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のんきな兎は気になる

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あれから倉庫に再び戻って来た僕。ロイが扉付近にあった処理する箱を持って行ってくれた。終わったら団長室に来いと言われて頷くと、するっと僕の兎耳を撫でて行ってしまった。そして、ソニーにも怒られて、扉は開けたまま作業することになった。

「あ、これだ、見つけた。」

言っていた保存食が入った箱を見つけた。期限が今月になっているため、間違いない。僕はそれを運ぼうとするが……。

「お、重い……。」

缶詰などが多いため、すごく重い。僕一人では持って行けないと判断。すぐに倉庫から出て、助けを呼びに行く。

「誰か~。助けて下さ~い。」

そう言いながら廊下を歩くと、

―――バタバタッ!

騒々しい足音がこちらに向かって来るのが聞こえ、僕はぎょっとする。

「どうした!」

「何かあったのか!?」

僕を視界に入れると、口々にそう聞かれて目をぱちくりする。

「……?食堂に、保存食を運んで欲しいの。何かあったの?」

首を傾げながら、そちらこそ何かあったのかと聞く僕に、騎士たちが大きく溜め息をついた。

「あ~、そういうことか。悪い、こっちの勘違いだ。保存食って、あれか。期限切れるって言ってたな、そういや。」

すぐに理解してくれたらしく、手が空いていたらしい騎士が何人か倉庫まで付いて来てくれて、保存食が入った箱を軽々抱えると食堂まで持って行ってくれた。あの保存食は、一体どんなご飯になるんだろうと、密かに楽しみにしていた僕。また食堂に行った時に聞いてみようと考える。

そして、倉庫内の物品整理がだいたい終わり、後はそれぞれ振り分ければ終わりだ。個数が多いものは、ここで保管するらしい。僕の今日の仕事はこれで終わりかなと考えていると、

「ウルル君、どうっすか?お、もしかして終わりました?はいはい、リストの分全部あったみたいっすね。後はそれぞれ運んでもらうんで、大丈夫っすよ。」

ソニーが良いタイミングで来てくれて、リストを手渡した。

「今日のお仕事は終わり?」

「そうっすね、今日はもう終わりっす!」

「じゃあ僕、ロイを迎えに行ってくるね。」

ソニーに手を振って、僕は団長室へと向かう。いつもはロイが迎えに来てくれるが、僕が迎えに行くのは初めてだ。何だかお兄さんになったような感覚に、うきうきと歩く。

「おーい、ウルル。どこ行くんだ?」

「ウルル?どこ行くんだ、隊長には言ってんのか?」

「ウルル君、一人?どこ行くの?」

何故か、すれ違う人たち皆に呼び止められてはどこに行くのか聞かれる僕。

「ロイをね、迎えに行くの。団長室に行くよ。」

その度に答えて、納得したように見送ってくれる。さすがに団長室には迷わず行けるよ、皆心配性だなぁ。そう思いながら、すれ違う度に同じことを言っては手を振ったのだった。

そして、団長室に着いて、ノックする。「入れ。」と短くロイの声が聞こえて、扉を開け……。あれ?

扉が異様に重い。あれれ……。うんしょ、うんしょ、と引っ張るもびくともしない。あれ、昨日は開いたのに……。あ、違う、昨日はロドニーが開けてくれたんだった。どれだけやっても、全く開く気配のない扉に、僕は呆然と立ち竦む。

「うぅ、開かない……。入れない……。」

涙が出て来た僕は、ぐすぐすと泣きながら頑張って扉を引っ張っていると、

「わっ!」

いきなり扉が開いて転びそうになったが、伸びてきた手に掴まれて事なきを得る。

「何遊んでんだ。さっさと入って来い。」

「だって、開かないんだもん。」

「あ?何言ってんだ、開いただろーが。」

「でも、開かなかったんだもん。」

僕も早く入りたかったけど、全然開かなかったんだもんと訴える。ロイは訝し気に見てくると、一度扉を閉めて僕の背を押す。

「開けてみろ。」

そう言われ、僕はさっきと同じように頑張って引っ張る。だが、びくともしない。うぅ~と力いっぱい引くけれど、全く動かず。

「お前、そんなに弱いのか……。」

何故か驚いたように僕に向かってそう言い放ったロイ。

「うぅ、開かない~……。ぐすっ、もういいもん。窓から入る……。ロイ、中にいる時は窓開けておいて……。」

「何でだよ。……あ、そういえばこの扉重くしたんだった。」

何でもないようにそう言ったロイは、軽々と扉を開けて僕の腕を引いて中に入った。

「どうして重くしたの?僕入れない……はっ!僕を入れないため……!?」

「そんな訳ねぇだろ。前の扉が軽すぎたんだよ。うちの騎士団は馬鹿力が多いからな。バッタンバッタン開けられたらうるせぇから、重くしたんだよ。…まさかお前が開けられないとは予想外だけどな。弱すぎるだろ。どうやって生きてきたんだ?」

