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のんきな兎が起きるころ

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「うぅ……ん。ん……?」

目を覚ました時、ベッドに寝かされていた僕。ここはどこだろうと分からなくなって、起き上がってみる。すると、

「ウルル!?目覚めたんだな、良かった……。」

丁度ロドニーが入って来た。

「うん?おはよう。ここはどこ?」

「おはようって……。お前、覚えてねぇのか?倒れてたんだぞお前。誰にやられたか覚えて……。」

「あぁ!僕のお菓子……!」

「……菓子?」

僕はわたわたと布団の中や、服の中、ベッドの周りを覗き込む。だが、貰ったお菓子がないことに気付いて絶望する。

「貰ったの、美味しいお菓子……。ない、僕のお菓子……。うぅ、貰ったのに、僕のなのに……。」

「……ウルル、まぁ、元気そうで俺は安心したよ。あ、今ロイ隊長が対応してると思うから、知ってるんじゃねぇか?ってか、どこか痛いところはないのか?」

そう言われ、僕はきょとんとロドニーを見上げる。痛いところ?わさわさと体中を触ってみると、頭の右側を押した時に痛みが走った。

「うぅ、痛い……。僕の頭、割れちゃう……。怖い、お薬飲む……。」

「おい、大丈夫か!?ここか?これは…たんこぶだな。薬は……いらねぇだろ、冷やせ。」

焦ったようなロドニーだったが、僕の頭を見て冷静にそう返してきた。

「たんこぶかぁ。じゃあ当たらないように気を付けないといけないね。当たったら痛いからね。」

「……なんかもう、力抜けるわ、お前と話してると。」

何故か溜め息をついて僕を見てくるロドニーは、それから困ったように笑った。

「他には痛いとこねぇのか?お前、誰に襲われたんだ。」

「えーっとね……。うーん、この辺がちょっと痛いような気がする……。誰に……。えっと、よく喋る人がいてね、その人がドンって。僕ね、お菓子持ってて、無くしたら駄目だと思ってギュってしてたのに……。」

僕のお菓子……。せっかく貰った僕のお菓子……。うぅ、楽しみにしてたのに……。

「よく喋るやつ……?そんなやついたっけな……。まぁ、デリック隊長が犯人見つけ出すだろうし、処罰はロイ隊長が下すだろうからいいけどよ……。それより、ウルル。お前まさか、菓子を持ってたから受け身も取れなかったのか?」

呆れたように言われ、僕はうーんと思い出す。

「両手でね、ちゃんと落とさないように持ってたんだよ。押されて、お菓子を落としちゃうって思って……。」

「はぁー……。お前は本当に……。」

ガクッと項垂れてしまったロドニー。首を傾げると、呆れたように笑われる。

「じゃあ、思ったより元気そうだから俺はお前が目覚めたことを報告しに……。いや、どうするかな。お前、菓子が落ちてないか探しに行きそうだな…。」

目を細めて考えるようにぶつぶつ言い始めたロドニー。

「ロイのところに行くの?僕も行く。ロイに聞いて、それでもなかったらデリック様にごめんなさいしなきゃ…。うぅ、美味しかったお菓子なくしちゃった…。」

しくしく泣きながら、ベッドから下りる。そして、僕を気にしながら歩くロドニーの後ろをトコトコ歩く。団長部屋まで送ってくれたロドニーに、部屋の中から声が聞こえるよ?と首を傾げる。僕入ったら駄目なんじゃない?と下がろうとすると、

