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理由も分からず出発
しおりを挟む「なぁ、あれ何?なぁ、あれ動いてね!?」
「うるせぇ。静かにしてろ。」
俺はなんと、現在馬に乗っている。もちろん、一人では乗れないためクラウドにがっちりしがみついている状態。王都から出てしばらく馬を走らせていたが、何やら枝が動いている木とか、角が生えている鳥とか、色んな初めて見るものばかりで興奮気味だ。そんな俺を冷静に窘めるこいつ。
こんな状況になったのは、王家からの魔物討伐要請から始まる。
ダークレイクが王都の周辺10㎞以内に出現した。それが分かった時、すぐさま魔物討伐のための編成がなされたのだ。
ダークレイクとは、理由は不明だが魔物が発生する原因となるらしい。俺は全く知らないし、見たこともない。住んでいたところで魔物なんてほとんど見なかったし、見掛けたとしても小動物ばかりだった。
そういうものが出ると、だいたいそれに近い国が素早く察知して早々に片付けるらしい。何もかも初耳。そんなことをしてくれていたとはと驚愕した。
そして、何故俺が同行しているのか。俺も分からない。いきなりクラウドに首根っこ掴まれて連れて来られたのだ。反抗する間もなかったし、今ちょっと楽しいため、まあいいかとはしゃいでいる。
移動している時に、凡その説明をされたが、それを聞いても訳が分からん。何で俺が連れて来られたんだか。
「なぁ、森に入んの?泊り?野宿?」
「泊まりで野宿だ。お前は俺と。」
…魔力が暴走しても大丈夫なように俺を連れて来たのか?さすがにまとまってテント張っているところで魔力暴走したら、全員巻き添えだもんな。
俺は一人で考えて納得する。だって聞いても嫌そうな顔するしこいつ。
「うわっ。」
道が悪かったのか、大きく揺れて慌ててクラウドに先程よりも強くしがみ付く。
「ちゃんとしがみ付いてろ。落ちたら次は前に乗せんぞ。」
揶揄うように言われ、後ろでムスッと口を尖らせる。
始め、馬に乗せられる時、あろうことかこいつは俺を抱き上げようとしたのだ。それに対し俺は拒否も拒否し、どうにかこうにか後ろに乗ることで落ち着いたのだ。
「前に乗せられるなんて、俺めっちゃお荷物じゃねーか!」
「何でだよ。前に乗りたい子どもいっぱいいるんだぞ。」
…笑ってんの分かってんだからな。
ちょっと身体が揺れてるし、口調がもう笑ってんだよ。
「とにかく!俺は前だけは絶対乗らねぇ!」
「じゃあ落ちねぇようにしてろ。」
「うわっ!おい!」
わざと揺らしてきて、俺はこれでもかとクラウドにしがみ付く。こいつ、覚えてろよ!
クラウドとギャンギャン言い合いながら、馬を走らせ、ついに森の中へと入って行く。
「隊長!この辺りなら、広く場所を取れそうです!」
同じ編成チームの騎士の声で、その場で一旦休憩になった。
「おら、来い。」
「お前は俺のことどう思ってんの?まさか子どもだと思ってんの?」
馬から下りたクラウドが、笑いを含んだ声で俺に手を差し出してくる。それを叩き落とすと、俺は一人で馬から飛び降りた。
「っく、そんなカリカリすんな。ほら、水飲んどけ。」
水を放って渡してきたため、キャッチし、一口だけ飲む。馬に乗ってただけだから全然喉渇いてねぇ。丁度、傍に他の騎士がいたため、はい、と渡す。
「水だって。あげる。」
「えっ!?いや、駄目ですって、それは!」
…何故かめっちゃ拒否されるんだけど。え、俺の後飲むの嫌な感じ?嘘、めっちゃショックなんだけど!
「何でだよ!汚くねぇよ、ほら、ちょっとしか飲んでないし!」
「いやいやいやいや、それだけは、本当、勘弁してください!」
「え、そこまで言う?ショック…!」
ガーンと打ちひしがれていると、その騎士が慌てて違うんです!と言い訳してくる。何が違うんだ。俺の水は飲めねぇんだろ!
「おい。何絡んでんだ。来い。」
クラウドに回収され、水もそのままクラウドに戻った。そして、クラウドの横に立たされたが、何やら話し合うことがあるらしく俺だけ手持ち無沙汰。え、俺何で連れて来られたんだ?気まずいし、あっちで他の人たちと休憩したいんだけど。
そーっとクラウドの服を引っ張ると、視線だけをこっちに寄こしたから、俺と向こうをクイッと指で差してみる。でも、すぐに視線を戻されて何の反応もされず。
…え、俺放置?
俺がここに来た理由も知らされず、何故ここに立たされているのかも分からねぇのに、放置!
「なぁ俺あっちに…。」
「静かにここで待ってろ。後で相手してやるから。」
「俺はペットか?」
小声で訴えたのに、返ってきた言葉に思わず心の声が出てしまい、視線が集まって居心地悪くなる。仕事の邪魔をしたい訳じゃないため、めっちゃ気まずい。どうしてくれるんだこの状況。おい、話に戻ろうとするな、俺を置いていかないでくれ頼む。
「あっち、俺、行く。」
「何で片言なんだ。いいから、もうちょっと待ってろ。ふらふら行くな。」
溜め息をつかれて首根っこを掴まれる。やめろ!猫みたいに俺を持つな!
ガタイの良い騎士ばっかの中で、こういう扱いをされるのがとても恥ずかしい。いや、庶民の俺が騎士と比べるのはおこがましいとは思うが、やっぱり男としてムキムキな身体には憧れがあるわけで…。
大人しくなった俺に、喉で笑ったクラウドは、話が終わったのかそのまま俺を連れてその場を離れたのだった。
「なぁ、俺は何であの場に連れて行かれたわけ?」
「放っておいたら、また誑し込むだろ。」
「…何て?」
何を言っているか分からないが、俺のお目付け役を担っているということは分かった。俺、ずっとクラウドといるんだけど。え、他の騎士たち誰も寄って来ねぇし。
「クラウド、ちゃんと皆と仲良くやってるか?仏頂面でいたら怖いんだから、もっと愛想良くしねぇと。」
「何の心配してんだお前は。あいつらは気を遣ってんだよ。」
「何の気を遣ってんだ?俺?え、俺?田舎もん感出てるから!?」
「そう、出てる出てる。だから大人しくしてろ。」
「投げやり感すごくね?え、本当に?」
俺が田舎者だから皆遠巻きにしてんの?嘘だろおい。騎士なのにそんな差別するなんて、許せん。
「俺、物申してくる!ちょっと怖いから、クラウドは後ろで圧掛けといてくれ!」
「やめろ。いいから、俺も言っとくから大人しくしてろっての。」
クラウドと話しているのを、騎士たちが驚愕の表情を隠せずに見ていることには気付かなかった。
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