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第十五話
しあわせな遥海くん【第十五話・しあわせ】
しおりを挟む【しあわせな遥海くん・第十五話・しあわせ】
「コスモく~ん!こっちにも照射お願い!」
「了解す!」
騎士が住むオンボロアパートの庭で、神様のクローバーを植えている。
大きな赤外線照射機を持った木村宇宙と、作業服を来た遥海。
近所の住人も窓からその光景を見ていた。
「こんにちは。明日もこの近辺で植物を植える作業があります。
少しうるさくしてしまうかも知れませんが、ご協力お願いします!」
深々と頭を下げて、近所を回る小宮山騎士。
あれからテントを取り囲むほどに増えた神様のクローバー。
植えた場所の土が生き返り、麦や野菜も簡単に収穫できるようになった。
太陽の光で成長が早まると結論付けた宇宙は、それに気付いた日からコツコツと赤外線の照射機を作っていた。
あれから騎士は遥海や宇宙の勧めもあり、個人で小さな会社を作った。
四つ葉の後ろ盾があった為、すんなりと申請は通り、今や社長に就任していたのだ。
従業員は木村宇宙と、魔法少女さん、長瀬さん。
アルバイトで遥海、清水さん。
そう、キラキラネーム被害者の会のメンバーだ。
街中には清水さんが作成した「希望の種を撒きませんか?従業員募集!」
という張り紙が貼られていて、面接を務める魔法少女さんも多忙を極めていた。
どうやら四つ葉クローバー教での栽培はあまりうまくいっていないらしく、それを聞いた宇宙は熱心に神様のクローバーの栽培をずっと研究していたのだ。
植えたらすぐに強い日光を浴びせると、クローバーはたちまち成長し、根を張った黒い砂の大地が蘇るらしい。
まだ範囲は狭いが、街の空き地などから順番に神様のクローバーを植えて回っていた。
街の皆はそれが神様のクローバーだとは知らない。
ただ、枯れた地に咲く植物を不思議そうに見ていた。
小宮山ファームと名付けた騎士の会社。
四つ葉クローバー教からお下がりのトラックを安く仕入れ、少しづつ植える範囲を広げようと奮闘する日々。
遥海も、騎士から貰う手書きの給与袋が嬉しくて、ようやく最近自立して住む場所をマキノと一緒に探し始めた。
テントはまた皆が集まれるようにと、騎士が以前勤めていた三つ葉建設に出向き、直接のクライアントとして小屋の建築を依頼していた。
四つ葉クローバー教からの支援があると高額な建設費用を提示した途端、あの憎き社長の顔が青ざめた。
騎士に対し、はは~!あの説は申し訳ございませんでした!
と言わんばかりの対応だった為、いつかの復讐も果たしたのだった。
あのテントは、今はもう撤去された。
木で出来た「キラキラネーム被害者の会」の看板は、今は騎士の部屋に置いてある。
新しいキラキラネーム被害者の会の小屋の建設は、もう始まっている。
そこにまた、看板を立てかける日はそう遠くないだろう。
しばらくは街の喫茶店で会う約束をしたりしていて、皆の交流が途絶える事はなかった。
「ビラ配り終わったぞ」
「お疲れ様!こっちもとりあえずここはもうおしまいかな」
「ひと息つきたいす…」
重たい照射機を肩から下ろし、地面に座り込む宇宙。
「とりあえずウチ上がれよ。あ、そこ鳥の巣あるから気をつけてな」
相変わらず騎士の部屋のベランダでは、小鳥が繁殖を続けていた。
騎士はやかんで湯を沸かし、三人分のカップを用意していた。
いつか買ったコーヒーミルで豆を挽き、ゆっくりとした時間が流れる。
すっかりコーヒーが飲めるようになっていた遥海。
四灯病が完治し成長を始めてから、味覚もだいぶ大人になったようだった。
少し汗ばむ気候であったが、作業後の一杯を嗜んでいた。
「そういや、長瀬さんこっちに越して来ただろ?また薬屋やりたいとか言ってたか?」
「ああ、商店街の物件一つ決まったみたいすよ」
「そうか!なら安心だな」
「こっちとの掛け持ち、大丈夫なのかな?」
「まあ、長瀬さんがやりたい方をやればいいよな」
日差しが差し込むオンボロアパートの一室。
明日は鳩の日で、休み前日の仕事終わりの余韻に浸っていた。
「なんか、しあわせ」
「なんだ、藪から棒に」
えへへと笑う遥海は、初めて会った日からの事を思い出して語る。
相変わらずパレードの日はグレイス様をやっていたが、最近は自分で演説の台本を書くようになったと話す。
「僕にも皆に伝えたい気持ち、出てきたんだよね」
「命が続くって、素敵な事だね。どんどん欲が出てきちゃった」
そんな言葉を聞いて、いつか抱えて耐えていた長い冬の夜を思い出す騎士。
そこから抜け出せて、今があるのは本当に幸せな事だった。
不幸の連鎖を乗り越え、幸福の連鎖で今がある。
きっと被害者の会のメンバーも今、幸せなはずだ。
家計が助かると話していた魔法少女さんや、初めてのアルバイトでお小遣いを稼ぎ、働くことに喜びを感じる清水さん。
そして神様のクローバーを使った薬が大好評となり、豊かな暮らしが出来るようになった長瀬さん。
自分の研究で、神様のクローバーの栽培方法を見つけ、生涯の仕事と決めた宇宙くん。
今では四つ葉クローバー教の医療チームからも、頼りにされているようだ。
マキノはしばらくテントでの食事が作れない為、遥海の護衛のみをしている。
最近は、遥海が住む物件の内見も担っているようだ。
騎士はだいぶ忙しい身になったが、その充実した日々に満足していた。
あとはまあ、お嫁さん候補が現れてくれたらいいなとは思っている。
しあわせな遥海くんは、本当に沢山の人に変わらず慕われて、拝まれている。
そして自分の力で生きて行こうと、努力もしている。
こんな日は来たのだ。
少し前の自分が眼の前に現れたら、言ってやりたい。
「本当のしあわせは、自分の手で手に入れられた」と。
今の四つ葉クローバー教が掲げている教え。
それも昔とは変わり、努力は報われるようなものとなった。
神に願うのではなく、自分の力が神にも匹敵するものなのだと。
静かに夕日が広がるベランダからの景色。
幾度となくその光景は見てきたが、当たり前の景色ではないのだ。
手に入れたこれからの人生における、しあわせな時間。
明日もよく晴れそうだ。
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遥海くん11話まで読みました。
なんかいいところで終わってますね。
登場人物が基本的にみんなやさしく、日常のさりげないやり取りや、人との繋がりに幸せを感じる描写が非常に印象的です。
軽妙な会話中心で無駄な描写がなく、テンポよく話が進むので大変読みやすいですが、絶えず少し重く不穏な空気が降り積もるような得体の知れない不安も感じられます。
何故か遥海くんの境遇が、作者さんに重なる部分があるのかなと勝手に思ってしまいました。
ナイトが小鳥の世話をし始めたので、恩返しにひとつだけアレを持ち帰ってくるんじゃないかと思っていたら、大群で掠奪に現れたのには申し訳ありませんが笑ってしまいました。
あと「パソコーン」が妙にツボります(笑)
蛇足ですが、第八話で「遥海」くんが後半「晴海」くんになっちゃってますよ。
ナイトの安否が気になりますが、さて、どう繋がるか続きが楽しみです。