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おじいちゃん、孫と一緒に配信する

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「ゴブリンの本質については、話したとおりじゃ。奴らの習性が、群れで行動する野犬なんかに近いと気づいたワシは、何かないかと考えておった。そんな時、近所のおじさんが飼い犬を躾ける様子を見て、これじゃと思ったんじゃ!」

 "斜め上すぎて内容が入ってこないw"
 "これじゃと思ったんじゃ! じゃねえんだわw"
 "スライムの倒し方は一理あると思ったけど、今のところゴブリンに関しては頭の中がハテナマークだらけ"
 "真面目な顔でこれ言ってんのがウケるよなw"

 街中でモンスターと戦う際に、数が多いゴブリンは厄介じゃった。
 力も体格もワシの方が優れておるから、普通に戦えば負けることはない。しかし、狡賢ずるがしこいゴブリンどもは、あの手この手で攻めてくる。
 物陰に隠れて奇襲してきたり、おとりを使って挟み撃ちを仕掛けてきたりと小賢しく、何度怪我をさせられたことか。

 こりゃいかんということで、対策を考え始めた。
 ゴブリンの動きを分析しているうちに奴らの習性に気づき、上手く利用できればと色々な方法を試してみたが失敗ばかり。
 何日も成果が得られず困っておったのじゃが、犬を散歩中のおじさんが攻略を進めてくれおった。

 実にお利口さんな犬じゃったなぁ……。
 おじさんが足を止めれば犬も足を止めてその場に座る。おじさんが歩きだせば犬も後ろをついて行く。

 道に何かが落ちておって、それに興味を持った犬が立ち止まったときの、「コラッ!」と叱ったおじさんの底冷えするような恐ろしい声。射殺さんばかりの目つき。
 飼い犬は体をビクッと硬直させ、足をガクブルと震えさせておった。

 ワシは、すぐさまおじさんに師事を仰いだ。
 どのようなタイミングで、何を意識して叱っておったかを事細かに教えて頂いた。

 そして、すぐに実践。予想は正しかったようで、一体目のゴブリンから動きを止めることに成功したのじゃ。

「意志を込めて睨みつけ、声とともに叩きつける。大事なのは殺意。どちらの立場が上かを強制的に理解させるんじゃ。さすれば奴らの足は止まる。腕は二本しかないからのぉ。優位な状況を作ることこそゴブリンを倒すコツなのじゃ」

 "簡単に言うけどさ、こんなの無理じゃね?"
 "ちょっと試してくるわ。これができれば、序盤の攻略ってかなり楽になるんじゃない?"
 "最近の攻略って、どちらかというと連携が重要視されてますよね。おじいさんのは、モンスターが持つ特性や習性を元に考えられていて、同じソロ探索者として参考になります。本来そういう部分はダンジョン配信を生業としてる自分たちこそ発信しなければいけない情報だと思いました。ぜひ初心者のみんなにおじいチャンネルさんを見てもらいたいので、自分の方で拡散してもいいでしょうか?"
 "ちょっとぉ! 長文やめなぁ?"
 "え!? 今の長文書いたのビースト北村きたむらじゃね?"
 "マジじゃん! ヤバすんぎwww"
 "長文ごめんなさいね?w"
 "ビーストキター!"
 "北村くんさぁ、連投やめなぁ?"

 誰かは知らんが、有名な探索者のようじゃな。よこしまな考えかもしれんが、ビースト北村とやらが宣伝してくれたらワシも人気者になれるやもしれん。
 そうすれば、麻奈のワシに対する評価は爆上がりじゃ。願ってもない申し出だとは思うが……素直に受けてええもんか分からん。

『おじいちゃん! 登録者数三十万人超えのビースト北村さんが来てる! 鍛え上げた体を武器に、素手でモンスターを倒しちゃう豪快な戦闘シーンが人気の配信者なんだよ! 宣伝してくれるって言ってるし、お願いしちゃおう!』
「うーむ、でものぉ……」

