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偉人の名、視界に映すのは灰色

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ゆらゆらと揺れる身体。 まだこっちは寝てたいんだ、揺らさないで欲しい。
 入学式は9時からだから家からの登校時間も考えて起きるのは8時半でいいかって思ってたら、大事な日なんだから髪の毛を整えろ、顔を洗え、ご飯を食べろ、制服をちゃんと着ろと口煩く両親に起こされ起床したのは7時。なんで親ってのはあぁも煩いんだ。入学式くらいで何をそんなに気を使う必要がある。
 そんな訳だからまだ起こすな。

「───ろ、────起きろ」

起こすなつってんだろうがボケ。

「───起きろ保栖!!」

「うっるせぇ......」

 仕方なく目を開けると映ったのは金髪に黒シャツの男。目をつり上げてなぜかすごく怒っている。

「......だれ?」

「担任だわボケ。もう式は終わったぞ、いつまで寝惚けてるんだ」

 辺りを見渡すと生徒は自分だけ。体育館の入り口や端の方でたむろってるのが居るもののパイプ椅子に座るのは自分だけ。椅子の足部分を蹴りながら担任は退席を促してくる。ため息を吐きながら渋々立ち上がる。

「センセ身長高くね?」

 立ち上がってみて思ったのはこれである。見下ろしてきていた時も大きいなとは思っていたけど立つと自分との差が歴然と出る。自分も特別小さい訳ではないし平均身長ラインはとっている筈。なのになんだこの身長差は。

「あ? 高くねぇよ。187?8?くらいだ」

 10cmほど削り取っても問題はないようだ。

「うらやまし。で、教室行ったらいいの?」

「あぁ。お前は俺のクラスだから1-Cな。場所は分かるか?」

「分かんない。センセも一緒に行こ」

 恐らく校内を探せば校内の案内図でもあるんだろうけどそれを探すのがめんどくさい。なら担任に連れていって貰ったほうがいい。どうせ担任も教室に行くわけだし。
 ほら、と担任の手を引き早速移動開始する。

「おい、ちょっと待て、なんで手ぇ繋いでんだよ」

「なんとなく。それより早く行かないでいいの?」

「はぁ、......式が終わってから30分後にホームルームだ。後15分くらいある」

「ふーん。こっち右?左?」

「左だ」



「こっちは?」

「そこは右だ」


「あの大きいの食堂?」
 
 担任に聞きながら校舎を進むと本校舎のちょうど真ん中辺り、大きな両扉の場所が見えた。中は見えないけど400人は優に収用出来そう。中庭とも接面していてテラス席もあるみたいだ。

「あぁ。だいたい何時でも開いてるな。だが2階には上がるなよ、役員席だから」

「役員席ぃ?」

 なんだその特別そうな席は。っていうかここの食堂2階まであるのか、すご。

「生徒会やら風紀やらが使うトコだ。この、学園は少し変わってるからな。一般生徒とアイツらを一緒にするとよくねーんだよ」

「よくないって、喧嘩でも起きるの?」

「いんや、その逆。アイツらこの学園じゃ芸能人ばりの人気だから一般生徒にすーぐ囲まれちまうんだよ。だから」

「へー?」

 誰が誰を好ましいと思おうが勝手な話なんだけど、個人的にはその役員サマ共を見ても何も思わない。顔はまぁ不細工じゃないと思う、スタイルも良いと思うけどなんかいけ好かない。というかどこかで会ったような気が......しないでもないような。

「生徒会連中は有名処の坊っちゃんだから顔くらいは見たことあるんじゃねぇの?」

「かもしんない。 ここどっち?」

「右だ。  この廊下が一年生のフロア、奥から3つ目がC組な」

本校舎の1階右側、廊下の左側に教室が9つほど、右側はテルマル窓の枠がはめられた出窓が設けられている。教室の方からはガヤガヤと雑多な音が聞こえ横の担任はうるせぇな今年も、と舌打ちをした。

「今日はホームルームだけ?」

「それくらい覚えてこいよ......今日はホームルームだけだ。だがホームルーム後にレクリエーションってのがあるから出来るだけ参加するように」

「考えとく。じゃセンセありがと」

 繋いでいた手を離しヒラヒラと手を振って教室の後ろ扉から、担任は次からは1人で来いよ、と言いながら前の扉から入る。素っ気ない感じの元ヤンチックな担任だが案外面倒見のいい人でよかった。
 教室はほとんど人で埋まっていてポツンと一つだけ席が空いていた。窓側一番後ろ、多分そこが自分の席。ガヤガヤと騒がしい人の間を縫って席に着席すると前の席に座っていた金髪がこちらを向いた。

「Hi , I'm Reon.  Nice to meet you」

 爽やかな笑顔で挨拶してきた金髪碧目、恐らくハーフはレオンという名をしているらしい。はてこの場合どのように返せばいいのか、いや英語は多少はできるけど友達と接するようにフレンドリーにいけばいいのか、それとも目上を相手するみたいな敬語の効いたもので返せばいいのか。そも前者の場合は友達が居ないに等しいわけだから余計にわからない。

「I’m Hozumi. You, too」

 とりあえず出来うる限りの表情筋と中学生並みの英語力を使ってフレンドリーな感じで返してみる。

「ホズミって言うんだ、それ上?それとも下?」

 日本語話せるんかい。なら最初っからJapaneseで話せよ。

「よく間違えられるけど上。保(たも)つ栖(すみか)で保栖」

「変わってる苗字だね! 僕は遊木レオン、気軽にレオンって呼んでね」

「りょーかい、レオン。俺は保栖雪嶺だ、保栖って呼んで」

「上も下も難しい名前だね~、ちなみにせつれいってどんな漢字?」

「雪に嶺(みね)で雪嶺、けど下の名前で呼ぶなよ。嫌いだから」

 この雪嶺ってのは母親が雪っていう字を付けたくて、父親が嶺っていう漢字を名前に入れたかったという父母の考えの末の名前。綺麗な名前ではあるけど明らかに雪嶺という字に似合わない息子に出来上がった訳で。

「えー? 綺麗じゃん雪嶺って」

「やだよ。とにかく保栖って呼んで」

「分かったよ~。  雪ちゃん」

「......」

 爽やかすぎる笑顔に騙されそうになるけどこれは明らかに悪意を含んだあだ名だ。世間では一部の学校であだ名禁止と定められようとしているらしい。PTAに訴えてみようか。

「そんな嫌そうな顔しないでよ、でも雪ちゃんは雪ちゃんだからね。これもう決定事項だから~」

「小学生みたいだなお前」

 見た目よりもめんどくさい性格なようで、殴りたくなる、は良くないか、蹴り上げたくなる、も良くないか、とりあえずレオンの視線を遮るように窓の外を見た。




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2話も読んで頂きありがとうございます
読んでくださる方には本当に感謝です...
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