のんきな兎は今日も外に出る【完】

おはぎ

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のんきな兎は出歩く

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「え、僕今日休みなの?」

「そうっすよ。来ないな~って思ってたら隊長がさっき来て、発情期だから休ませるって。ウルル君、来ちゃったんすね……。」

のろのろと辿り着いた仕事場で、見掛けたソニーに声を掛けると驚かれてそう言われる。

「えーっと、確認するけど、ウルル君、今発情期なんすよね?」

「うん?そうだよ。でもロイの薬飲んだから落ち着いてるよ。」

「いや、それただ単に薬が体に残ってるだけで、切れたらまた発情しちゃうやつだから!」

そう言われたため、帰ろうとすると止められる。

「駄目っすよ!ふらふら何処か行っちゃったら、それこそ危ないっす!もうここに居て下さい!」

そう言われて医務室に押し込まれた僕。でも別に何ともないんだけどなぁ、と思いながら、お昼ご飯を食べていないことを思い出して食堂へと向かう。

「あれ、ウルル君、今日休みじゃ……?」

「ウルル君、発情期だって聞いたけど……?」

すれ違う騎士の人たちが戸惑うような目で見てきてはそう聞いてくる。

「こんにちは。休みだったけど来ちゃったの。これからご飯食べに行くの。」

返しながら、食堂に着く。

「あれぇ、ウルルちゃん。休みじゃなかったの?」

食堂の人にも聞かれて、僕は同様に返す。そして、野菜スープを注文してはふはふ食べていると、身体が温まってきた。

「熱い……。」

ぽろっと溢した言葉に、周りの騎士がバッとこちらを振り向いて僕はビクっとなる。

「やっぱ治まってないんじゃん!」

「帰ろう、送るから!いや、やっぱ駄目だ、まだ隊長帰ってきてない!」

「医務室今誰も使ってねぇよな、そこに押し込んどこう!」

あれよあれよと集まってきた騎士の人たちに担がれて、医務室に押し込まれる。僕はぽかんとしたまま、ぺいっと放り込まれた医務室で唖然とする。

「僕、何も悪い事してないのに……。食べてただけなのに、うぅ……。お外怖い、もう食堂行かない……。」

何もしていないのに、何故こんな扱いをされるのか分からず、しくしく泣きながらソファで丸まる。すると、トントン、と扉をノックされた。

「ウルル君、隊長に連絡したから……。って、どうしたんすか。」

泣いている僕を見て驚くソニー。

「うぅ、食堂でご飯食べてたら、ここに放り込まれたの……。」

ぐすぐすしながら言うと、

「いや、何出て来てんすか!も~そりゃ放り込まれますって……。ロイ隊長の匂いがついてるから、間違いを起こすやつはいないと思いますけど、いつ薬が切れて発情しちゃうか分からないんすから……。」

呆れたように言われて、危機感を持って下さい!と怒られる。

「うぅ、でもお腹空くんだもん……。」

「それぐらい運んできますって。はぁ、本当にもう、目が離せない子っすね。」

苦笑し、ロイと連絡が取れたらしい。帰って来てる最中だったらしく、そのままこっちに来るのだとか。

「ロイ、護衛は……?」

「隊長は問題がなければ途中帰還の予定だったんすよ。新人も配置につけてたから、一応確認がてら付いて行ってくれただけっすから。」

そう言われて、納得する。そうか、ロイはすぐに帰ってくる予定だったんだ。

「あのね、僕ロイの番になったよ。ギュってしてくれるの。ロイ格好良いでしょ?それでね……。」

「あーはいはい、また後で聞きますから。……そんなしょんぼりしないで下さいよ。今はとりあえず、隊長が来るまでここから出ないこと!いいっすね!?」

何度も念押しされて、僕はしょんぼりしながら頷いた。もともと体が怠かったこともあり、お腹も満たされた今、また眠気が来ていつの間にか寝てしまっていた。



―――



「……い、おい、起きろ!この馬鹿うさぎ!」

「ぴゃあ~!」

突然耳に入ってきた大きな声に、僕は飛び起きた。

「うぅ、何、怖い、ぐすっ……。」

「怖いじゃねーよ馬鹿!何で出て来てんだ、家にいろっていっただろーが!」

ガァっと上から威圧されて、僕はビビビと震えて固まる。

「だって、だって、仕事が……。」

「それに関しては伝え忘れてた俺が悪かったけどな、発情期中は休むのがマナーだろーが。」

「うぅ、仕事だと思ったんだもん……。ロイ怒った、怖い……。」

めそめそする僕に、ため息をついたロイ。しゃがみ込むと、両腕を広げる。僕はそれを見てロイの胸に飛び込んだ。

「はぁ、この馬鹿うさぎ……。熱はねぇな?」

「んっ。」

背中をスルッと撫でられて思わず声が出た。そんな僕に一瞬動きを止めたが、そのまま抱き上げられる。

「落ち着くまで仕事は休みだ。初めての発情期なら、3日は様子見だな。」

そう言われるが、僕はロイに抱き着いてスリスリと頭を擦り付けるのに忙しくて聞いていない。ギュ―と抱き着いていると、いつの間にか家に帰っていた。そして、やはり身体が熱くなってきた僕は、ロイを求めておねだりする。触れられるところ全てが気持ち良くて、何度も達する内に熱が治まっていった。




