5 / 39
のんきな兎はぺったりする
しおりを挟む「ウルル、もうそれはいいだろ…。」
そう言われるが、僕はふるふる首を振ってロイのローブを被る。ロイと住む家に帰ってきて、僕はロイのローブを被ったままロイのベッドで丸まっている。そんな僕を見て、ロイはローブを返せと言ってくる。全身を安心する匂いで包まれている今、僕はここから抜け出したくなくなり断固拒否している状況。
「……じゃあ、ギュってして。」
ローブは返すから、代わりにロイに抱き締めて欲しいと言うと、
「……分かった、そこから降りたら抱きしめてやるから……。」
そう返される。どうして?ここはロイの匂いがいっぱいだから、ここで抱き締めてくれたらもっともっとポカポカするのに。さっきから、この問答を繰り返している僕たち。
「いや駄目だろベッドの上は……。」
ボソボソとロイが何かを言っているが、抱き締めてくれる気配はない。何が駄目なんだろう、さっきはしてくれたのに。もぞもぞと良い位置を探して丸まっている僕に、
「ウルル、飯は。」
そう言われてピョコンと顔を出す。
「ご飯!そうだ、僕お昼ご飯食べてないんだった。何も持ってなくて、帰り方も分からなくて、泣いてたら攫われて……。」
思い出してジワジワ涙が出てくる。そんな僕に、
「悪かったな、うちのやつがお前を追い出したって聞いた。丁度、張っていた人身売買グループが予想していたより早く動き出して、待機するように言おうと思ったらお前はいないし。本当に無事で良かった。」
ベッドに腰掛けて優しく頭を撫でられる。僕はその手に擦り寄って、もっともっとと頭を押し付ける。
「一応、雑用といっても騎士団所属になるんだ。その証の申請をしていたんだが、時間が掛かっててな。それを持っていなかったから勘違いしたんだろう。俺の落ち度だ、悪かった。」
謝られるが、それよりもちゃんと頭を撫でて欲しい僕。兎耳を倒して撫でて撫でてとグイグイ前に出る。
「ロイ、もっと撫でて。あとギュッてして。」
どうしてもあの安心感を得たい僕に、ロイは話を聞いてないな?と呆れた顔をした。そして、一度深呼吸をしたロイは、腕を掴んで僕をベッドから引っ張り出した。そしてロイの大きな身体で包み込まれると、そのまま抱き上げられてスタスタ歩き始める。
「飯作ってやるから、ちょっと待ってろ。」
と椅子に下ろされてしまう僕。さっさと離れてキッチンに行くロイに、僕は椅子から降りるとテテテと近付いて、ピタッと背中に張り付いた。
「……ウルル。」
顔に手を当てて天を仰ぐロイに、僕は背中にグリグリ頭を擦り付ける。
「ちょっと待ってろ、すぐ作ってやるから。」
首だけ後ろを振り向いて、僕を見下ろしてそう言われる。僕は頬をぺったりとロイの背中に付けたまま見上げて、コクンと頷く。
「……。聞いてるよな?」
動かない僕にロイは眉を寄せるが、聞こえてるよと再度頷く。そして、ぷいっと顔を背けて逆の頬をぺったり付けて引っ付く。
「分かった分かった、もう好きにしてろ。」
諦めた様子のロイが、僕を背中に張り付けたままゴソゴソと動いてご飯を作り始める。あまり大きく動かないところをみると、僕に気を使ってくれていることが分かり、さり気ない優しさに僕はぽわぽわと嬉しくなる。
「ロイ、何を作っているの?」
「あ?野菜がいいんだろ?サラダと肉団子のパスタだ。」
「おいしそ~。」
「まだ出来上がってねぇぞ。」
聞いただけで美味しそうなご飯だったから言ったら、ロイは笑ってそう返してきた。出来上がったご飯をテーブルに置くと、
「ほら、食え。もう夕方だから晩飯になるけどな。」
そう言われ、僕はロイから離れる。自分の分も作ったロイが席についたため、僕はそのまま、
「ちょっ、おい、何してんだ!」
ロイの膝の上に登ろうとすると焦ったように止められる。
「……?膝に乗ろうと思って。」
そしたら一緒に食べられるでしょ?と首を傾げる僕に、ロイは顔を引き攣らせる。
「ウルル、あのな、そんな簡単に男の膝に乗るんじゃねぇ。いいから、そっちに座って食べろ。な?」
「じゃあギュッてして寝てくれる?」
「……俺をどうしたいんだお前は。」
片手で顔を覆ったロイはそう言って項垂れてしまった。そこから押し問答をしつつ、結局僕は一人で座らせられてしくしく泣きながら食べた。そんな僕を見て苦笑していたロイは、入浴時に浴室までついてくる僕を見てまたしても頭を抱えることになったのだった。
そして次の日、ロイについて職場へと行く僕。入った途端、昨日会った騎士の人たちと遭遇する。朝の挨拶をしようと口を開くと、それより先に、
「「申し訳ありませんでした!!」」
「ぴゃあっ!」
何故か勢い良く頭を下げられて飛び上がる僕。
「あ~、ウルル。昨日お前を追い出したことに対して責任感じてんだよ。」
ロイの後ろに隠れた僕を見てそう説明されるが、この人たちのせいだとは思っていなかったため、突然大きな声で謝られてびっくりした。
「僕もちゃんと説明できなかったから、こちらこそごめんなさい。」
兎耳を垂らしてそう言い、お互い謝り合戦になりそうだったがロイにキリがねぇと止められる。そして、僕がいつも書類整理している部屋に行くと、ソニーがいてそこでも謝られる。そして僕も謝る。ロイが止める。とさっきと同じようなやり取りをするのだった。
「ウルル君、そんな寂しそうにしなくても、また迎えに来てくれるっすよ。」
ロイと別れて、ずっと兎耳を垂らしながら書類整理をする僕に、苦笑してソニーが言った。
「うぅ、寂しい……。」
手は何とか動かしており、もうあの山のように積まれていた書類はほとんど分けることが出来た。
「ほら、もう終わりっす。丁度キリがいいんでお昼食べに行きましょう。」
ソニーに連れ出されて、僕たちは食堂へと向かう。ちなみに、ロイが言っていた証は今朝受け取って胸元に付けている。小さいバッジのようなもので、失くせば1万ゴールドの罰金らしい。怖い。
食堂ではサラダのみの注文はないらしく、僕は悩みに悩んで、野菜炒め定食にした。野菜がいっぱい入っていたのと、トマトスープが付いていたのが決めてだ。しかし、主に騎士の人たちが利用するためか、ご飯を大盛入れられてしまい、お腹がはち切れそうになってしまったのだった。
「うぅ、苦しい……。もう動けない、歩けない……。もうここに住む……。」
しくしくと泣きながら動けなくなった僕に、焦ったソニーがロイを呼んできた。そして、急いで来てくれたロイは、僕の状況を理解した後、
「腹いっぱいで苦しい!?お前はガキか!この馬鹿うさぎ!」
緊急事態かと思っただろーが!と怒られ、しくしく泣く僕を抱えて医務室まで連れて行かれると、しばらく寝かされる羽目になったのだった。
570
お気に入りに追加
836
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる