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のんきな兎は甘い物が好き

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発情期が無事に終わり、ロイから許しが出て仕事に復帰する僕。

発情期の間、家にいたけどやることがなくて、ロイの助けになるかなと買い物に行けば街の人に帰るように言われるし、薬草を届けに行こうとすれば同様に見掛けた街人に帰るように言われる。ロイに見掛けたら帰らしてくれと言われていたらしい。僕元気なのに…と腑に落ちないでいると、それが顔に出ていたんだろう。帰ってきたロイに、すぐに外に出たことがばれて組み敷かれてしまった。それも、ねだっても全然イかせてくれなくて、さんざん我慢させられて、ぐすぐすと泣いた僕。もう外に出ないことを約束させられ、やっと達せた時は、気持ち良さに怖くなってまたシクシク泣いた。そんなこともあり、僕はだらだらと家にいたのだが、やっと熱が完全に引いたことを確認できて、引き込もり期間が終了したのだ。

「お掃除だ~。」

残っている分の騎士寮の掃除をするために道具を持って歩く。久しぶりのお外、楽しい。庭には出ていたが、日向ぼっこをしていたら寝てしまい、帰って来たロイに怒られてまたぐすぐす泣いた僕。あれ、僕怒られてばっかりだ……。

考えながら歩いていると、騎士寮に着く。さて、と僕は指定されている部屋に入っては掃除をしていく。

「これは、良いものだ……!」

その部屋ではお菓子だけが綺麗に整頓されており、その中でもケーキが透明のガラスケースに入れられていた。近付くとひんやりしているため、何か施しているのだろう。美味しそう。ここの部屋の人は、お菓子に並々ならぬ情熱を持っているに違いない。ゴミや洗濯物は散乱しているが、お菓子コーナーだけ綺麗だった。

「おいしそう……。」

じーっと見ながら、手を動かして掃除を完了させる。ここの人は誰だろう、お友達になって一緒に美味しいスイーツを食べに行きたいな。ロイはあまり甘い物が好きじゃないらしいのだ。僕も友達が出来るかもしれない、とわくわくしてきた。

他の部屋も終わらせると、掃除道具をしまう。そして、あの部屋の主は誰だろうと、突き止めるために僕は騎士寮の下のところで座って待ってみた。

「あ~、疲れた。飯食いに行くか?あの飲み屋……!?」

「明日非番だし、飲みに……!?」

バラバラと帰ってきた騎士たちは、座り込んでいる僕を視界に入れると、ギョッとしたように二度見される。そして、

「え、何、どうしたんだ?」

「ウルル、発情期終わったんじゃなかったか?」

「気分悪いのか?」

それぞれ心配されてしまった。

「ううん、違うよ。みんなお疲れ様。あのね、僕のお友達候補を待ってるの。」

簡潔に言ったつもりだが、騎士たちはみんな首を傾げてどういうことだと僕を見ている。

「えっと、僕はお菓子が好きで、お友達になったら、一緒に出掛けてくれるかなって。」

だから、待ってるの。と笑顔で答える僕に、騎士たちは顔を見合わせる。

「それ、隊長は知ってるのか?」

「うん?ロイは甘い物食べないからね、付き合わせたら可哀そうでしょ?」

「えーっと、話が噛み合ってなくねぇか?」

何やら、騎士たちがごにょごにょと話し始めてしまった。他に帰ってきた騎士も、何だ何だと集まってきてしまった。どうしてこんなに大事のようになっているんだろう、と僕も首を傾げる。

「……何やってんだ、お前ら。」

すると、誰かが呼んできたらしくロイが来た。そして、座り込む僕を見下ろして呆れたように声を掛けられる。

「ウルル、何してる?」

「お友達候補がね、いることが分かったの。でも誰か分からないから、待ち伏せしているの。」

そう言うと、額に手を当てたロイが、盛大に溜め息をついた。集まってきていた騎士たちに、戻っていいと言い放つと、途端に人がはけていく。あの部屋に入る人がいるかキョロキョロ追ってみたが、その中にはいなかったらしく、シュンと兎耳が垂れ下がる。

