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21. お誘い。

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「私に?」

「そうそう、橘さんに」

目の前でニコニコと笑う同級生の男子に、その男子が差し出した長方形の紙に交互に視線を送り菫は初めてのことに戸惑う。

「映画見ておいでよ。」

「いいの?」

「いーのいーの。これ商店街の貰いものだし、余ってるのよ。橘さん、映画嫌い?
じゃなかったら貰っておいてよ。俺これ10枚も貰っちゃったの。ね、いつも部活手伝ってもらってる御礼」

確かに目の前の男子は菫がお手伝いにたまに行ってる、吉村と同じ部活のサッカー部の部員である。しかし、そんなに親しくない男子から物を貰う経験など菫はない。よくて弟から誕生日かお土産に何か貰うくらいで。
しかし、それは日頃のお礼とまで言われて、差し出された映画のチケットだ。
無碍に断ることも菫にはできなかった。

「じゃ、貰って。あんま気にしないで、他の部員にも好きな奴には上げてるんだ」

そう菫が受け取りやすいよう行ってもくれている。
思わずちょっと強引に渡されたチケットを菫が受け取った。

「あ、吉村ー、お前もいいところにきた。こっち来いよー!」

その後にすぐにその男子は別の人間に声をかける。菫の知る吉村だった。

「何だよ阿倍ー」

「んだよ反応悪いな。映画のチケットやんねーぞ?」

「チケット?」

「そーそー親戚のおばちゃんから商店街の景品って貰ったけど10枚だぜ。しかも恋愛もの。見る気ねーからほしそうな奴にやってるの」

「ふーん」

「橘さんにも上げたんだ。お前にもやるよ。あ、なんだったら二人で行ったら?」

阿倍と呼ばれた男子生徒に近づいてきた吉村は人気者らしく、阿倍と仲良く話し始めた。それをチケットを貰った御礼もまだ行ってなかった菫は勝手にクラスに帰ってもいいのか分からず会話を聞き流して仲良いなぁと眺めていたところ、阿倍に急に話を振られて吉村と同時に「「え?」」と驚きの声を上げた。

「まー、いいじゃん。同じ映画見に行くんだし、橘さん、暇ならこいつと行ってやってよ」

急に話題に参加させられた菫は驚きで阿倍を見るが阿倍は隣の吉村の肩を抱いてにやにやと笑い始めるばかりでそう提案したっきり菫の反応を待つばかり

なんて返して良いか菫はあたふたする。
そんな予定はまったくなかった。貰っても一人で見に行くつもりだったのだ。

「あー、一緒に行く?予定ないなら…。」

無言のまま何もいえない菫を見かねて吉村が口を開く。
え、行くの?
でもそれって…。

「デートとかじゃないよ。ただ映画見るだけ。その後すぐ別れても良いし、暇なら散歩しても良いし、硬く考えないで。友達と遊ぶのと一緒だから」

「う、うん」

「今すぐの答えじゃなくて構わないから」

「はい…。」

その後、二人に頭を下げて別れをいい、菫は逃げるように小走りで教室へと走り去って行った。

「すっげー、菫ちゃん緊張しまくりの照れまくりだったな。うぶいー。」

「おまえなー」

その姿はまるで脱兎そのもので笑う阿倍に吉村は深い深いため息を吐いた。
お前完璧遊んで面白がってるだろう?




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