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のんきな兎はお届け物をする

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「それでね、朝から光飴食べたの。ロイがね、買ってくれて、今日もね美味しそうなものあるか見に行くんだよ。」

「何というか、平和な日常ですねぇ。」

今日は副隊長さんのお手伝いで、一人話し続ける僕に何だかんだと相槌をうってくれている。副隊長さんはフサフサの尻尾をゆっくり揺らしながら可笑しそうに僕の話を聞いてくれていた。

狐獣人のトレイル副隊長さんは、何かを書類に書き込んでいる。僕はその周りでお茶を入れたり、言われた書類を他のところへ届けたり、受け取ってきたりと動き回っていた。

「これを第1騎士団まで持って行ってくれますか。」

封筒を手渡され、僕は頷く。第1騎士団がいるのは今僕がいるところの横の建物だ。同じ造りをしていて、何度かお届け物を渡しに行ったことがある。第1騎士団の騎士であれば誰に渡してもいいという程度のお届け物係だったが。今回は、副隊長か隊長に渡さなければならないらしく。重要そうな硬めの封筒に僕は少し緊張する。

「あぁ、別に重要なものでもないので、気楽に渡してくれればいいですよ。」

そう笑って言われ、そうなのか、とその部屋を出て第1騎士団の建物へと向かう。こことは廊下続きになっていて、建物同士が繋がっている。そこを通って、中に入ると騎士たちとすれ違う。

