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俺は可愛い分類らしい
しおりを挟むクラウドと飯屋に行った後はそのまま帰宅。酒場も行ってみたかったけど、却下された。そして、いつもと同じく招かれたクラウドの部屋。
「いつでもどーぞ。」
いつもと同じように、両手を広げて立つ。ただ、前とは違いいつもよりクラウドとの距離が近い。
「…はぁ。いくぞ。」
溜め息をついた後、クラウドは赤い風のようなものを纏い始める。これを見る度、綺麗だなぁと思うんだけど、如何せんこれが何なのかよく分かっていない俺である。
「お~。」
何やら、クラウドから放たれたものが俺の身体に当たってくるが、サーっと風に吹かれているような感覚に気持ち良くなってくる。
「…大丈夫そうだな。」
またしても溜め息をつくクラウド。ほう、前は分からなかったが今は何となく分かる。この溜め息は俺に魔法をぶつける時に覚悟を決めているっぽい。
「大丈夫だっての。そんな疑わなくてもドンとこいってんだ。」
「お前は分からないだろうが、魔法を人にぶつけるなんざ凶器を投げてるようなもんなんだぞ。」
…おぉ。それは確かに躊躇するな。
そう言われれば俺にも何となく分かる。つまり大丈夫だからナイフを投げて刺してみろってことだろ。でも効かないことが分かってるのに、心配性だなぁ。
「で、すっきりした?」
「…あぁ、魔力放出する期間を少し伸ばしても良さそうだ。」
おぉ。来た当初は毎日、それが2~3日に1回程度で行っていたが、もう少し伸ばせるらしい。これは進歩だな!
「そう思うと、顔色良くなったな。初めて会った時はそういうもんかと思ってたけど、全然今の方がいいや。」
「そうか、俺もだいぶ調子が良い。」
今日はこれで終わりか聞くと頷かれる。俺はじゃあ、と部屋から出ようとした時、ガシッとまたしても腕を掴まれた。
「もー何。大丈夫だって!」
毎回のため、思わず振り返りながらそう言うと、
「お前、男引っかけるのやめろ。」
とクラウドがとんでもないことを言いだした。身に覚えがございませんが!?
「は!?何言ってんの!?」
俺は本気で驚いて、思わず叫んだ。男を引っかけるって何!?怖すぎるだろ!俺がいつそんな攻撃性を出した!?
「だから、誰彼構わず懐くんじゃねぇ。」
「え、何、どういうこと?引っかけるって何?」
クラウドから続けて発せられた言葉に、俺が思っていることとは違うのかもしれないと考える。とりあえず、ちゃんと説明を求めよう。俺は話を聞ける男なので。
「…そこからかよ。いい、とにかく、懐くな。面倒なんだよ。」
「いやいや、説明!俺、クラウドに迷惑掛けた覚えねぇよ。」
「お前が引っかける度に、使用人やら親父やらに言われて牽制してんだよこっちは。とにかく大人しくしてろ。」
…いや全く分からねぇ。俺が馬鹿なのか、クラウドの説明が下手なのか。どっちもどっちのような気もする。
「俺別に暴れたりしてないし、懐くって何?友達と仲良くすること?」
「…友達ねぇ。お前、ちょっとは危機感を持て。」
溜め息をつかれるが、王都のルールなんて知らねぇ田舎者に対してあんまりでは?
「俺だって、人目につかない場所で貰った認識阻害の帽子被ってるぞ?」
「そういうことじゃねぇ。あー、お前はどっちかって言ったら、顔整ってる方だろ?」
「知らね。そんなこと言われたことない。格好良いってこと?」
「…どちらかと言うと、可愛いの分類だろお前は。」
何の会話してんだ俺たち。俺可愛いの?格好良いって言われる方が嬉しいけど。首を捻る俺に、ため息をつくクラウド。
「で、可愛い俺が何だって?」
「自分で言うんじゃねぇ。」
…何こいつ!可愛いって言ったのお前じゃね!?
「クラウドが言ったんじゃん!俺のこと可愛いって!」
「言ってねぇだろ。そっちの分類だって言っただけだ。」
「もー訳分からん!俺明日早いからもう寝る!」
「おい、まだ話終わってねぇだろ。」
「はいはい、明日また聞いてやるから。な?」
「何で俺が聞き分けないやつみたいに…おい!」
俺はまだ何か言おうとするクラウドからスルーっと離れて扉までダッシュし、そのまま開いたところに身体を滑り込ませた。
「今日はご馳走様!おやすみ!」
言ったもん勝ちだと、さっさと退出し、自分の部屋へと急いで入った。
…結局何が言いたかったんだ?俺に友達がいるのが羨ましかったとか?
考えても分からないため、今日はもう寝るか、と考えを放棄したのだった。
――――
「いらっしゃい。あれ、髪切った?そっちも格好良いじゃん!」
いつものように食堂で働いていると、馴染みの客が来て、髪を切って短くなった姿に思ったことを伝える。
「えっ、本当に?前さ、リラが短いのも似合いそうって言ってくれたから、思いきって切ってみたんだよ。」
照れ臭そうにそう言われ、うんうんと頷く。
「やっぱり短いのもいいって!俺の目に狂いはなかった。褒めて。」
「何でだよ。でもそっか、リラはこっちの方が好き?」
「おう!どっちも良いけど、短い方が俺は好き。」
「じゃあ俺、ずっと短くしてるよ。」
「?うん。いいと思うぜ。」
さっと席に着かせながら話していると、奥から呼ばれ、その場から離れる。
「注文?何にする?」
「あー、今日のおすすめをくれ。あとな、リラ。…あいつには気を付けろよ?」
「うん?何?」
おっちゃんに呼ばれて注文を取ると、小声で何か言われる。
「あいつだよあいつ。前、ずっとお前のこと見てたぞ。気を付けろよ?」
「え、俺何かついてた?」
「違う違う。狙われてんだよ。とにかく気を付けろよ。」
もう一度、どういうことか聞こうとするも、次は親父さんに呼ばれて急いで注文を通す。
気を付けろって何?ずっと見てたって、俺変なことしてたっけなぁ。言われたことに内心首を傾げながらも、忙しくなってきたため、そんなことはすぐに頭から抜け落ちた。
「はぁ、やっと終わった~。腹減ったよ親父さん。」
「おう、作ってやるから待ってろ。」
親父さんは笑って、俺のまかないを作ってくれた。待ってました!とばかりに勢いよく食べる俺。
「本当に、良く食べるよ。どこに入っていってるんだろうね。」
女将さんに、つい最近聞いたようなことを言われる。
「まだ成長期だから、栄養が必要なの。」
そう返せば、何故か笑われる。何故だ。
喋りながら食べた後、夜の仕込みや準備を行っていく。そして夜の営業が終わって店を出る。帰路について歩いていると、同じように俺の行く方向へと歩く足音が後ろから聞こえた。
振り返るも、誰もいない。俺は首を傾げながら、また足を進めた。だが、またしても同じ速度で歩く足音が聞こえる。またしても振り返ってきょろきょろと周りを見渡すが、誰もいない。
「…気のせいか?」
首を傾げつつ、いつものように曲がり角で認識阻害の帽子を被って家へと帰ったのだった。
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