上 下
8 / 53

おじいちゃん、若者を叱りつける 前編

しおりを挟む
「では、次の階層を目指すとしようかのぉ。三階層のモンスターもまたゴブリンじゃが、装備が変わる。厄介なのは弓持ちじゃろう。しかし、先に見せた足止めさえできてしまえば、それほど苦労する相手ではない」

 "たしかに、あれができればね? ……できればだけどw"
 "殺意を意識したら、ちょっとだけ止めれるようにはなったぞ? ポーターの奴は練習しといて損ない"
 "マジ!? 今から俺もダンジョン行こっかな"
 "ポーターワイ、ゴブリンの足止めに成功する。ちな二秒"
 "これさ、革命起きてね? ビースト北村も来たし、おじいチャンネルすごいことになりそう"

「みなさん、よかったらチャンネル登録していただけると嬉しいです!」

 "はーいマナティちゃん!"
 "優秀な営業おるなw"
 "おじさんもチャンネル登録しちゃうぞー!"
 "俺もマナティのおじいちゃんになりたい"
 "おじいちゃんのあだ名が暴れ納豆ってかなり嫌だけどなw"
 "草"
 "やめてあげてwww"

 麻奈も喜んでおるようじゃな。帰宅しても怒られる心配はなさそうじゃわい。

 ゴブリンの倒し方に満足してもらったようなので、三階層への階段を探す。二階層は初心者と思われる探索者が多く、あちらこちらでゴブリンと戦っておる。
 おかげでワシは戦闘を避けれて楽なんじゃが、新規で参入する探索者は戦う相手がおらんから、実力をつけるのに苦労しそうじゃな。

 一階層のモンスターに安定して勝てるようになったら二階層に挑戦する。そんな流れなんじゃろう。
 スライムなんぞに苦戦する者はおらんじゃろうから、ゴブリンに人が集まるのは当然。……負の螺旋らせんじゃのぉ。
 多くの者がワシの戦術を身につけてくれれば、少しはよくなるかもしれぬ。だからといって、ゴブリンという厄介な相手をあなどることがないように、おいおい注意していかなければならんかもな。

「うぃーっす! シュンジっす!」
「パンドラでございます」
「メガモンだ……」

 三階層への階段付近で、フロートカムに向かって挨拶をする三人の若者がおる。彼らもダンジョン配信者じゃろうか。
 頭の右半分を刈り上げた奇抜な金髪で、右腕にウニョウニョとした模様を掘り込んだ男がシュンジ。遠くから見ると青いキノコのようにも見える、丸眼鏡をかけたひ弱そうな男がパンドラ。頭を短く丸刈りにした、太っちょで背が高い男がメガモン。
 ヘンテコなポーズを取りながらと名乗りを上げておる。

 "うわ……迷惑系配信者のスリースターズじゃね?"
 "最悪だな。いつもは中層あたりで配信してるのに"
 "スリースターズの活動拠点て茨城だったんだ"
 "おじいちゃん、あいつらには関わらないほうがいいかも。迷惑行為ばかりしてるんだけど、実力もあるから手がつけられないんだよ"

 ……迷惑行為じゃと?
 それは見逃せん。ダンジョン内の治安は探索者が守るとダンジョン安全保護法で決まっておる。だからこそ探索者は公務員なのじゃからな。
 昔と違って色々と制度は変わっておるようじゃが、根本は同じ。第一条に書き記された探索者としての立ち振る舞いは変わっとらんかった。
 それに、子供を叱るのは大人の義務。ワシが注意するべきじゃろう。

「今日はっすね、リスナーのみんなに面白い遊びを教えてあげるっす! 題して……ゴブリンイジメ!」
「ではメガモンくん、さっそく捕まえてください」
「おう……」

 通路の奥でちょうど出現した三体のゴブリンに向かって、身の丈二メートル前後の大男が全身の肉を揺らしながら近づいていく。所々が金属のプレートで守られた革鎧に身を包み、背中には巨大な戦鎚せんついを担いでおる。

 モンスターに接敵すると、二体のゴブリンの首を掴んで持ち上げた。
 空中に浮かんだゴブリンは、引っ掻いたり足で蹴り上げたりして暴れておるが、大木のようなメガモンの腕はびくともしておらん。

「ふんっ……!」

 シンバルが如く打ち合わされたゴブリンの頭部が、耳障りな音とともに体液をぶち撒けて潰れてしもうた。
 メガモンとやら、かなりの実力者じゃな。武器を使わず単純な膂力のみで圧倒してしまうとは。

