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説教の内容は分かりやすく
しおりを挟む「うーん。」
「どうしたんだ?」
「珍しいじゃないか。そんな風に悩んでるのは。」
昼の休憩中、親父さんと女将さんにそう聞かれて、俺は唸った。最近、帰る時に誰かにつけられている気がするのだ。2、3日は気のせいかと思ったが、それから何日も同じような感覚がありちょっと気味が悪い。
「何かさ、最近、帰る時に後ろから誰かついて来てる気がするんだよ。でも誰もいねぇし。俺が気にし過ぎなのかな~。」
そう言うと、親父さんと女将さんは顔を見合わせた。
「それ大丈夫なのか?」
「ちょっとリラ、何かあったら遅いんだからね。」
それから怒涛の質問責め。いつから、何故すぐに言わないのか、心当たりはあるのか、つけられている他に何かされたりはしていないのか、二人してすごい形相で聞いてくるもんだから、俺は若干引き気味です。
「リラはねぇ、すぐに人の懐入り込んじゃうから、勘違いするやつが多いのよね。」
「あそこの息子か?いや、あの店の若いやつも最近来てたな。…思い当たるやつが多いぞリラ。」
二人して色々考えてくれていたが、その内、俺に対しての苦情みたいな感じに変わってしまった。あれ、俺の心配は?
だが、帰る時に親父さんが送って行くと言い出して、さすがに公爵家に帰っていることがばれるとまずいため、何とか説得しなければならなくなった。
クラウドの魔力放出する期間がもうちょっと伸ばせるようになれば、どこかで一人暮らしさせてくれないかな。そうすれば俺も気楽にできるのだが、さすがにあまり我が儘は言えない。公爵家で暮らすことで衣食住を保障する、ってことなんだろうけど、それだけではない気もする。だって、その辺の田舎者を公爵家に住まわせる?でもその意図は分からないし、貴族的なことだったら俺が口を出していいことでもない。俺だって色々考えてんだから。
それからも一人で帰っていると、やっぱり誰かがついて来ている気配を感じていた。だが、特にそれ以上何かされそうな気配はない。だからまぁいいか、と放っておいた。
「リラ、何か悩んでる?俺で良かったら聞くよ。」
そんなことが続いた日、以前髪を短くしたトームが心配そうに聞いてきた。気にしてないつもりだったんだけど、顔に出ていたのかと少し驚く。
「いや、いいんだ。特に気にしてないから大丈夫。ありがとな!」
そう言うと、トームは表情を消して「そう。」と呟いた後、笑みを浮かべて、
「ねぇ、リラ。これ、良かったらあげるよ。身を守るためのものだから、付けていて欲しいんだ。」
とブレスレットのような物を渡してきた。
「え、いいのか?護身用なのかこれ。でも何で…。」
「リラのためだから。付けて。」
食い気味にそう言われ、俺はそんなに心配してくれているならと、有難く頂戴する。
「ありがとな。壊しそうだし、仕事終わってからつけるな。」
俺はそれをポケットにしまって礼を言うと、笑顔が返ってきた。
…別に気にしてなかったけど、やっぱりどっか気を張ってる感じがあんのかな。
本当に、最近は慣れたのもあってあまり気にしてなかったのだ。だって別について来るだけだし。見守られてんのかなとか、多分見当違いだとは思うんだけどそう考えてしまうぐらいには、順応してしまっていた。
まぁ、くれるんなら有難く貰っておこう、と深く考えず。
仕事が終わり、そういえばと思い出して貰ったブレスレットを付ける。すると、ふわっと風に撫でられたような感覚に首を傾げた。まぁいいやと帰路につくも、今日も今日とて誰かがいる気配。もう気にせず帰る俺。それが数日続いた時。
「おい、何だこれ。」
魔力を放出するためにクラウドの部屋に行った時に、掴まれた腕を上げられた。
「あ、取るの忘れてた。貰ったんだよ。」
「誰に。いつ。」
淡々と怒ったような顔で迫るように言われて、ちょっとビビる。え、これめっちゃ怒ってね?
「誰って、トームに。あ、店に食べに来る客だけど、身を守るやつだって…。」
「お前、これが何か分かってねぇのか。」
…?だから身を守ってくれるやつだろ?
