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王都に来るまで
しおりを挟む母親が鬼と人のハーフで、俺はその鬼の血が濃く出たらしい。鬼の種族は今はもう純血がいないらしく、いたとしても半血である者がほとんど。
鬼といっても角があるわけでもなく、見た目は100%人族だ。俺もずっと人だと思っていたが、チビの頃に怪我をした時、治癒魔法が効かないことがあった。その時に、初めて親から聞かされたのだ。
「え、治癒魔法が効かなかった?本当に?あら。もしかして、リラは鬼の血が濃いのかも知れないわね。」
何ともないようにそう言われたが、どういうことか全く分からず。父も同じようにそうだな、なんて笑っていたが、その時は説明しろと憤慨したものだ。
純血の鬼族は特性として魔力を持たず、また魔力に関するものを受け付けない性質があるとのこと。その代わりに身体は頑丈で、風邪はおろか、ほとんどのどのような怪我でさえも自然治癒力のみで回復するらしい。
全て初耳だったが、鬼族はそういった特徴が現れなければ人と変わらないため、生涯、鬼族であることを知らない者もいるという。
5人兄弟だが、鬼の血が濃いのは俺だけであることが分かった。まぁ確かに、今まで風邪をひくこともなかったし、大きな怪我をすることもなかった。たまたま、協会の傍で遊んでた時に手を枝で切ってしまったために、治癒魔法を受けることになったことが、俺が鬼族であることに気付いた出来事になったのだった。
鬼族と分かっても、日常生活では人と変わらないため、特に変わらず過ごし、むしろそのことも頭から忘れかけていた頃。末の妹が病気がちで、ベッドで過ごすことが多くなってきた。治療を受けるにも、薬代が高額で。貧乏なわけではなかったが、裕福でもなかった我が家。6人兄弟の大所帯でもあり、ポンポンと薬を買うこともできず。それでも、本業とは別の仕事もしたり、上の兄弟も働いて何とか末の妹のために稼いでいた。俺も、街まで行って出稼ぎのような生活をしていた。そんな状況の中、貴族の使者だという者が実家を訪ねてきたのだ。
母は少し話を聞くなり、そいつを叩き出すようにして家から追い出したらしい。その場にいなかったから下の弟に聞いた話だが。もしそれが本当なら、不敬罪か何かで牢屋に入れられそうなことをしている。
たまたま、連休になったため実家に戻った俺が、その貴族の使者と鉢合わせしたことで発覚。
「子どもを売れって言ってきたのよ。貴族だか何だか知らないけれど、しつこいからちょっとやっちゃおうかしらと思ってたの。」
笑顔でそう言う母に顔が引き攣りながら、ちゃんと話を聞いてみる。こう見えて、鬼の血が半分流れている母は少し喧嘩早い所がある。いや、鬼の血が関係しているのかは知らないが。これは母だけの特性か?
何はともあれ、貴族様の使者を追い返すのは駄目だろ。俺はそう思い、話だけでもと招く。
「誤解させてしまい申し訳ございません。こちらに、魔法を無力化する方がいると噂で聞きまして。どうか、そのお力をお借りしたいのです。契約金はこのぐらいで。まずは王都に来ていただき、可能かどうか判断させて頂きます。もちろん、不可能であったとしても契約金はお支払いします。それはあなた方の責任ではございませんので。」
…母さん、全然話聞かずに追い出したんだな。
思わず遠い目をしてしまうが、要約すると、魔力暴走をする恐れがある公爵家の三男の魔力放出に協力をして欲しいという内容だった。ただ、その男の魔力は膨大であるため、魔法が効かないといっても、もしもということがあった場合の保険金のようなものを契約金として払う、という話だ。さすが公爵家。太っ腹!
