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のんきな兎はお邪魔する
しおりを挟む「ソニー、ここどこ?」
「分からないでここにいるんすか!?…もしかしなくても、迷子っすね?」
ソニーはここにいる僕にびっくりしていたが、そう聞くと苦笑して迷子認定されてしまった。
「うーん、薬屋に行きたかったんだけどないの。どこに行っちゃったんだろうね。」
「薬屋っすか?……あー、多分通りを1本間違えて来ちゃったんすね。」
――きゅるるるる。
僕のお腹から音が鳴り始めた途端にソニーが動きを止めた。僕はお腹をさすると、
「じゃあ僕はご飯食べてくるね。」
ソニーに手を振って踵を返した。すると、ガシッと腕を掴まれる。
「いやいやいや、ウルル君迷子っすよね!?どこ行くつもりっすか!絶対家に帰れないって泣くパターンっすよ!」
慌てたようにそう言ったソニーは、うちでご飯食べてってください!と僕は引き摺られるまま何処かに連れて行かれてしまった。
「家まで送るんで、それまで一緒に居て下さい。ここで野放しにしたら、迷ってどこかで泣いているのが目に浮かぶんで。」
僕はあれれ~としている間に着いたそこは、大きな建物。そこからは、何やら色んな声や音がしてきている。兎耳を立てて、首を傾げていると、
「ソニー兄ちゃんおかえり!」
「おかえり、ご飯!ご飯!」
「お腹空いたぁ、兄ちゃん何買って来たの?」
その建物から、わらわらと子ども達が出て来てソニーを取り囲んだ。僕がぽかんとその様子を見ていると、
「わっ、誰?」
「お客さんだ!
僕に気付いた子どもたちが、次は僕を取り囲んで腕を引っ張られたり見上げて話し掛けてきたりと、すごくパワーを浴びているようで圧倒される。
「こーら、俺のお客だから失礼のないように!」
「「「「はーい!」」」」
きゃあ~と叫びながら、僕の手を取った子どもたちに建物の中へと引っ張って行かれる。
「あのね、あのね、ソニーお兄ちゃんは騎士なんだよ!」
「強いんだよ!ご飯もね、美味しいんだよ!」
我先にと話し掛けて来る子ども達が可愛い。いつも間にか席に着いた僕の周りに小さい子たちが飛び跳ねながら代わる代わる……いや、一斉に話し掛けてくるため、僕はあっちこっち向くのに忙しくなってしまった。
「ソニーはお兄ちゃんだったんだね。」
「そうだよ!ソニー兄ちゃんはね、強いんだよ!」
「そっかぁ、すごいねぇ。」
「お腹空いたー!」
「僕もお腹空いた……。」
「お兄ちゃんのお名前は?」
「うん?ウルルだよ。」
「ウルル!遊ぼ!」
「いいよ~。みんな元気だね。」
「ほら、もうご飯できるから、持っていって!ウルル君は座ってて!」
子ども達は慣れたように、奥に走って行くとお皿やお椀を持って戻って来てはテーブルに置いて行く。僕の前にもお皿を置いてくれて、その中には美味しそうなパンやこんがり焼かれたお肉と野菜が乗っていた。
「これソニーが作ったの?美味しそう!」
「そうっすよ。簡単なもんばっかりですけど。はい、スープもどうぞ。」
僕が一人で家にいた時は、生の野菜を食べるだけの日もあったし、スープを3食の日もあったよと話すと、何故か静寂に包まれた。
「ウルル、可哀そう……。」
「ウルル、貧乏だったんだね……。」
「ここの子になったら、ちゃんとご飯食べられるよ!」
そして、何故か子ども達に慰められて、ここに住むように言われてしまった。あれ、どうしてこうなったんだろう。貧乏……。確かにあんまり贅沢は出来なかったけど……。
「僕、3食ちゃんと食べてたよ?ご飯は大事だからね!」
「でもウルル、大人なのにこんなに小さいじゃん。栄養足りてないんだよ!」
「うぅ、小さくないもん、兎族はみんなこのぐらいだもん……。」
騎士たちと比べたらさすがに小さい自覚はあるけれど、兎族の中では大きい方なはず…と思っている僕。でも小さい小さいと子どもたちから言われて、しくしくと泣いていると、みんなそれぞれ背伸びをして頭を撫でてくれる。
「ウルル、大丈夫だ。俺が大きくなって守ってやるから!」
その中でも、一番大きい熊族の男の子がそう言って慰めてくれる。
「うーん、子どもたちですら庇護欲掻き立てられている感じ、まさに兎族っすね……。」
ソニーが苦笑してスープのおかわりを注いでくれた。
「ほら、食べ終わったら食器運んで洗って。」
そう言うと、さっと食器を運ぶ子どもたち。すごい、みんなテキパキしている。僕も運ぼうと、スープを飲み干して立ち上がると、
「わっ!」
椅子に足を引っかけてしまい、バランスを崩した。
「っぶね!ウルル、大丈夫か?」
だが、傍にいた熊族の子が支えてくれて事なきを得た。
「ありがとう。すごいね、力持ちだね。」
その子が全くバランスを崩すことなく僕を支えるのを見て驚きながらお礼を言った。すると、その子は顔を赤くして、
「べ、別に、このぐらい余裕だし。」
そう言って横を向いて手を離すと、僕が持っていた食器を奪うように取ると行ってしまった。
「あのね、テイル兄ちゃん照れてるんだよ。」
「テイル兄ちゃんね、ソニー兄ちゃんみたいに騎士になるんだよ。」
他の子たちがそう言ってきた。
「そうなの?騎士になるんだ!すごいね、だからあんなに力持ちなんだね。」
「そうだよ、毎日トレーニングしているの。」
「おい!余計なこと言うなって!」
テイルが慌てたようにそう言いながら戻ってきた。
「テイルは騎士になるのかぁ。じゃあ一緒に働くことになるかもしれないね。」
僕がそう言うとテイルは、
「えっ!?ウルルって騎士なのか!?」
と、驚いたように見てきてそう叫んだ。
「うん?違うよ、騎士団所属だけど、僕は騎士じゃなくて雑用係をしているよ。」
「正式には騎士団雑務職員っすよ。」
僕が言ったと同時に、ソニーが洗い物を済ませて出て来てそう言った。
「あっ、ソニー兄ちゃん、稽古つけてくれよ!」
テイルは、そんなソニーに駆け寄って手を引っ張る。
「はいはい。ウルル君、帰ったら駄目っすよ。送るんで待ってて下さいね。」
そう言って、引かれるまま外に出て行ってしまった。すると、僕の周りにまた子どもたちが集まってきて、一斉に話し始める。
「テイル兄ちゃんはね、強いねって言うと照れるんだよ。」
「あのね、ソニー兄ちゃんは稼ぎ頭なんだよ!」
「これボタン取れたぁ……。」
色々言うことが違いすぎて、何が何だか分からなくなってきた僕。一番小さい子が僕の膝によじ登ってきたため、そっと抱え込んだ。すると、頭を預けてきてそのまま眠ってしまう。
「寝ちゃった。どうしよう。」
「お腹いっぱいで眠くなったんだよ。こっちこっち!」
小さい子を抱えて立ち上がると、案内されるまま部屋に入って、ソファに座らせられる。その横に座る子、前に座る子、様々だか僕にかまってくれるらしい。眠っている子を気遣ってか、みんな少し小声になって話し始める。僕はそれに返しながら、ソニーの言いつけ通り戻ってくるのを待つのだった。
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