げていた。
「あら、おかえり。クビになったの?私の子を連れて行っておいて、用済みって?勝手なやつらね、やっちゃおうかしら。」
「いやいや、違うって!ちょっと休みを貰ったの!また戻るよ、迎えに来てくれるらしいし。それまでいるよ。でもその間暇だから隣町に仕事探してくる。」
俺を見て早々に物騒なことを言いだす母に慌てて説明する。そして、俺は隣町で仕事を探して通うことになった。久しぶりの家でのご飯に懐かしい気持ちになるが、何処か落ち着かない。数日はそわそわとして、外で物音がしたらすぐに覗いてしまっていた俺。迎えに来てもらうのを待ち焦がれているようだと自覚してからは恥ずかしくなったため、平静を装ってチラ見している。ルルはだいぶ元気になったようだけど、薬は続けないといけないらしく、今は飲み続けているから元気なのだと医者から説明された。だから、大丈夫そうに見えても無理は禁物らしい。
戻って来て、はじめはもう帰って来いと言っていた母も、俺が迎えを待っている様子を見ている内に、まだ迎えに来ないのかと別のベクトルで怒り始めるようになってしまった。
「本当に迎えに来んのか?もう帰って来てもいいけど、お前は戻りたそうだな。」
父に笑われてしまったが、反論できないため黙る。家族には会いたかったし、戻って来られたのは良かったと思っているのだが、どうしてもクラウドは俺がいなくて大丈夫だろうかと考えてしまう。最近は魔力放出する時期を伸ばしても、魔力が溢れることはなくなってはいたが、俺がいないとまた魔力が溜まってしまうのではないかと不安が出てくる。魔力が溜まって放出できないと、体調にも影響を及ぼしていたし、何より本人が辛そうだった。
…俺がいなくて大丈夫かな、クラウド。
そう考えてしまうと、どうしても心配になってきてしまい、早く迎えに来いよと何度も外を見に行ってしまう。しかし、数週間経っても迎えは来ないまま日々が過ぎていった。
…来ねえじゃん。
段々と俺はもう必要なくなったのかとか、もう契約は終了になってしまったのかとか、王都に戻らないなら皆に挨拶も出来ていないなとか、ごちゃごちゃ考えることが増えてきた。口数が少なくなっていく俺に、家族は顔を見合わせていたが、俺もこの何とも言えない迷子のような心細さをどうしたらいいのか分からず。
そしていつものように隣町で仕事をしていた時。欠員が出たらしく、泊まり込みで仕事してくれないかと言われ二つ返事で了承した。夜は賃金が増えるのだ。貰えるものが多いのは良いことだしな。仕事が終わったのは次の日の昼前。俺は眠気と戦いながら、何とか帰路についた。そろそろ家が見えてくるなと思った時。
後ろから、グイッ!と力強く腕を掴んで引っ張られ、俺は眠気と仕事の疲れから踏ん張りがきかず。そのまま身体が倒れていったが、思っていた衝撃はなく。ポスンと何かに抱き留められると、顔を上げた。
「お前は…。家でジッとしてろって言っただろーが。」
顔を顰めたクラウドが、俺を見下ろして呆れたようにそう言ってきた。心なしか、疲れているような、苛々しているような、何とも言えない顔をしている。俺は突然の状況にぽかんと口を開けて見上げる。
「え…。クラウド?どうして?」
「どうしてだと?迎えに行くって言っただろ。何フラフラしてんだ。何でお前はジッと待つことが出来ねえんだよ。」
家に行ってもいないって言われるわ、昨日から帰って来ないだので首を傾げられるわで、どれだけ探したと思ってんだと怒られる俺。え、俺が悪いのかそれ?
「いや、ただ単に仕事だっただけで…。」
「だいたい、何で仕事してんだよ。迎えに行くって言ったよな?家にいろって言わなかったか?生活できるだけの金は渡してただろーが。」
…いや、うん。確かに契約内容分の金が届いてたけど、でもジッと待ってるのも何か落ち着かないしさぁ…。分からねぇかなこの男心!ってか迎えに来るの遅いんだよ!
「仕方ねぇだろ!待ってるだけだったらそわそわするし!だいたい、迎えに来るの遅いんだよ!」
「あ?…何だ、そんなに俺が来るのを待ち焦がれてたのか?」
理不尽に責められている感じがして食って掛かると、片眉を上げたクラウドは俺を見てそう言い、途端にニヤニヤと顔を覗き込んできた。俺はそう言われてハッとし、自分の放った言葉を思い返しじわじわと恥ずかしさが込み上げてくる。
…あぁー!変なこと言った!
迎えに来るの遅いとか、そわそわするとか、そんなの明らかに待っているのに来ないことへの憤りだ。そして、気を紛らわせるために仕事していたと言っているようなもんだ。でも実際、迎えに来てくれてホッとしている自分もいる。そのため、反論も出来ず。
「うっ、くっそ、離せぇ!」
捕まれている腕をブンブン振って逃げようとするが、逃がしてくれるやつではない。むしろさっきよりガッチリ両腕を掴まれてズルズルと引き寄せられる。
「っく、何だよ、待ってたんだろ。おら、喜べよ。」
「うるせー!ばか!ばーか!」
「お前、照れたら語彙力なくなるのは何なんだよ。」
呆れたように言われるが、俺だってそんなこと知らない。ムスッと下を向いていると、
「じゃあ帰るか。行くぞ。」
そう言われ、家とは逆方向に向かおうとするクラウドに慌てて踏ん張る。
「いやいや、駄目だって、俺何も言ってないし、荷物も…。」
「荷物は積んでる。お前の家族には伝えてる。帰るぞ。」
「だから勝手に俺抜きで完結するのやめろって言ってるだろ!」
何にも変わってねぇ!と憤慨する俺。荷物云々はまぁ、いい。別に見られて困る物なんてねぇし。ただ、挨拶は必要だろ。このまま何も言わずに王都に帰るなんて薄情にも程がある。一度家に戻ってから、ちゃんと行ってくるって言わなきゃ駄目だろ!そう言うと、
「お前の母親が荷物纏めて渡してくれたぞ。父親はよろしくってよ。」
そう返され、迎えを待っていた俺のことを知っている両親の生温かい目が思い浮かび居たたまれなくなった。
「あっ、ルル!ルルにはちゃんと言わねえと…。」
「あぁ、妹か。快く送り出してくれたぜ。元気なかったらしいじゃねぇか。」
…あ、これ、いろいろバレてるやつだ。
もうそこで俺は何も言うまいと口を結んだ。言えば言うほど墓穴を掘る気がする。そう思って黙ると、クラウドにわきに抱えられると待機している馬に乗せられる。え、本当に今から帰る感じなのか?と顔に出ていたであろう俺を見て、
「話聞いてなかったのか?帰るって言ってんだろ。」
そう言って自分も馬に乗ると早々に走らせようとする。よく見ると、周りに2頭馬がいて、乗り手は見覚えのある騎士だった。俺が何か言う前に、帽子を被されるとそのまま出発されてしまったのだった。
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