意地悪く笑いながら僕の頬を伸ばすロイに、僕はうぅ、とむくれる。

「頑張って生きてるもん……。僕だって、鍛えたら強くなるもん……。」

「兎族は筋肉付きにくいだろ。仕方ねえから大人しく守られてろ。」

そう言って目を細めて笑うロイに、僕は、はわぁと力が抜ける。守られてろだって。ロイ格好良い…。

「ロイ格好良い……。好き……。」

「急だな。お前のスイッチがよく分かんねぇわ。」

ロイはそう言いながらも、ふらふらとロイに両手を伸ばす僕を迎え入れてくれる。

「そういや、お前がなくしたって言ってた菓子、届いたぞ。」

「えっ!本当?」

驚く僕の前に、ロイが袋を差し出してきた。

「これだろ、午後にデリックが届けに来た。」

中身を見ると、まさしくあのお菓子だった。僕はまたこのお菓子を食べられる…!とじわじわ嬉しさが沸き上がってくる。

「これ、これね、すごく美味しいんだよ!ホロホロでね、甘くてね、中にも甘いものが入っててね、それで……。」

「分かったから、落ち着け。」

興奮気味の僕がロイに話していると、頬に手を当てられて額に唇を落とされる。僕はピタッと止まり、ロイを見上げる。

「……さすがにここでするほど節操無しじゃねぇぞ。帰ってからな。」

苦笑しそう言うと、僕の頭を撫でるロイ。僕はピトッとロイにくっつく。まだ仕事が残っているらしく、僕を抱えたまま難しい書類を読んでは判子を押すロイに、僕はここにいてもいいのか首を傾げる。

「ロイ、僕向こうで座ってようか?」

「あ?何でだよ。」

「だって仕事中でしょ?」

「別に構わねぇよ。お前がくっついてようが支障はない。」

そう言うロイは、確かに僕が抱き着いていても手は動かしており、たまに僕の頭に手を置いて撫でてくる。無意識なのか、その手にもっとと頭をすり寄せようとしてもすぐに離されてシュンとなる僕。そして数分後に、終わったらしいロイが声を掛けてきた。

「ウルル、終わったぞ。……おい、寝てんのか?」

「んん、寝てない……。ロイ好き……。」

「ふっ、眠そうだな。帰るぞ。」

「抱っこして……。」

「してんだろーが。仕方ねぇな、ちゃんと掴まってろよ。」

そう言いつつも、抱き着いている僕を片手で持ち上げて、何の抵抗もなさそうに立つロイ。僕は振動を感じながらも、温かくて安心する匂いに擦り寄ってウトウト。しかし、ハッと思い出して目を開ける。

「ロイ、お菓子……。」

「持ってる。眠いなら寝てろ。」

そう言われて安心してロイに身を任せた。

「あ、隊長、お疲れ様です。ウルル君、寝てるんすか?」

「あぁ、眠いらしい。」

「言ってたお菓子ですか?それ。良かったっすね…って、これ貴族御用達の高級店のやつじゃないっすか…。」

「デリックから貰ったって言ってたからな。」

「うわ、さすが公爵家。良いもん食ってるっすね~。ウルル君がどうしても見つけたかったっていうのも納得っす。俺も絶対探しまくりますよ。」

「馬鹿言うな。こんなもんくらい、いくらでも買ってやるっつってんのに、聞きやしねぇ。どうせ、こいつも探しに行こうとか考えてただろうしな。」

「あぁ~確かにウルル君ならやりかねないっすね。あはは、向こうで聞きまくって第1騎士たちを困惑させてる想像が目に浮かぶっす。」

「だろうな。俺もそう思ったからデリックに持って来させようとしてたのに、訳の分からねぇ理由と方法で向こうに行って飯食ってるし、この馬鹿うさぎは人の言うこと全然聞きやしねぇ。」

「ばかじゃ、ないもん……。」

ウトウトしているだけで、寝てない僕。ちゃんと聞いてるからね…と寝ぼけ眼で言う僕に、何故か二人は笑った。

「お前も早く帰れよ。今日は当直じゃねぇだろ。」

「はい、これだけ運び終わったら帰るっす。お疲れ様です。ウルル君、じゃあね。」

そう言うと、僕にも手を振ってくれたため、ぽやぽやと手を振り返した。ロイはそのまま僕を抱えて歩き、家に着くと下ろされそうになってギューッとしがみ付くと笑われた。

「ウルル、眠いならもう寝るか?」

「んん、寝ない……。ご飯食べる……。」

夕ご飯をまだ食べていないため、食べなくちゃと眠い目を擦る。すると、その手を取られて目元に唇を落とされる。

「擦るな、顔洗って来い。」

「ロイも?」

「何でだよ。ったく、甘えため。」

何だかんだ言いながらも洗面所に行くと濡れたタオルを持って来て顔を拭いてくれる。僕はされるがままで、終わると少し眠気がなくなってロイに引っ付いた。

「後でお菓子食べようね、美味しいんだよ。」

「あぁ、デリックの家に行った時に食ったことがある。あの菓子が売ってる店は俺にも融通利かせてくれるから、いくらでも買ってやる。」

そう言われて、僕ははた、と止まる。デリック様のおうち?行って食べた?

