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右倣え右
しおりを挟む「あぁ"? お前どこ中出身だぁ? 俺様が誰か分かってて喧嘩売ってんのか?」
「お前みたいな奴知らねぇよ肉だるま」
担任がホームルームの挨拶をした直後、何故か生徒同士で口喧嘩が始まった。
如何にもな奴と小綺麗な顔立ちをした生徒が争っているようだ。一見すると小綺麗な顔立ちの奴が負けてしまいそうだが喧嘩というのは己の力のみで戦うものでもなく、案外仲間やメンバー、サポートにつく者だったりが戦ってくれる場合もあるのだ。小綺麗な奴の方は戦闘向きではないが彼の後ろにつく奴はなかなかやるようだ。
場はまるで一触即発、ジリジリと続くにらみ合い、周りの緊張感も高まる。そして次の瞬間、肉だるまが足を踏み出す______かに見えたがそれはなかった。
何故なら担任が両者の間に割って入ったから。
「俺の声聞こえてたか? ホームルーム始めるつってんだよ。やるなら教室出て校庭ででもやってろ、な」
ギン、という効果音がつきそうなくらいの目付きで両者を睨んだ担任はそれぞれの肩を軽く押し退け再び教卓に戻った。
「さ、ホームルーム始めるぞ」
何事もなかったかのように始めた担任に両者共にちらりと視線を交わせ席につく。担任の振るまいに心のなかで拍手を送りながら、彼が先生であることを再認識。
「俺はこれから一年間お前らの担任をする沢海煌人だ。お前らが無事二年生に上がれるようにするのが俺の仕事だ。だからくれぐれも成績を落とすようなマネはするなよ」
先ほどの両者にちらりと視線を送りながら担任は続ける。
「学園(ここ)での規則は合意のない性行為だが、もちろん授業を妨害するような行為やテストでの成績、場を弁えない乱闘は進学に影響してくる。行ったとしても罰則はないが成績には影響してくるから注意するよう」
なんか普通の学校ぽい感じだ。役員サマ達の挨拶だけ聞くとヤバいとこだけど。
「今日はこのホームルームが終わった後、生徒の交流を兼ねて生徒会執行部主催でレクリエーションが行われる、自由参加だが出来るだけ出席しろ。レクリエーションの集合場所は先ほど入学式が行われた体育館だ。 じゃあ出席とるぞ」
生徒会主催っていうのが嫌なんだよな。いや此れが仮に風紀委員会主催だったとしても参加したいとは思わないけど。ともかく、学園では何事もなく平穏に過ごしたい。役員サマ達に関わったら平穏に過ごせないんだろ?
......周りの生徒の状況を見て決めようか。
キーンコーンカーンコーン
ありきたりなチャイムが鳴り各々が移動を開始し始める。入学式だから荷物を持つ生徒は少ない、身軽に体育館の方へと教室を出ていく。
「レオン、お前レクリエーション行くか?」
「そりゃもちろん」
椅子をしまいながら振り向き返事をするレオン。その顔は当たり前でしょ、と語っている。
「やっぱ行くのか」
「なに、雪ちゃん行かないつもりなの?」
「いや、まぁ、行く必要はないかな、と」
するとレオンは信じられない、という顔をする。
「なんで!? せっかくこの学園に入ったんだから普通行くでしょ!」
「レクリエーションはなにか良いことがあるのか?」
「良いこともなにも役員達とお近づきになれるチャンスじゃんか!」
「近づいて良いことが?」
彼らに近づいて良いことがあるのか、と率直に問いたくなる。あ、もしかしてお近づきになって彼らの家と繋がりたいのか? もしかすると自分が知らないだけで凄いところのお坊ちゃんだったりするのかも。お金持ち学園だからその可能性も否定できない。
「そりゃ身体目当てでしょ」
家ではなく身体!? あぁ、そうか、ここは不良校であると同時に男色の者も多いのか。確かに生徒会主催だから彼らも表に出てくるだろうしお近づきになるチャンスではあるか。
「みんな積極的なんだな」
「そういうこと。僕はただ気になるだけの野次馬だけど、雪ちゃんはどうする?」
教室にはもう俺たちしか残っていない。我先にと体育館へ駆けていった生徒達、レオンの言いぶりだとほとんどの生徒はレクリエーションに参加するのだろう。ここで参加しないという選択肢をとるのはここでは奇異の対象になるわけで、参加するのが無難なのだろう。 ただ言いたいのは決してレクリエーションに興味はないということ。
体育館にぎゅうぎゅうに詰め寄る生徒、入学式とは違い整列をしないからか体育館には人が収まりきらず人だかりは体育館の外まで続いている。
なんとか人の波を縫い体育館の角のほうで息をついた二人。野次馬気分で参加したレオンにも流石に後悔の色が見られた。 満員電車ならぬ満員体育館だなこれは。
「うわっ」
人の波が音を経てず静かにしている筈もなく正に波のように不規則に人だかりに揉まれる。横に居たレオンにぶつかり支えられる。
「大丈夫?」
「あぁ、にしても予想以上だなこれは」
前も後ろも右も左も、どこもかしこも人、人、人。身動きをするとそれが波となって周りの生徒に影響してしまう。一切の無駄な動きを封じられたこの状況にうんざりとレオンにもたれ掛かる。
「人の多いところ好きじゃなかった?」
「好き、じゃないかもしれないな」
これほどの人の密集地帯をそうそう体験することはないから今分かったが、どうやら俺は人混みが苦手なタイプの人間らしい。数十名なら耐えられるかもしれないけど数百名は人酔いでもしそうだ。
早くもここに来たことを後悔した。
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