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「いたいのいたいのとんでいけー」

日本ではお馴染みの子供の頃にやる、怪我した子にかける言葉をご神木に結子は掛けみてる。
これと言ってどうすれば良いか分からないから、とりあえず怪我といえばの軽いノリでご神木の滑らかな木肌をさすりながら呟く。

これで治ったらまさに奇跡だけど…。
自分に特別な力などないと思っている結子は特別な言葉なんかも知るわけがない。
精一杯、気持ちだけはこめて念じるだけだ。

貴方を思っている人がいるの。
貴方は国のシンボルなんでしょう?
どうして切られてしまったんだろう。こんなに手ひどくする必要があるのかな。
皆に大切にされてきたとても綺麗で美しい木だったって聞いた。
ねえ、貴方は復活したい?
私も見てみたいな。ルイがきっと喜ぶよ…。

「いたいのいたいの…」

「ふん、聞いたこともない言葉だな。それが異世界の癒しの呪文か?」

今日は神官長も挨拶だけで一人にしてもらった聖域で、誰もいないはずなのに
結子に語りかけるものがいる。
振り返ると、結子の視界に赤い髪が入り込む。

「…ウィル!」

どうして、ここに…。

「俺がそうやすやすと捕まっている身に甘んじるわけなかろう。ここは俺の城(にわ)だ。
いくらでも他の目を欺くことも、好きな場所に出ることも俺ならば可能なんだよ。
しかしお前は馬鹿なのか?昨日あんな目にあっておきながら、今は一人でいる。聖域といえど無防備で馬鹿すぎる。危機感もないボンクラが。だから、またこうして俺に隙をつかれるんだ」

「…あ。…なにかするつもり?ご神木に悪さは許さないからっ」

にやり、と笑う男には昨日感じたままの人をひれ伏させる威厳がある。
その威圧感が結子に掛かるが、結子も負けてはいなかった。なにせ目の前の男はこのご神木の敵である。ご神木をこんな無残な姿にした張本人を前にして、いくら結子といえど引けなかった。
咄嗟にご神木を隠すように男の前に回りこみ、ご神木を庇った。

「ふん、辛気臭い顔で神木を撫でていたが、俺を見て威嚇できるか。気概があるのは良いが、無謀と言うものだ。どこまでも愚かだな」

男の言葉にぐっと結子は唇を噛んだ。






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