「ヒューゴを探してんのか?」

「ヒューゴ?あのお部屋の人のこと?」

「……ウルル、もう一度聞くが、何してんだ?」

訝し気に聞いてくるロイは、一つ一つ質問してきて、僕はそれに答えていく。

「つまり、部屋で菓子を見つけたから、その部屋主に甘いものを食べることに付き合って欲しくて、誰が部屋主か探してたんだな?」

「そうだよ。お友達になれるかもしれないでしょ?」

「……どうしたらそういう思考になって、そんな奇行に走れるんだお前は。」

そう言うと、ロイは帰るぞと言い出した。

「でも、まだその人帰ってきてないし、どんな人か分からない……。」

「そんなもんは俺が付き合ってやるから、帰るぞ。」

まさかの申し出に僕はピンと兎耳が立った。

「本当?本当に?一緒に行ってくれるの?」

嬉しい!と言わんばかりにロイに飛び付く僕。

「仕方ねぇ、他のやつと行かれるよりマシだ。いいか、ウルル。今後、俺以外のやつと出掛けたりする時は事前に言えよ。」

「うん?分かった!ロイと行く!」

「……分かってねぇだろお前。はぁ。」

飛び付いた僕を軽々と抱き留めたロイに言われるが、僕はロイと一緒に出掛けられることが嬉しくてあまり聞いてなかった。

「いつ行くの?明日?」

「明日は仕事だろーが。」

「じゃあ明後日?」

「落ち着け、明後日も仕事だ。」

「じゃあ今日?」

「何でそうなんだよ、今から…。あぁ、別に今からでもいいな。今日は外で食うか。」

そう言われて、僕は嬉しくてロイにまとわりつきながらぴょんぴょん跳ねる。そんな僕に落ち着けと額を弾かれたかと思うと、腰を抱かれる。ギュッとロイに密着するように引き寄せられて、僕は横からロイに抱き着く。

「嬉しい!ロイ好き!」

そう言いながらロイにべったりする僕は、街に出ると周りから何故か生温かい目で見られて首を傾げる。

「ウルル、発情期終わったんだな、良かったな。」

「ほら、野菜持って行きな。ロイ隊長、大変だったねぇ。」

「隊長さん、これ良かったら持って行ってくんな。番がウルルじゃあ心配も尽きねぇだろ。」

何故かロイが凄く労わられている。どうしてだろう。そして、何故か僕には一人で外に出るなよとか、何かあったらまずはロイに言うようにとか、注意事項を言われる。

「みんなどうしたんだろうね。僕もう大人なのにねぇ。」

発情期だってきたんだから、と胸を張る僕を何とも言えない顔で見降ろしてくるロイ。僕はそんなロイになぁに?と首を傾げるが、何でもねぇよとため息をつかれる。

「溜め息ついたら山のお化けが追い掛けてくるんだよ。」

「あ?」

「山のお化けがね、追い掛けてくるんだよ。」

「聞こえなかったわけじゃねぇよ。何だその山のお化けってのは。」

「うん?何だろう……。小さい頃からそう言われてきたよ。何かは分かんない……。」

そう言うと、ロイは少し笑った。そして、何やら美味しそうな匂いを漂わせる建物があり、その中へと誘導される。

「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ。」

「あぁ。」

「こんばんは。」

ロイの身体に張り付いて少し顔を隠しながら挨拶した僕を見て微笑んで会釈してくれた店員さん。ロイは来たことがあるのか慣れた様子だ。席に案内されると、

「適当に……いや、野菜中心のものを頼む。」

店員さんにそう言ったロイが座ったため、僕も座る。

「おい、何してんだ……。横に座れ。」

よいしょとロイの膝に乗ろうとしたらそう言われ、しゅんとして椅子をずりずりと寄せて、ぺったりくっついて座る。

「お前な、あんまり可愛いことすんな。連れ帰るぞ。」

頭を大きな手で引き寄せられ耳元でそう言われて、僕はピンと兎耳を立たせると揺らし、えへへとロイを見上げる。可愛いだって、嬉しい。

「ロイ好き、大好き。」

にこにこと見上げる僕に、

「……分かってねぇなこれ。はぁ、あんまり外に連れ出すもんじゃねぇな。」

ロイはそう言うと、スルッと僕の兎耳を撫でて苦笑した。そして、しばらくすると美味しそうな匂いがするお皿を持って店員さんが戻って来た。

「ふわぁ……。美味しそう……。」

野菜が丸ごとそのままの形で入っているスープは、スプーンを入れるとホロリと崩れて柔らかく、野菜のうま味が強い。葉野菜のサラダはどれもシャキシャキで美味しい。野菜ステーキ!美味しい!