「いいんだよ、お前は。ほら、行って来い。」

ロドニーに強引に背中を押されて、僕はそう言うなら大丈夫なのかなと思って、扉をノックした。そして、僕が開ける前にロドニーが扉を開いたため、そこから顔を覗かせる。

「……ロイ?」

そこから、すぐに来てくれたロイ。そして、お菓子がないことを訴えた。だんだんと悲しくなってきた僕は、最終的にぐすぐす泣きながらロイに抱え上げられる。

「貰ったお菓子だったの……。なくしちゃった……。」

「心配掛けさせるな、馬鹿うさぎ。菓子なら買ってやるって言ってんだろ。」

「でも貰ったものは大切にしないと駄目なんだよ……。うぅ……ぐすっ……。」

「ふっ、そうだな。……ウルル、何があったのか、話せるか?」

歩きながら、ロイは優しくそう言った。

「うん……?貰ったのは焼き菓子で……。」

「待て、違う、それじゃない。……はぁ、家に着いてからでいい。」

ロイが聞いたのに、ストップをかけられる。僕はまぁいいや、とロイの首にぐりぐり頭を擦り付けると、

「いっ……!うううぅ~……。」

忘れていた、たんこぶに当たってしまって僕は痛みに呻く。すると、ピタッとロイの歩みが止まった。くるっと方向転換すると、さっきまで僕がいた医務室に連れて来られた。何故か、ベッドに下ろされそうになって、僕は必死にロイにしがみ付く。

「やだぁ、どうして下ろすのぉ……。」

「ウルル、置いてかねぇからちょっと離れろ。」

「うぅ~……。」

「さっき痛いって言っただろ。どこが痛いんだ、見せろ。」

めそめそして下ろされまいと抵抗する僕に、ロイは優しい手つきで頭を撫でてくる。僕はそろそろと腕を解いて、ストンとベッドに座り込む。

「どこだ?……あ?ここか?……おい、どこだよ。」

痛みが出ないように、優しく撫でるように触れてくるロイの手に擦り寄って自分で頭を動かして撫でてもらうと、ロイが呆れたように目を細めて見てくる。でも撫でるのは止めずに、大きな手でそっと触れられ、ピタッとその部分で止まった。

「これか?……たんこぶだな。」

「そうなの、たんこぶできたの。痛いからね、押さないでね。」

「……はぁ、ったく。ウルル、打ったのはここだけか?」

「うーん、こっち側がちょっと痛い気がするよ。」

「見せろ。」

そう言うと、ロイは僕の服を容赦なくめくり上げた。脇腹に手を沿わされて少しくすぐったい。

「ふふっ、くすぐったい。」

「少し内出血してるな。身体軽いからこの程度で済んだんだろうが……。ウルル、襲ってきたやつのことは覚えてるか?」

「えっとね、よく喋る人だったよ。目が大きかった!」

「……そうか。お前が望むなら、そいつを再起不能にしてやってもいい。」

「えっ、怖い……。そんなことしちゃ駄目なんだよ……。」

「ウルル、お前は俺の番だ。人の番に手を出すってことはな、殺されたって文句言えねんだよ。」

「えぇ、そうなの?でも騎士の人だったよ?」

「……あぁ、そういうことか。ウルル、お前、相手が騎士だったから怖くねぇのか。」

僕の言葉に、ロイは少し目を見開くと呆れたようにそう言った。

「うん?騎士さんは怖くないよ。お届け物しに行った時ね、デリック様の部屋が分からなくて、泣いてたら優しい騎士さんが案内してくれたよ。」

「……そうか。いや、向こうも団長部屋は同じ位置にあるだろーが。どうやったら迷えるんだよ。」

そう言いながら、頬に降りてきたロイの手が温かくて僕は目を閉じて擦り寄る。

「ロイ好き……。」

「……お前、眠たくなってんだろ。」

だってだって、ロイの手温かいんだもん。僕は両手をロイに伸ばす。すると、ロイは当たり前のように僕を抱き上げてくれる。嬉しくて、兎耳がぴこぴこ動くがロイに片手で抑えられてしまった。

「視界に入ってきたら前が見えねぇ。下げとけ。」

そう言われて、僕はしゅんとして、兎耳が垂れ下がる。そして、家まで帰って来ると、ロイは僕を下ろすと真正面で抱き締めてきた。僕は反射的にロイの背中に腕を回す。ロイの身体は僕よりしっかりしているから、腕が回らないんだけどね。でもギュッとされるのは大好きだから、理由を考えるより先に嬉しさでいっぱいになる僕。

