上げて落とすおつもりですね？

２

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気まずい。

二人っきりで残された部屋で結子は気まずさに戸惑っていた。
兵が出て行って二人きり。いつもなら真っ先に場の空気を呼んで、結子に話しかけるだろうお茶目なルイはそこにはいなかった。今だ、連れて行かれた男がそこにいる。そう語るように虚空を睨みつけ全てを拒絶するオーラで佇んでいる。
そんなお人と二人きり。結子としてはあの人物が王様でちょい無体なことをされたけど
ひどいことをされる前にルイに助けられたからそんなにダメージはない。かなり落とされたけど。
いいんだ、平凡。平凡万歳。平凡の何が悪いのさ。その自覚があるから言われても平気だもん。
今はそれより、怒りがいえないルイのほうが心配になってしまう。

なんでこんなに怒っているの？そりゃ危ない場面だったけど…。感情むき出しのルイさんははじめて見た。
私が王に接触したから？
ルイさん、貴方の怒りはどこにあるの？

私が王に貶められたこと？それとも個人的な恨み？
神木のこと？

関係の浅い結子には確信がもてない。よってかける言葉がない。でも…、息苦しい。
この場を支配する無言の空気がずしんと結子の肩に圧し掛かるようだ。
喘ぐ様に結子は酸素を求めるべく声を出した。

「ルイ、さん」

はっとした様子でルイが結子を見る。結子がいることに驚いている様子で目が見開かれ
白昼夢でも一人見ていたようで、頭を振るっている。どこか遠くへ意識を持っていかれていたか。
自分を取り戻そうとするルイの様子が伺えた。それに心配になって結子はルイへと動こうとして
足止めされる。

「近寄るな！…こないでくれ、俺の、いえ、私の傍に今きては駄目です」

大声での抑制、それからの震える小さくなる声。
動揺する顔は結子を見ているようで見ない、宙をさまよう。

「ごめん、私は理性的ではないようだ。…部屋を出ます。一人にさせてください」

ゆっくりと出て行くルイに結子はただ黙って見送るほか術がなかった。
酷く疲弊した疲れた顔で出て行くルイ。あの男はそれほどルイに影響を及ぼす。

この国で何か問題があることは分かっていた。
二つに分裂した確執があると今日のことでなんとなく結子にも察せられた。

自分は…。何も出来ない。
この世界に来てまだよちよち歩きの子供並しかできることがない結子は自分で判断して
動くことができない自分のふがいさを知った。

「…」

知りたいと思った。
ルイのはじめて見る一面に一歩後ろに引いた結子は無意識に唇をかんでいた。
あの激昂するルイの姿にこの国の現状を。ただ樹を癒すばかりに聖域を訪れるしか出来ない
自分ではなく、もっと多くのことを。

これを欲と言うのかもしれない。

今はまだ小さく種から芽吹いた芽が顔を出したばかり。

結子の中でも小さく抱いた願望でしかまだない。自覚すら覚束ないほどの。
それがこの先の国をも動かす意志へと変わっていく。それは遠い未来の話である。

今はまだ。

『ルイさん、出ていっちゃったよ。…追いかけなくて良いのかな。…でも追いかけても何も出来ないし。…足手まといだなぁ自分は。ルイさんに迷惑かけちゃったよ』

帰り道が思わぬ展開を迎えて収束した。
しばらく考えてから、他に行きようもなく結子は自分の部屋へと戻っていった。