「美味しいしか言ってねぇな。」

「美味しい!これ美味しいよ、これも!」

「分かった分かった、ゆっくり食え。」

口元についたソースを指で拭ってペロッと舐めとったロイに、僕の顔は熱くなる。

「ロイは食べないの?」

「食ってんだろ。」

ロイには肉料理が目の前に置かれているが、さっきから肘をついて僕を眺めており食べている様子はない。僕はいつ食べるんだろう、と思いながら美味しい美味しいと食べ進めた。そして、ある程度お腹も膨れてきた頃、ロイは自分の分を食べ始めた。もともと、僕とは顎の力も違うこともあり、食べるのが早いロイ。さっさと平らげると、店員さんを呼んだ。

「お待たせ致しました。」

運ばれてきたのは、たくさんのフルーツが乗ったケーキ。

「わぁ、きれい、美味しそう!」

綺麗に盛り付けられたフルーツに、甘い匂いが漂ってきて嬉しい気持ちになる。切り分けると、僕の前に置いてくれた

「わぁぁぁ……!」

ケーキだ、ケーキだ、と喜ぶ僕を可笑しそうに見るロイに聞かれる。

「そんなに嬉しいのか?」

「嬉しい!」

だって、お菓子は高価だし、ケーキなんてお菓子よりももっと高いのだ。薬草を売っているだけでは、日々の食費で消えてしまう。つまり僕にとっては贅沢品なのだ。それを一生懸命説明する僕を見て、

「これぐらい、何個でも買ってやる。菓子も家に常備しとくか?」

目を細めて言われ、僕はなんてことだ、とあまりの贅沢三昧な発言に呆然とする。

「で、でも、お菓子は高級品……。」

「俺がどんだけ稼いでると思ってんだ。それぐらい買っても支障ねぇよ。」

「じゃ、じゃあ、光飴が欲しい。あれをね、瓶に入れておくとね、見る度にまだあるなぁって嬉しくなるの。光飴が欲しい!」

「何だよそれ、可愛すぎんだろ……。」

僕が必死に頼み込むと、ロイは額に手を当てて仰ぐように上を向いてしまった。

光飴はコロコロとした甘い味の飴だ。光に晒すとキラキラと光り、一つ口に含むと甘味が広がってとても幸せな気持ちになるのだ。瓶に入れておくと、様々な色に光って綺麗な上、あとどれくらいあるのかすぐに分かる。それが欲しい!とロイにおねだりする。

「……あんなもん、子どもの小遣いでも買えるだろーが。あー、本当にどうしてやろうかこの馬鹿うさぎ。」

「ロイ、聞いてる?どうしたの?光飴はだめ?」

「はぁ……。そんなもん、いくらでも買ってやるよ。」

やっとこっちを見たロイは、店員さんを呼んだかと思うとケーキを下げさせた。僕は、まだ食べていないケーキを下げられてショックに打ちひしがれる。だが、戻って来た店員さんの手には箱が。ロイはそれを受け取ると、僕の腰を抱いて足早にその店を後にしたのだった。

「ロイ、ロイ、その箱は何?甘い匂いがする。お土産?」

さっきのケーキと似た匂いを感じてロイに気を逸らせながら聞くと、

「あぁ、さっきのケーキを包んでもらった。家で食え。」

そう返されて僕は一気に気分が上がる。僕のケーキ!ルンルンでロイと帰った僕。箱自体が冷やされており、家についてからもケーキは冷えていて、ロイがお皿に乗せてくれる。ロイが座り、

「ほら、来い。」

そう腕を広げてくれるから、僕はいそいそとロイの膝に乗る。あー、と口を開けると食べさせてくれる。ケーキの甘さが口の中でとろけていく。嬉しい嬉しいと兎耳をぴこぴこ動かしているとロイに甘噛みされて飛び上がる。

「くすぐったいんだよ。」

笑いながら兎耳にキスされて、僕は何とも言い難い感情が押し寄せて来てロイにギュッと抱き着いた。

「あ?もういいのか?」

まだ少しケーキが残っているが、もうお腹いっぱいだ。ロイは、僕を片手で抱え上げるとケーキが乗っている皿ごとまた箱に入れた。そして、そのまま一緒に浴室へ。ベッドに運ばれる頃にはもう僕はへとへとで、ロイの匂いに包まれて眠りについた。

そして、次の日に帰るとお届け物がきた。僕宛てだったため開けると、透明なガラス瓶に入れられた光飴が入っており、僕はロイに飛びついたのだった。






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