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ぼーと結子は窓の前に椅子を置いて、そこに座り外の景色を眺めていた。
いや、眺めていたと言えば語弊があるか。眺めながらその実、景色など見ていなかった。
ただぼーと上辺を眺めて、心は別のところへと飛ばしていた。

結子はただ静かに、しかし何をして良いか途方にくれていたのだ。

「ユンコ様…」

結子の背に戸惑った様子のミンクの声が掛かる。
それが聞こえていないのか、結子は身じろぎもせず窓の外を見ていた。

「ユンコ様!、朝食でございます。」

しかし、それではいけないと覚悟を決めたのか、ミンクの彼女にしては強めの語気で
呼ばれた結子は漸く意識をこちらの世界に戻してミンクに振り返った。
そこではじめて部屋にミンクがいたのに気付いたと言う顔をする。
これにはミンクもやりきれない顔になる。

しかしそこには触れずにテーブルに用意した朝食を取ってもらうことを優先する。

「お食事を。その後は、起きてからまだ着替えもなさっていない様子。それでは他のものに示しがつきません。ご病気ではないのですから、私がお着替えをお手伝いしますから着替えてください」

ミンクが率先して取り仕切る。それをぼーと聞いていた結子が理解したのか「うん」と
ミンクがあらかた話し終わった後に頷いた。
それにミンクは失礼と思いながらもため息が漏れてしまった。


着替えが終わり、見た目だけは通常のいつもの結子になる。それにミンクは満足げに頷き、
自分の成果を納得する。

「この後はどうされますか?ご神木様に会いに行かれますか?」
「うーん、そうだね」

今日はもう午前も終わりに近い日中に近づいてもあの黒髪の背の高い優男の紳士を見ていない。
忙しいのか忙しくないのか、毎日どんな日も結子のご機嫌伺いを欠かさない男、ルイ。
結子をからかうのが日課のような男が現れないのは、たかが数日。
まだこちらの世界に馴染んだわけでもない結子なのに違和感を覚えた。

『近寄るな!…こないでくれ、俺の、いえ、私の傍に今きては駄目です』

昨日のルイの言葉が結子の中で反芻される。その言葉が時間を断つごとに結子の心臓を抉る。
これが生まれたての雛が最初に(正確には違うが)見たものを親だと思う
インプリンティング効果だとでもいうのか。こちらの世界で結子は知らず、ルイに信をおいて
いつの間にか頼っていたのではないかと気付き始めていた。

見知らない異世界。明るくしてくれたのはルイさんなのかな。

それが会いにきてくれないということは結子にとって一人きりで見捨てられた気分になる。

「…ご神木様に会いに行くよ。それが私の役目だもんね」

いつもの明るい結子の声とは思えない平坦な声で作り笑いと分かる笑顔で笑って言われた
彼女付きのミンクはまるで身を切られたように顔を顰めた。





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