「……お前が目を覚まさない間、生きた心地がしなかった。」

静かにそう言ったロイに耳を傾ける。

「僕寝ちゃってたんだね。起こしてくれたら良かったのに。」

「頭を打ってる可能性がある以上、無理に起こすなって言われたんだよ。」

「そうなの?僕、何ともないよ。ちゃんとお菓子も守ったよ。……なくなっちゃったけど。」

「……菓子を守った?」

少し声色が変わったロイは、僕をそっと離すと見下ろしてきた。

「うん?そうだよ、お菓子をね、両手で落とさないようにギュってしてたんだよ。」

「……お前、まさか自分の頭より菓子を優先したのか?」

そう聞かれ、僕はロドニーともこのやり取りをしたなぁと思い出す。

「違うよ、お菓子を落とさないように守ったんだよ。」

「……この馬鹿うさぎ!襲われて自分の身より菓子を守るやつがあるか!」

「ぴゃあぁ!」

至近距離でガァっと怒られ、僕はロイの腕の中で飛び上がった。それから、中に入ると懇々とお説教される。自分の身を守ることを考えろだの、助けを呼べだの、走って逃げろだの、菓子を優先するなだの、色々と言われて怒られる。

「うぅ、怖い……。僕は怪我したのに、病人なのに……。ぐすっ……うぅ、もうお届け物しない、あっち行かない……。」

ソファに腰を下ろしたロイの上に乗っかって、首元に顔を埋めながらぐすぐすと泣く僕。

「……その菓子は誰から貰ったやつだ。そもそも、それさえなけりゃお前は両手が使えたんだろ。」

「うぅ、デリック様が、くれた……。お部屋でも、ご馳走になったの……。」

「話の流れでもそうだろうな。……デリックのやつ、一発ぐらい殴っときゃよかった。」

「デリック様は、美味しいお茶とお菓子くれたんだよ。良い人だもん、殴っちゃ駄目だよ。」

「お前は菓子くれるやつは誰でも良い人になんだろーが。それと、騎士なら誰でも良いやつだと思うな。お前が恐怖心を抱いてないのなら、それに越したことはねぇが。それでも信用はするな。何かされそうになったら俺を呼べ。」

僕の頬に手を当てて真剣な顔でそう言うロイに、少し首を傾げながら頷いた。

「……分かってるのか、分かってねぇのか。まぁいい、お前はもっと自分の身を守れ。」

「分かった!」

「そこで良い返事するのか……。本当、憎らしいくらい可愛いんだよなお前は……。」

脱力したように、ソファの背もたれにぐーっと背中を凭れさせ、頭をヘリに乗せて上を向いたロイ。ロイに抱き着いている僕は、少し離れてロイをまじまじと見る。僕は、そんなロイの頬に唇を押し付けてチュッと音を立てて離れた。

「えへへへ。ロイ好きー。」

「……お前、怪我人だと思って我慢してやってんのに。」

そう言うと、ボフッとソファに押し倒される。たんこぶがあるところはロイの手が添えられていて、当たらないようにしてくれた。それに気付くとキュンと胸が音を立てたような気がして、もっともっとロイが好きになる僕。

「ロイ、好き……。うぅ、くっつきたい、ギュってして……。」

「この馬鹿うさぎ、煽んじゃねぇ。」

そう言いつつも、抱き締めてくれてキスを返してくれる。でもそれ以上はしてくれず、やだやだと駄々を捏ねる僕を宥めながら、ベッドに入るまでずっと抱き抱えてくれたロイ。寝かされるまでにはすでに機嫌が直っていた僕。明日、仕事の休み時間で落としたお菓子を探しに行こうと思いながら、ロイに抱き着いて眠りについたのだった。





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