「ロイ、デリック様と仲良し?」

「……ただの幼馴染だ。トレイルもな。」

「えっ!」

僕は初めて聞く関係性に驚き、眠気は完全に何処かへ飛んでいった。

「そうなの?あ、そういえば二人とも狐さんだ……。」

誰かに似ていると思ったことがあったが、そうか、二人は同じ種族だ。そして、確かに顔立ちも似ている。そうかそうか、と思い返せば確かに兄弟だ、と納得する。

「同じ騎士さんなんだね。仲良しだね。」

兄弟で同じ職に就くなんて仲が良いと思って言ったのだが、

「あー、まぁ色々あってな……。」

何処か濁すように言われて首を傾げる。それ以上ロイは何も言う気がないのか、話はそれで終わりになった。トレイル様に今度聞いてみよう。こういうのは本人に聞くのが一番だからね。

「あ、そういえばいっぱい喋る人も狐さんだったよ!あの人も兄弟?」

「あ?……親戚だ。あいつのことはいい、思い出したら殺したくなる。」

「ひっ!……怖い、そんなこと言っちゃ駄目なんだよ……。」

「お前は、自分が何されたのか分かってんのか?あぁ?」

「うぅ、怖い……。騎士さんだもん、大丈夫だもん……。」

「この馬鹿うさぎ、まだ分かってねぇな?」

それから怖い顔したロイが淡々と説教し始めてしまい、僕はしくしく泣きながら聞くはめになってしまった。どうしてこんなことに……。



――――



「あ……。」

「あ、いっぱい喋る人だ。」

翌日の仕事中、外の門番をしている騎士と話していると、あのトレイル様とデリック様の親戚と言っていた狐獣人の人が荷物を抱えて出て来るところに鉢合わせた。その瞬間、門番騎士が僕の前に出て来てその人と対峙する形になった。

「な、何もしないよ、もう……。」

「ならばさっさと去れ。もうお前は騎士ではない。」

「えっ!?どうして?」

「……ウルル、ちょっと黙ってろ、な?」

「ごめんなさい……。」

何故か、門番騎士が困ったように僕を宥めてきて、シュンとして謝る。

「……一言だけ、謝らせてくれ。すまなかった。」

そう言って頭を下げたその人を睨む門番騎士に、僕は驚く。そうか、きっとこの二人は喧嘩したんだ。

「ねぇ、この人も謝ってるし、何があったか知らないけどお話してきたらいいんじゃないかな。」

だから、ここは仲裁してあげよう!とお兄さんになった気分でそう言ったら、二人揃って驚愕の顔を向けてきたためビクっとする僕。

「な、何?」

「いや、こっちが何?なんだが。お前、こいつに何されたか覚えていないのか?」

「えぇ、僕を巻き込まないでよ……。」

「巻き込まれてるのはこっち……。」

何故か頭を抱え始めた門番騎士と言い合っていると、何だ何だと騎士たちが出てきてしまった。

「あ?何でこいつがいるんだよ。」

「よく顔出せたな。」

何故か、狐さんを攻撃するような口調で言い始める騎士たち。狐さんは俯いて何も言わない。そんな状況に、僕は憤慨する。

「どうしてそんなこと言うの…。狐さんは仲直りしたくて来たのに、みんなひどい!友達があんなこと言われてるよ!どうして庇ってあげないの!」

「いや、だから俺に謝ってるんじゃなくて、お前に謝ってるんだって!」

「……いや、どういう状況だ?お前に謝りに?ウルルじゃなくて?」

「もうお前らややこしくなるから向こう行け!」

ぎゃーぎゃー言い合う僕たちに、

「何事ですか。」

呆れたように、こちらに歩いて来ながら言ったトレイル様。

「副隊長、どうにかして下さいよ……。」

困ったように門番騎士が言うと、ため息をついてこちらへ来なさい。狐さんを見て言ったトレイル様。

「ウルル君もですよ。」

そう言われ、僕は首を傾げるもトレイル様が言うならとテテテとついて行った。

「で、接触は禁止されていたはずですが?」

「も、申し訳ありません……。」

「そうなの?でもそれなら仲直りできないよ?」

「……ウルル君、君が何かすごい勘違いをしているらしいということは良く分かりました。」

何故か額に手を当てて項垂れてしまったトレイル様。




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