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のんきな兎は安心する
しおりを挟む「あ、隊長!」
しばらくしてから、誰かがそう言ったのが聞こえ、僕はバッとその方へ顔を向けた。すると、
「帰れるやつは帰れ。歩けねぇやつは医務室に運べ。入らねぇなら、騎士寮に……うわっ!」
ロイが騎士たちに言いながら入ってくるところで、僕はロイの姿が見えた瞬間に跳ねるようにして飛び付いた。
「うわっ!……ちょっ、おい、ウルル!」
僕は久しぶりの待ち焦がれたロイの首に腕を回して、首に頭を擦り付けると、そのままロイの頬にチューっと唇を押し付ける。ロイは僕を難なく受け止めるも、焦ったようにそんな僕を止めようとする。だが、まだ全然ロイを堪能できていない僕はしがみついて離れない。
……ロイだ、ロイだ、ロイだ!!
嬉しくて嬉しくて、全身で嬉しさを表出する僕。だが、
「落ち着け!!」
と、ロイに引き剥がされてしまった。
「どうして、ひどい……。僕ずっと待ってたのに。寂しかったのに……。」
ギュッてして欲しいし、頭も撫でて欲しいし、名前だっていっぱい呼んで欲しい。仕事だって頑張ったから、褒めても欲しい。それなのに、ロイは離れろって言う……。
僕は悲しくなって、ポロポロと涙は零れ、兎耳は垂れ下がって、
「うっうっ……うぇぇぇんっ……!」
子供のように泣きじゃくった。
「ちょ、おい、ウルル……!」
ロイの長い尻尾が揺れ、困っているのが分かるが、悲しい気持ちでいっぱいの僕は感情をコントロールすることが出来ず。受け入れてくれないならと、ロイから離れようとするが、両腕を掴まれてそれも許されず。
「うぅー……ぐすっ……。」
いやいやと泣きながらロイから体を背けようとすると、
「ウルル、どうしたんだ、どこか痛いのか?」
見当違いなことを言ってくるロイに、余計に悲しくなる僕。
「あー、隊長。ウルル君、ずっと隊長のこと心配して、寂しくなりながらもずっと帰ってくるの待ってたんすよ。だから、今日はもう二人で帰って下さい。今、急ぎの用事ないっすよね?」
ソニーがそう言うと、ロイはどこか呆然としながら僕を見た。そして、後は任せた、と騎士に伝えると僕の腕を掴んだまま足早に家へと向かった。僕は、急ぐロイに引っ張られて足をもつれさせながらも何とかついて行く。急いでいる様子のロイは、家に入った途端に僕の腕を引き寄せると、力いっぱい抱き締めてきた。
「う、うぅっ……うわぁぁん……っ!」
僕は、ロイにしがみついて泣き出す。さっきはギュッてしてくれなかったのにとか、僕がどれだけ寂しかったと思っているのとか、色々言いたいことはあったけれど。ちゃんと帰ってきたロイに安心して、泣きじゃくる僕。
「悪い、まさか心配してくれてるとは思わなかった。」
抱き締められながら、そっと頭を撫でられる。どこか、戸惑うような声に、僕はスンスンと鼻を鳴らしながら首を傾げる。兎耳をペチペチとロイの頬に当てると、苦笑し優しく撫でつけられる。
「いや、自慢じゃねえが、自他共に自分が強者である自覚があるんだよこっちは。」
そう振る舞うのも必要だからな、と続けて言われるが僕はよく分からない。まだグスグスと泣く僕を笑ったロイは、
「だから、まさか心配してくれてるとは思わなかったんだよ。悪かった、ありがとうな。」
僕の目から流れる涙を指ですくってくれた。
「すぐにギュッてしてくれなかった……!」
「……いや、悪かったけどよ、このタイミングで言うことかそれ。」
うるうるする視界の中で物申した僕。そう返してきたロイに、ヒョイっと抱き上げられると家の中へと入っていく。
「とりあえず、腹減った。なんかあったか?」
「シチュー作ったよ、ニンジンの。ロイが作ったのなくなっちゃったから。」
僕はロイにしがみついたまま、グリグリと首に頭を擦り付ける。
「あー、ニンジン買ったのか。…誰にも声掛けられなかったか?」
「ロイが魔物の討伐に行ったって聞いたよ。僕、何も聞いてなかった。ロイ、帰って来なかった…うぅ…ぐすっ……。」
また泣き始める僕に、
「緊急だったから、まさか呼び出されてそのまま向かう羽目になるとは思わなかったんだよ。この辺のやつらとはもう顔見知りだろ?だから、数日ぐらい俺がいなくても大丈夫だと思ったんだよ。」
そう言いながら、鍋の蓋を開けるロイ。
「お、美味そうじゃねーか。……もう泣くなよ、悪かったって。ちゃんと帰ってきただろ?」
優しい口調で言われ、甘やかされている感覚に僕は少し気分が良くなって小さい尻尾がパタパタ揺れる。だが離れない。もっと甘やかして欲しい。だが、その思いも虚しく下ろされてしまい、僕はまたグスグス泣きながらロイに引っ付く。ロイは自分の分と僕の分のシチューをよそうとテーブルに置く。そして、離れない僕に、
「……今日だけだぞ。」
そう言い、膝に乗せてくれた。僕は兎耳を揺らして嬉しい!と表出しながら、あーと口を開ける。そんな僕を見たロイは、
「まさか食わせろって言ってんのか?お前、それがどういう意味か……知らねぇよな、はぁ。」
……?どうしたんだろう、意味って何?僕だって誰にでもこんなことしないよ。あなたのことを信頼してますってことだよ。あとは甘やかしてくださいって意味もあるよ。そう思いながら、僕は大人しく待っていると、ロイはしばらく項垂れた後に覚悟を決めたように食べさせてくれた。満足した僕が、同じようにロイに食べさせてあげようとしたが、何故か断固拒否されてしまった。
「疲れているでしょ?」
「疲れてはいるが、世話焼かれる程じゃねぇ。」
「でも疲れてるでしょ?」
「……とにかく、駄目だ。絶対に入って来るなよ。」
背中を流そうと、浴室に向かったロイに付いて行くと、そう言われて締め出されてしまった。そして、僕もロイの後にシャワーを浴びて出る。今日は絶対一緒に寝るの!と説得して、折れたロイと一緒にベッドに行くと。
「おい、こりゃ何だ?」
「あのね、ロイの匂いが薄くなってたから、ロイの服を被って寝てたの。」
ベッドにロイの服が散乱しているのを見て聞かれ、そう答える。すると、スルッとロイの手が僕の兎耳から頬へと手を滑らせて撫でられる。何処か熱を帯びたようなロイの視線に、僕はムズムズして目を逸らした。そして、ロイが服を片付けようとした時。
「……ウルル。この汚れは何だ?シチューの匂いがするんだが。」
「あ。えっとね、ここでシチュー食べた時に溢しちゃった……。」
ピシッと固まったロイに、僕はそういえばと思い出す。洗濯したらロイの匂いが消えちゃうと思ってしないままだった。おろおろとそう返すと、
「この馬鹿うさぎ!お前これ、式典用の騎士服じゃねーか!」
「うぅ、ごめんなさい~!」
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「まぁいい。今回は俺も悪かったからな。……まとめて洗濯だなこりゃ。」
そう言い、服を落としていくと、ベッドに寝転ぶ。僕は泣きながらロイの横に潜り込んだ。そんな僕に苦笑したロイは、そのまま好きなようにさせてくれる。僕はロイに引っ付いて、久しぶりの温もりを感じながら安心して眠るのだった。
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