言いたいことが顔に出ていたのか、眉間に皺を寄せると俺の腕からそれを勝手に取られる。
「あー!何すんだよ、心配して俺にくれたんだぞ!」
「何が心配だ。ふざけやがって。」
…え、何、マジギレじゃん。
「なぁ、何でそんな怒ってんの?」
「動悸がしたり、これを貰ったやつに対して何か思ったことは。」
いきなりの怒られ発生に、俺は身に覚えがなく戸惑うも、俺の質問には答えてもらえず、逆に問い詰められる。
「うーん、特に何も。これくれたやつって、トームにってこと?いや、何もないけど。」
「全く、何も?」
「うん?うん、何にもない。」
疑うような目で見られるが、クラウドの質問の意図が分かっていないため始終はてなが頭に飛んでいる俺。
「そもそも、心配ってなんだ。」
「あー、それは最近、俺が帰る時に誰かにつけられ…。」
「あ゛ぁ!?」
…うっわ、怖!
睨み付けられて、少し肩が揺れた。怖すぎだろ!いきなり何怒ってんだこいつ。ってか何で俺怒られてんだ。
「な、何だよ。俺悪い事してな…。」
「つけられてる?最近?詳しく話せ。」
有無を言わせない圧に、俺はここ最近のことを伝える。いつからか帰る時は誰かにつけられている気配があること、つけてくるだけで他に何もされていないこと、誰がつけてきているのかは分からないこと、そして、
「最近は慣れちゃって、気にしてない。」
と続けると、
「っこの馬鹿が!!」
思いっきり怒られた。飛び上がるぐらいに怒鳴られ、その後は説教説教説教。めっちゃ怒られた。怖い。クラウド怖い。
「だって分かんねぇし!誰がつけてきてるかなんて。」
「だからって慣れるなそんなこと!どんだけ危険か分かってんのか!」
「ついて来るだけで何もされてねぇもん!」
「つけて来る時点で危ねぇだろうが馬鹿が!」
言い返しはするも、言われることには確かにと思ってしまう部分があり、どんどん勢いを失くす俺。
「で、でも、さっきの護身用の付けてたら安心…。」
「…それに関しても言いたいことはあるが、あれは護身用じゃねぇ。質が悪いのを引っかけやがって。」
舌打ちとともに吐き出された言葉に、え、と声が出る。
「護身用じゃない?じゃあそれ何なんだよ。」
「お前…はぁ。何でそう危機感がねぇんだ。貰った物を易々と付けたりすんな。特に身に付けるようなもんは。」
さっきから俺の質問が悉く無視されるんだけど。でもクラウドの圧が強くてあまり追及できない。だって怒ってるし!
「だって、心配してくれたし…。」
「心配だとかお前のためだとか言ってくるやつは全員下心があると思え。」
…お?
ふざけている訳ではないだろう、真剣な表情でそう言われ、一応頷くも理解できず。
「とにかく、その男にはもう近付くな。」
「え。いや、客なんだけど。無理じゃね?」
「そういう意味じゃねぇ。隙を見せるなって言ってんだ。」
「うー、分かんねぇ…。」
もう頭がこんがらがってきた。頭を抱える俺を見て溜め息をつくクラウド。一旦話は終了となり、いつものように魔力放出に協力し部屋へと戻った。
次の日、いつものように出勤。最近は帰る時につけられているって話をしなくなったからか、親父さんたちは解決したと思っている。
そして昼の忙しい時間にバタバタしていると、トームが来てしまった。クラウドに、貰ったブレスレットを没収されたため、トームが来たら気まずいな~と考えていたため、ちょっと表情に出てしまったらしい。
「リラ、どうしたの?何か俺に思うことある?」
だが、何故かそんな俺の様子を見て、にこやかに話し掛けてきた。しかし、忙しい時間のためゆっくり話していられず。
「悪い、ちょっと話したいことあんだけど、この後時間ある?」
「っもちろん!仕事終わりに待ってるよ!」
すごく嬉しそうにそう返され、俺は瞬く。こんなに嬉しそうに俺のこと待ってくれるやつだぜ?クラウドが心配し過ぎな気がするんだけど。
俺、それからトームに何て言えばいいだろうかと考えながら時間が過ぎていった。
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