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覚醒

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「白百合、本当にいいの?」

みのりの問いかけに主に背を向ける形で振り返ったメイドAIが
表情のなかった顔にわずかな薄い感情を乗せて頷く。
それにみのりも頷き返し、羞恥にわずかに戸惑いをのせて
でも、覚悟を決めたようにメイドの肩に手を乗せた。

「この移動方法がもっとも主様への負担が少ないものと判断しました」

中腰でかがんだ状態だったメイドが立ち上がりそう説明する。

「でも、恥ずかしいよ」

顔を隠そうとするみのりにメイドは堂々とした(もともと無表情で堂々としているが)態度で答えた。

「みのり様が強くなるには必要なことなのです。ご理解いただけたはず。
移動でのリスクを最小限に、それにはこれが一番なのです」


みのりをおんぶしたメイド、改め白百合がしごく真面目な顔で説明する。


白百合、みのりがメイドに与えた名前である。
それは天使ガブリエルが百合の匂いをさせて舞い降りることから
ヒントを得てみのりがつけた。神(GM)に仕える天の御使いのイメージだと
本人はつけたが密かに中二扱いされないか、ちょっと恥ずかしがっている。

だが背に負ぶわれて香ってくる白百合からの優しい匂いは
確かに香水のような人工物的な匂いではなく生花に近い爽やかな匂いだった。

話してみて分かったが彼女はとても優秀なAIだ。
感情のない人形だと思われた態度も名前をつけ、こちらの態度を改めたら
軟化した。なんというかまるで本当の人間に接しているように錯覚するほど
彼女は作りこまれたAIなんだとぼんやりとだがみのりにも感じられた。


「では、これよりみのりさまと相談したとおりのフォーメイションでウルフと
対戦いたします。よろしいですね」

「うん」


二人が北の草原へと走り出す。



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