 これで有名になったとしても他人の力じゃからなぁ。麻奈が友人に自慢した時に、ビースト北村のおかげで有名になったと言われては可哀想じゃし。
 初めての配信に有名人が現れたんじゃから、関わってみたいと思う麻奈の気持ちも分かる。
 しかしワシは、まず自分の力で頑張ってみることの重要性を知って欲しい。努力の後に結果がついてきた時の喜びを経験してもらいたいんじゃ。
 ……悩ましいわい。孫の成長を考えれば、二人だけで頑張るのがいいとは思うんじゃなぁ。

「こ、こんにちは! おじいチャンネルの孫でアシスタントの麻……マナティです。皆さん、ご視聴いただきありがとうございます。ビースト北村さん、宣伝をお願いしてもよろしいですか?」
「なななななっ!? 背後から孫の声が聞こえよる。コラッ! 子供がこんな危ない場所に来ちゃいかんぞ!」
 
 振り返り、後ろに居るはずの麻奈を叱りつけるが誰もおらん。ただ空中に黒い球体が浮いとるだけじゃ。
 ……なにが起きておる?
 麻奈はどこに行ってしもうた?

 "マナティ! マナティ!"
 "孫キターw"
 "怒った顔が怖すぎんぞ暴れ納豆!"
 "フロートカムのスピーカー機能な?w"
 "もうギャグだろこれwww"
 "この声からして、お孫さんはまだ小さいんやろ? 今は十八歳以上やないとダンジョンに入れへんからな?w"

「スピーカー……機能……? よく分からんが、みなにも孫の声が聞こえておるんじゃな。ビースト北村とやら、ワシからもお頼み申す!」

 "武士みたいなお願いのセリフだなwww"
 "おじいさん。ダンジョン配信者の界隈かいわいでは、他のチャンネルを紹介するってことがよくあるんです。全然気にしなくていいですからね? 探索者のためにもなることですから。マナティさん、宣伝はまかせて!"
 "ビーストと納豆のコラボくるか?w"

 なるほどのぉ。この業界にはワシの知らん常識があるらしい。素直に麻奈の助言を受け入れて、ビースト北村にお願いするべきじゃったか。
 ワシのせいで麻奈がマナティになってしもうたわけじゃし……後で怒られたりせんじゃろうな?

 "おじいちゃんのために営業してあげるとか、マナティ優しいな!
 "ゲンジより孫のほうがしっかりしてんじゃんw"
 "ダンジョン配信者としてはマナティの方が上かw"

 ほぅ、コメントの中にも麻奈の賢さに気づく者がおるか。少し喋っただけでもバレてしまうんじゃな。
 テストはいつも百点満点じゃし、学級委員長として仲間をまとめ上げとるからのぉ。
 それに加えて、子供にしては珍しく気遣いもできる。天使のように優しい孫なんじゃ。将来は看護師になってワシの面倒を見るだなんて……

「ちょっと、おじいちゃん大丈夫? ゴブリンについてはもういいの?」
「おぉおぉ、そうじゃったのぉ。ゴブリンは首をねるか頭を潰すかして倒さねばならんぞ。生半可な攻撃では、そのまま向かって来おるからな。倒したと思って油断した時が一番反撃を食らいやすいんじゃ」

 "急にぼーっとしだしたからボケたのかと思ったw"
 "さっきまで一人で喋ってて怖かったけど、イヤーチップでマナティと会話してたんだ。賑やかになるし、このまま二人で配信したら?"
 "心臓を貫けばいいと思ってる探索者が多いからね。点を点で突くのって難しいんだよ。首なら線での攻撃になるし、ゲンジの言う通りだわ"
 "普通に参考になるな!"

 孫と一緒に……か。いい響きじゃな!
 皆の衆も受け入れてくれておるようじゃし、麻奈にとっても夏休みのいい思い出になるやもしれん。

 ダンジョン配信、最高じゃわい!
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