10 / 25
理由も分からず出発
しおりを挟む「なぁ、あれ何?なぁ、あれ動いてね!?」
「うるせぇ。静かにしてろ。」
俺はなんと、現在馬に乗っている。もちろん、一人では乗れないためクラウドにがっちりしがみついている状態。王都から出てしばらく馬を走らせていたが、何やら枝が動いている木とか、角が生えている鳥とか、色んな初めて見るものばかりで興奮気味だ。そんな俺を冷静に窘めるこいつ。
こんな状況になったのは、王家からの魔物討伐要請から始まる。
ダークレイクが王都の周辺10㎞以内に出現した。それが分かった時、すぐさま魔物討伐のための編成がなされたのだ。
ダークレイクとは、理由は不明だが魔物が発生する原因となるらしい。俺は全く知らないし、見たこともない。住んでいたところで魔物なんてほとんど見なかったし、見掛けたとしても小動物ばかりだった。
そういうものが出ると、だいたいそれに近い国が素早く察知して早々に片付けるらしい。何もかも初耳。そんなことをしてくれていたとはと驚愕した。
そして、何故俺が同行しているのか。俺も分からない。いきなりクラウドに首根っこ掴まれて連れて来られたのだ。反抗する間もなかったし、今ちょっと楽しいため、まあいいかとはしゃいでいる。
移動している時に、凡その説明をされたが、それを聞いても訳が分からん。何で俺が連れて来られたんだか。
「なぁ、森に入んの?泊り?野宿?」
「泊まりで野宿だ。お前は俺と。」
…魔力が暴走しても大丈夫なように俺を連れて来たのか?さすがにまとまってテント張っているところで魔力暴走したら、全員巻き添えだもんな。
俺は一人で考えて納得する。だって聞いても嫌そうな顔するしこいつ。
「うわっ。」
道が悪かったのか、大きく揺れて慌ててクラウドに先程よりも強くしがみ付く。
「ちゃんとしがみ付いてろ。落ちたら次は前に乗せんぞ。」
揶揄うように言われ、後ろでムスッと口を尖らせる。
始め、馬に乗せられる時、あろうことかこいつは俺を抱き上げようとしたのだ。それに対し俺は拒否も拒否し、どうにかこうにか後ろに乗ることで落ち着いたのだ。
「前に乗せられるなんて、俺めっちゃお荷物じゃねーか!」
「何でだよ。前に乗りたい子どもいっぱいいるんだぞ。」
…笑ってんの分かってんだからな。
ちょっと身体が揺れてるし、口調がもう笑ってんだよ。
「とにかく!俺は前だけは絶対乗らねぇ!」
「じゃあ落ちねぇようにしてろ。」
「うわっ!おい!」
わざと揺らしてきて、俺はこれでもかとクラウドにしがみ付く。こいつ、覚えてろよ!
クラウドとギャンギャン言い合いながら、馬を走らせ、ついに森の中へと入って行く。
「隊長!この辺りなら、広く場所を取れそうです!」
同じ編成チームの騎士の声で、その場で一旦休憩になった。
「おら、来い。」
「お前は俺のことどう思ってんの?まさか子どもだと思ってんの?」
馬から下りたクラウドが、笑いを含んだ声で俺に手を差し出してくる。それを叩き落とすと、俺は一人で馬から飛び降りた。
「っく、そんなカリカリすんな。ほら、水飲んどけ。」
水を放って渡してきたため、キャッチし、一口だけ飲む。馬に乗ってただけだから全然喉渇いてねぇ。丁度、傍に他の騎士がいたため、はい、と渡す。
「水だって。あげる。」
「えっ!?いや、駄目ですって、それは!」
…何故かめっちゃ拒否されるんだけど。え、俺の後飲むの嫌な感じ?嘘、めっちゃショックなんだけど!
「何でだよ!汚くねぇよ、ほら、ちょっとしか飲んでないし!」
「いやいやいやいや、それだけは、本当、勘弁してください!」
「え、そこまで言う?ショック…!」
ガーンと打ちひしがれていると、その騎士が慌てて違うんです!と言い訳してくる。何が違うんだ。俺の水は飲めねぇんだろ!
「おい。何絡んでんだ。来い。」
クラウドに回収され、水もそのままクラウドに戻った。そして、クラウドの横に立たされたが、何やら話し合うことがあるらしく俺だけ手持ち無沙汰。え、俺何で連れて来られたんだ?気まずいし、あっちで他の人たちと休憩したいんだけど。
そーっとクラウドの服を引っ張ると、視線だけをこっちに寄こしたから、俺と向こうをクイッと指で差してみる。でも、すぐに視線を戻されて何の反応もされず。
…え、俺放置?
俺がここに来た理由も知らされず、何故ここに立たされているのかも分からねぇのに、放置!
「なぁ俺あっちに…。」
「静かにここで待ってろ。後で相手してやるから。」
「俺はペットか?」
小声で訴えたのに、返ってきた言葉に思わず心の声が出てしまい、視線が集まって居心地悪くなる。仕事の邪魔をしたい訳じゃないため、めっちゃ気まずい。どうしてくれるんだこの状況。おい、話に戻ろうとするな、俺を置いていかないでくれ頼む。
「あっち、俺、行く。」
「何で片言なんだ。いいから、もうちょっと待ってろ。ふらふら行くな。」
溜め息をつかれて首根っこを掴まれる。やめろ!猫みたいに俺を持つな!
ガタイの良い騎士ばっかの中で、こういう扱いをされるのがとても恥ずかしい。いや、庶民の俺が騎士と比べるのはおこがましいとは思うが、やっぱり男としてムキムキな身体には憧れがあるわけで…。
大人しくなった俺に、喉で笑ったクラウドは、話が終わったのかそのまま俺を連れてその場を離れたのだった。
「なぁ、俺は何であの場に連れて行かれたわけ?」
「放っておいたら、また誑し込むだろ。」
「…何て?」
何を言っているか分からないが、俺のお目付け役を担っているということは分かった。俺、ずっとクラウドといるんだけど。え、他の騎士たち誰も寄って来ねぇし。
「クラウド、ちゃんと皆と仲良くやってるか?仏頂面でいたら怖いんだから、もっと愛想良くしねぇと。」
「何の心配してんだお前は。あいつらは気を遣ってんだよ。」
「何の気を遣ってんだ?俺?え、俺?田舎もん感出てるから!?」
「そう、出てる出てる。だから大人しくしてろ。」
「投げやり感すごくね?え、本当に?」
俺が田舎者だから皆遠巻きにしてんの?嘘だろおい。騎士なのにそんな差別するなんて、許せん。
「俺、物申してくる!ちょっと怖いから、クラウドは後ろで圧掛けといてくれ!」
「やめろ。いいから、俺も言っとくから大人しくしてろっての。」
クラウドと話しているのを、騎士たちが驚愕の表情を隠せずに見ていることには気付かなかった。
343
お気に入りに追加
653
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる