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のんきな兎は怖がる
しおりを挟む「あの、えっと……。ウルルです。お名前は?」
そろそろと後退る僕に、その人は微笑みを浮かべたまま、
「あぁ、失礼。初めましてだね。レイルと呼んでくれ。さて、ウルル君、予約している店があるんだ。行こうか。」
そう言って来て、スマートに僕の腰に腕を回されて促される。どこか圧を感じる空気に、僕の兎耳は垂れ下がって身体が震えた。
「い、行かない……。知らない人に、付いて行っちゃ駄目って、ロイに言われたの……。」
頑張ってその場で踏ん張ってそう言うと、
「おや、そうなのかい?困ったな、そんなに怯えないでくれ。弱い者を虐める趣味はないんだよ。」
穏やかな表情で見下ろされながら、優しい口調でそう言われるが、何故か恐怖を感じて、視界がぼやけてきた。
「い、行かない、怖い……。うぅ、ぐすっ、怖い……。」
「おっと、困ったな……。どうしてだろう、倅と似ているとよく言われるのだが、君には発揮してくれないらしい。」
「おうち帰る、お外怖い……。」
ぐすぐす泣き出した僕に、その人は困ったように笑って、
「何とも弱弱しい存在だね、ロイの好みはこういう子だったのか。」
そう言って僕の頭を優しく撫でた。
「……ロイ?」
「ん?あぁ、そうか。そういえば言ってなかったね。私は、ロイの父親だよ。一度、君に会ってみたかったんだ。」
そう言われた時、僕はびっくりして顔を上げるとまじまじと見つめる。虎耳、ロイに似た顔……。ロイのお父さん……!似てる……。ぐすっ、ロイいない……。」
確かに顔立ちはロイに似ているが、纏っている雰囲気というか、何となく怖さがあるその人に、僕は距離を取る。ロイのお父さんだと理解はできても、違和感が拭えない。
「ロイは遠征に行ったらしいね。私は国を出ていて昨日帰ってきたんだよ。そしたら息子に番が出来たというじゃないか。ぜひ会ってみたいと思ったんだよ。」
優しい口調なのに、どうしてこんなに怖いと感じるのか。僕はふるふると首を振って、
「い、行かない……。」
ずりずりと後退った。
「うーん、困ったね。家に入る訳にも行かないし…。食事だけ付き合ってくれないかい?」
ロイに似た顔で言われて、僕は垂れている兎耳を掴んだまま固まる。ロイのお父さんなのだから、怖がっているのは駄目だと思うのだけれど。そんな僕と一定の距離を保ちつつ、促してくるから、恐る恐るついて行く。
「ここ……。」
ゆっくり歩く僕に合わせてくれたレイルさんについて行った先は、見覚えのある建物。
「いらっしゃいませ、レイル様。お席にご案内致します。」
そこは、紹介制の高級店のレストラン。いつかロイを連れて行ってあげようと思っていた店。見覚えのある店員さんは、僕を見て少し目を見開いたが、すぐに表情を戻し穏やかに案内してくれた。
「ここに来たことが?」
席に着いて、店員さんが出て行った後にレイルさんに聞かれて身体をビクつかせる。僕はふるふると首を振って、
「あの、お店の前を通ったことがあるの……。」
そう小さい声で返した。
「うーん、どうしてそんなに怖がられているんだろう。」
苦笑して言われてしまうが、自分でも何故なのかあまり分かっていない。その内に、料理が運ばれてきた。並べられるのは、大きなお皿の真ん中に綺麗に盛られたお肉や魚。明らかに高級と分かる部屋や雰囲気にすっかり身を縮こませる僕。
そして、テーブルマナーが分からない僕は、お皿の横に添えられたフォークやナイフを見るも手が出せない。うぅ、食べられない……。悲しくなってきた僕を見て、
「ウルル君、そんなに畏まらなくていいから、自由に食べなさい。」
そう言ってきた。僕は、恐る恐るフォークを手に取ってゆっくり食べていく。食べたことのない複雑な味に首を傾げながらも美味しさは分かる。食べ終えると次が運ばれて来て、休む間もなく食べ続けると3皿目ですでにお腹がいっぱいになってしまった。
最後にデザートが運ばれてきて、食べ終えるとレイルさんはナプキンで口元を拭き、手を組んで僕を真っすぐ見てきた。そして、
「ウルル君、突然で申し訳ないのだが、ロイと番になるのは辞めて欲しいんだ。」
微笑みを張り付けたままそう言われ、僕は目を見開いた。言われた言葉の意味を理解する前に、
「お互いを番と認めただけで、まだ番の契約は結んでいないだろう?」
続けてそう言われ、僕は血の気が引いていくのを感じた。
「ろ、ロイは……。」
「うーん、息子に言っても聞かないだろうから、君にお願いしているんだよ。」
僕の言葉に苦笑して返してきたレイルさんの目は真剣で冗談を言っている様子はない。ただ、ロイから離れるようにと言われていることを理解した時、僕は頭が真っ白になった。表情も口調も穏やかなまま話すレイルさんに恐怖を感じて身体が震える。
「私たちは代々騎士を務める家系でね。強い遺伝子を残していかないといけなんだ。言っている意味は分かるね?」
続けて宥めるようにそう言われて、僕はビクっとしてレイルさんから目を逸らして下を向いた。
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