「これ、兎獣人用の発情抑制剤だとよ。」

ベッドで丸まる僕に、ロイが渡してきた薬。黒色の小さく丸い薬。あ、そうだそうだ、これだ兎獣人の薬は。

習ったことがあり、実際に見たこともある。僕も必要になったら買わないとなぁ、と思っていたのだ。ちなみに、育てている抑制作用のある薬草も黒い。そのままギュッと固めたようだなと思っていた。

「僕これ知ってるよ。育ててる薬草をギュってしたやつだよ。」

「知ってんなら買っておけよ……。どうしてお前はそうなんだ。兎獣人は他の奴と比べたら発情期の頻度も多いっていうじゃねーか。ならいつ始まっても対応できるように常備しとくべきだろ。」

「だって発情期は痛いものじゃないって言ってたから……。」

痛いこととか苦しいことに関しては敏感だから調べて対応方法を自主的にも調べる種族だけど、発情期に関しては最悪篭ってしまえばいいという認識があるのだ。

「攫われたりする可能性高い種族が、どうしてそんなのんきな認識してんだよ……。」

頭を抱えてしまったロイに、僕は首を傾げる。

「だって、僕らは基本的に群れで生活するし、あんまり独り立ちしないし、独り立ちしたら、騎士とか衛兵とか、捕まえるお仕事をしている人の近くに住みなさいって言われてるよ。」

「お前、何も当てはまってねぇじゃねーか。」

「あれ、本当だね。不思議だねぇ。」

「……何度も言うが、本当に良く無事に生きて来れたな。」

横目で見下ろされて、僕はえへへと笑う。すると、褒めてねぇよと苦笑された。

「ウルルは何で一人暮らしをし始めたんだ?」

僕の横に寝転ぶと、肘をついてそう聞かれる。

「えっとね、一人のお部屋が欲しかったの。兄弟が10人いるんだよ僕。」

そこから、僕の独り立ちの話を始める。

僕は10人兄弟の上から7番目で生まれた。裕福ではないが貧乏でもない家で、それなりに楽しかったけど、一人部屋というものに憧れがあった。小さい頃に友人の家に遊びに行った時、その子だけの部屋があると聞いて驚いたのだ。それから、どんどん独り立ちしたい欲が高まっていったのだ。

「でも一人で暮らすには色々と物入りでしょ?お仕事どうしようって思ってたら、薬屋さんが薬草育ててるなら買い取るよって言ってくれたの。あ、そうだそうだ、なら家は近い方がいいねってあそこに住むことになったんだ。」

思い出してすっきりする僕。

「確かに仕事場に近いと楽だけどな、お前の場合は優先することが間違ってんだよな…。」

だが、そんな僕とは裏腹に呆れたような顔をするロイ。

「今更だけどな、一人で暮らすのが夢だったんならここで俺と暮らすことに抵抗はなかったのか?」

「うーん。僕、みんな一緒に暮らすことに慣れていたから、やっぱり一人でいるのはちょっと寂しかったの。」

だから、ロイが同居人になってくれるって分かった時は嬉しかったの。と続けた。そんな僕に、目を細めて優しく頭を撫でてくれる。

「そうか、じゃあ問題ないな。お前の向こうの家は売却するぞ。」

そう言われて、僕は少し考えるがもう僕も向こうの家に戻る気はなかったため頷いた。

「あ、でも僕の荷物……。」

「それはお前がこっちに来た時に全部運んで貰っただろ。もうあの家には何も残ってねぇぞ。」

「そうなんだ。じゃあ大丈夫だね。」

「……お前、自分の持ってる物把握してないだろ。」

「把握してるもん。薬草でしょ、ジョウロでしょ、あとは生活品。」

「先に薬草とジョウロが出てくるのは何でなんだ。」

そう言われても、僕に必要だったのは薬草と水をあげるためのジョウロだったし、それがなければ生活品も買えないわけだし……と考えていると、兎耳をするっと撫でられる。

「ふふ、気持ち良い……。ロイ、もっと触って……。」

ねだるように見上げると、ロイは口角を上げてその顔を近付けてくる。合わせられる唇に、目を閉じて受け入れ、もっともっとと身体を寄せるとロイはそれに応えるように僕に覆い被さってきたのだった。





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