 目の前で仲間を瞬殺されてしまい、恐怖に顔を歪ませる三体目のゴブリン。賢いモンスターじゃから、同じように自分が殺される姿を想像してしもうたのじゃろう。
 かなわないと悟ったのか、棍棒を投げ捨てて一目散に逃げだす……が、メガモンに捕まって羽交締めにされてしもうた。

 ひょいと持ち上げられて、何やら準備を始めたシュンジの元に運ばれていく。厄介なはずのモンスターがまるで子供扱いじゃわい。
 仲間にもゴブリンを倒す経験を積ませてやろうとしておるのじゃろうか。モンスターと出会ったら、なるべく早く倒すのが鉄則なんじゃがなぁ。
 人それぞれやり方があるじゃろうし、こればかりは口出しできん。ダンジョンでは絶対の安全が保証されておらんから、危険なのは間違いないがのぉ。

「視聴者のみんな、これが何か分かるっすか? ……そう、納豆っす! これをゴブリンの鼻に詰めていくっす。こいつらも臭いと感じるんすかね?」

 おそらくコンビニで買ってきたのであろう。ビニール袋から納豆のパックを取り出したシュンジが、ゴブリンの大きく開いた鼻の穴に納豆を押し込む。

「ゲギャッ! ギャギャッ!」

 メガモンに抱えられたゴブリンが唾液を撒き散らしながら悲鳴をあげる。不快感をあらわにし、首を振って嫌がっておる。

「ぎゃはははははっ! 次は食べさせてみましょうよ。ゴブリンくんは、納豆にカラシを入れる派ですか?」
「ぶほほっ……」

 "相変わらず最低だなこいつら……"
 "これでチャンネル登録者数十五万超えなんだから終わってるよほんと"
 "ファンよりアンチの方が多いんだろ? 配信中のコメント荒れまくってるって聞いたけど"
 "スリースターズの話はもういいじゃん。無視して先に進もうぜ!"
 "そうだな。おじいちゃんがイジられたら可哀想だし"

 ……何をしておるんじゃ?
 ……まさか、モンスターで遊んでおるのか?
 此奴こやつら……ここはダンジョンじゃぞ!

ブワッカ馬鹿モォオオオオオオン!」

 剣を腰の鞘にしまい、盾の持ち手を背中のホルダーに引っ掛ける。
 スリースターズと呼ばれるおろかな三人組を睨みつけながら、ゆっくりと近づいていく。

 ワシの両手が、怒りでわなわなと震えておる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件

羽黒 楓
ファンタジー
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。 冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。 ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

人生詰んだ気がしたので、VTuberになってみた。

未来アルカ
大衆娯楽
 鬼堕 俊隆(きだ としたか)。  とある事件によって親族に見放され、就職することも難しく貯金の残りもわずかとなった彼は、人生の最後くらい楽しく過ごしたいという思いから、VTuber『鬼道 奈落』としてデビューする。  VTuberを通して出会う、自分の知らない世界。その中で、徐々に明らかになっていく彼の悲しい過去。  カクヨムでも投稿しています! 『なんか姿似てるVTuber知ってるなー』とか『名前のイントネーション似てるVTuber知ってるなー』って感じで楽しんで貰えたら嬉しいです。

【完結】小さなフェンリルを拾ったので、脱サラして配信者になります~強さも可愛さも無双するモフモフがバズりまくってます。目指せスローライフ!〜

むらくも航
ファンタジー
ブラック企業で働き、心身が疲労している『低目野やすひろ』。彼は苦痛の日々に、とにかく“癒し”を求めていた。 そんな時、やすひろは深夜の夜道で小犬のような魔物を見つける。これが求めていた癒しだと思った彼は、小犬を飼うことを決めたのだが、実は小犬の正体は伝説の魔物『フェンリル』だったらしい。 それをきっかけに、エリートの友達に誘われ配信者を始めるやすひろ。結果、強さでも無双、可愛さでも無双するフェンリルは瞬く間にバズっていき、やすひろはある決断をして……? のんびりほのぼのとした現代スローライフです。 他サイトにも掲載中。

超激レア種族『サキュバス』を引いた俺、その瞬間を配信してしまった結果大バズして泣いた〜世界で唯一のTS種族〜

ネリムZ
ファンタジー
 小さい頃から憧れだった探索者、そしてその探索を動画にする配信者。  憧れは目標であり夢である。  高校の入学式、矢嶋霧矢は探索者として配信者として華々しいスタートを切った。  ダンジョンへと入ると種族ガチャが始まる。  自分の戦闘スタイルにあった種族、それを期待しながら足を踏み入れた。  その姿は生配信で全世界に配信されている。  憧れの領域へと一歩踏み出したのだ。  全ては計画通り、目標通りだと思っていた。  しかし、誰もが想定してなかった形で配信者として成功するのである。

処理中です...