「こんにちは。」

「こんにちは……?」

何故か二度見される。何だろう、何処かおかしいのかな。でも心当たりもないため、団長室を目指す。しかし、

「……あれ?ここはどこだろう。」

第2騎士団の建物とは造りが同じはずだが、部屋の用途は異なるらしく、僕は絶賛迷子になっていた。

「うぅ、ここどこ……。誰もいない、お届けできない……。僕はもうここから出られないんだ……。」

しくしく泣きながら彷徨う僕。すると、

「そこの者、止まれ。ここに一体、何の……?あぁ、第2騎士団の……。どうしたのだ、何故泣いている?」

偶然通りかかったであろう騎士の人が声を掛けてくれた。僕の顔を見てから視線が胸元に止まり、手に持つ封筒に視線を巡らせて尋ねてくれた。

「うっ、ぐすっ、これ、隊長さんか、副隊長さんに……。」

兎耳を垂らしてぐすぐす泣きながら伝えると、あぁ、と苦笑し、

「迷ったのだな。案内しよう、こっちだ。」

そう言って誘導してくれた。

「見慣れぬ者がいるから、驚いた。騎士団所属の証を持っていなければ、知らぬ者だったら追い出してしまっていたかもしれない。」

そう話されて、僕は皆が二度見していたのは僕が胸元につけてる証を確認していたのかと納得する。

「これね、ロイが申請してくれたの。絶対付けてろって言われたよ。」

「君のような子がここにいることに、どうしても違和感があるからな。それを付けていなかったために、危険な目に合ったのだろう。騎士として謝罪する。」

「うん?ロイが助けてくれたよ。他の人もね、助けてくれたの。僕何ともなかったよ。」

「……そうか、もう終わった話なのだな。」

責任感が強い騎士さんが多いなぁ、と思う僕。だってあの誘拐事件が起こったのは騎士のせいじゃない。悪いのは誘拐犯だし、何よりロイが助けてくれたから、もういいのだ。

「ここだ。」

その騎士はある部屋の前に止まってノックすると、声が返ってくる。そして、扉を開けると、

「おや?ウルル君、お久しぶりですね。どうしましたか?」

以前、わざわざ僕に謝りに来てくれた第1騎士団長のデリック様が僕を見て少し目を見開いたのが分かった。

「これをお届けに来ました。第2騎士副団長様からです。」

僕は、持っていた封筒と渡した。

「え、こんな重要書類を?……全く、どれだけここに来たくないのか。ありがとうございます。丁度休憩しようと思っていたので、お茶でもどうですか?」

連れて来てくれた騎士は退出し、僕だけになるとそう言われる。

「お茶ですか?飲みたいです!」

僕は喉が渇いていることに気付いて返事する。すると、棚から茶器を取り出し始めたデリック様。僕はぽかんとそれを見る。そして、茶葉を出すとお茶を入れ始めた。

「ここで飲むの?」

驚きで敬語が取れてしまった僕。

「ふふ、えぇ。こちらの方が、自分好みのお茶を入れられますからね。お茶菓子もありますよ。」

「わぁ……!」

取り出してテーブルに置かれたのは焼き菓子で、こんがりと焼かれたそれは透明の袋で梱包されており、見るからにお高そうだった。

「どうぞ、ゆっくりしていって下さい。」

そう言われ、僕は遠慮なくお茶を飲む。そして、焼き菓子を食べるとホロホロと口の中で解けて、甘さも相まってとても美味しい。美味しい美味しいと食べていると、そんな僕を見てデリック様は微笑む。

「ウルル君、君はロイと……。」

「失礼します!」

デリック様が何か言い掛けたかと思うと、突然の大きな声と共に扉が開かれた。

「コリン、返事を待ってから入りなさいといつも……。」

デリック様が顔を顰めて言った先には、デリック様と同様の狐耳が生えている騎士だった。少し吊り上がった目で印象はきつく見えるが綺麗な顔をしている人だった。その人は、視線を巡らせて僕を見るとズンズンと近付いて来た。

「いい身分ですね、たかだか兎の分際で。騎士でもないのに、こんなところで優雅にお茶ですか。ロイ隊長もこんな弱小種族のどこがいいのか……。あなた、騎士団の足を引っ張っていることを自覚しているんですか?」

僕を見下ろしながら、怒涛に言葉を浴びせられる。僕はぽかんとして見上げた。

「コリン、失礼が過ぎますよ。」

険しい顔でデリック様がそう言った。

「隊長、こんな足手纏いがロイ隊長と一緒にいるなんて、納得できないです。」

「……コリン、いい加減にしなさい。」

低い声で返すデリック様に、コリンと呼ばれた騎士はうっと言葉を詰まらせると、僕を睨み付けてきた。

「……お前みたいなの、僕は絶対認めない。」

吐き捨てるようにそう言うと、音を立てて出て行った。僕は始終、ぽかんとしたままで、ため息をついたデリック様にハッとする。

「申し訳ありません、不愉快な思いをさせましたね。あれが言ったことは気にしないで下さい。」

申し訳なさそうにそう言われて、僕は頷く。

「うん、何だかすごかったね。すごくいっぱい喋ってたよ。僕びっくりしちゃった。」

「……ふふっ、そうですね。」

何故か、僕が返した言葉にデリック様は笑うと、残りのお菓子を勧めてきた。僕はありがたく、残りのお菓子も美味しい美味しいと食べる。食べ終わると、僕の任務は終了したのでデリック様に手を振って部屋を出た。余っていたお菓子もお土産で貰い、両腕に抱えながら来た道を歩く。そして第2騎士団の建物と繋がる廊下が見えてきた時、

「おい!お前!」

ついさっき聞いた声に呼び止められる。

「うん?」

振り向くと、さっきたくさん喋っていた騎士が仁王立ちで立っていた。

「お前、さっさとロイ隊長から離れろ!お前みたいなやつ、あの人に相応しくないんだよ!」

怒鳴るように言われて、僕はぴゃっと飛び上がる。

「いいな、さっさと離れろよ。離れないなら、ただじゃ済まさないからな!」

「ロイから離れるの?今は一緒にいないよ?」

「違う!ロイ隊長と別れろって言ってんだよ!」

「どうして?僕ロイ好きだし、ロイも僕のこと好きなの。好き同士は一緒にいるんだよ?」

「だから、お前はロイ隊長に相応しくないんだよ!」

「うん?相応しいってなぁに?ロイが決めることだよ?」

「……っ!うるさい!ロイ隊長と別れろ!お前なんて足手纏いなんだよ!」

そう言って、その人が僕の身体をドンッと強い力で押してきて、僕は突然のことに対応する術もなく。お菓子を持っているから何かに掴まることも出来ずに、身体が傾いて壁に頭をぶつけたかと思うと、床に全身を叩き付けられる。全身に衝撃を受けて、僕はうぅ、とその場で呻いた。

「なっ、う、あ、ぼ、僕は悪くない……!」

焦ったような声が聞こえて、バタバタと走り去って行く音が耳に入ってくる頃には、ズキズキする頭に意識が遠退いていったのだった。



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