「母さん!ちゃんと話聞けって!子どもを売れなんて全然言ってねぇじゃねーか!」
「だって魔法を無力化する子がいるか聞かれたんだもの。その後に続く言葉は、差し出せでしょ?」
「そんなわけないだろ、勝手に頭の中で解釈してぶつけるなよ…。」
「あら。でも遠からず合ってたじゃない。つまり、リラを寄こせってことでしょ。嫌よ。」
ふん!と顔を背ける母は、自他ともに認める子煩悩で、成人した上の兄たちですら今だに小さい男の子だと思っている節がある。
「でも母さん、こんだけお金貰えればルルの薬買えるぞ。俺、王都行ってくる。無理でもお金は払ってくれるって言ってるんだし。」
俺はそう言うも、母は反対の一点張りで。なら皆で王都に引っ越そうと提案されるが、ルルの状態が良くないし、王都より自然豊かなここで養生した方が良いという医師の言葉もありできず。
それから俺が王都に行くことになるまで色々あったが、ルルのためであると同時に、俺自身も王都に行ってみたいという好奇心もあったことから、どうにか許されたのだった。
「まぁ、行きたいんだったら俺は止めねぇ。ルルのためだけに、って言うなら反対だがな。お前ならまぁ、大丈夫だろ。」
父はそう言って笑い、母を説得するのに協力してくれた。
ただ、泣きながら「お兄ちゃん行かないで!」と抱き着いてきたまだ小さいルルと離れるのは辛くて。休みにまた帰ってくると約束し、後ろ髪を引かれながらも、俺は王都へと旅立ったのだった。
迎えに来るとのことだったのだが、仰々しく来られても困ってしまうため自分で行くと伝え、乗り合いの馬車に乗った。
そして、貰った地図を片手にうろうろと迷子になっていた時にあったその男が、例の三男だったのだ。
公爵邸で、リュグナー公爵とご対面した時はさすがに緊張した。庶民の俺に対して気さくに話してくれて、部屋も与えられた。本物の貴族で余裕のある人は違うなと感心する。
そして、その夜に紹介されたというか、たまたま鉢合わせしたのが、三男のクラウドで。公爵様からは、夜に三男は帰ってくるから、とだけ言われていたのだ。
「初めまして。よろしくお願いします。」
そう言うと、顔を顰めたクラウドは、「あぁ。」とだけ言って会話が続かず。
「あの、俺、魔法を無効化できるって言っても、どうやったらいいのか知りません。無効化する方法?っていうか、ただ効かないって感じで。魔力を放出するのを手伝うっていっても、どうするんですか?」
敬語が変なのは大目に見て欲しい。仏頂面ではあるが、どこか疲れているような、押し込めているような感じのクラウドに近付くと、睨みつけられる。
…え、何。庶民は近付くなって?いやいや、俺もどうしたらいいか分からないんだけど。
肩を竦めた俺に、
「…お前、何も感じないのか?」
そう訝し気に聞かれ、きょとんとする。
「え、何を?」
思わず、敬語を忘れて返す。
「…いや、その様子だと何も感じてないんだな。」
「いや、だから何を?何、何かされてんの俺?」
何か怖いんだけど!知らない間に何かされてるっぽい俺。
「…はぁ。お前、もうちょっとこっちに来れるか。」
そう言われ、何なんだと思いながら近付いて行く。見られながら近付くが、何も言わないクラウドにどこまで近付けばいいのか困惑する。
「なぁ、あ。えーっと、あのどこまでお近づきに…。」
「敬語はいい。今も、何も感じないのか?」
…だから、何を感じるんだよ!
だが、敬語はいらないと言ってくれるならそれに甘えよう。
「全く何も。何かまずいの?」
開き直ってそう聞くと、少し驚いたように目が開いたのが分かった。それに首を傾げるも、一体今何をしている状況なのだろうと考える。
「わっ!何!?」
その瞬間、温かい風がふわっと身体に当たった感覚がして、思わず声を上げた。
「…何とも、ないな。」
驚いたように言われるも、全く状況が飲み込めない。
「だから、何もねぇし、一体何なんだよ。」
「俺は漏れ出た魔力でさえも、火傷を負わせてしまうことがある。お前は何もせずとも、勝手に無力化している。」
そう言われ、ぱちくりと瞬く。まぁ、そう言われればそりゃそうか。そういう質ってだけだから、特に何もしなくていいのか。
「じゃあ、契約は継続?」
「…そうだな。」
そうして、俺は契約のもと、クラウドの魔力放出の手伝いをすることとなったのだった。
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