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志村礼二は村上詩織の求めに応じるように目を瞑り自分の中にある記憶を順序だてて回想し始めた。

はじめはこの学校に入ろうと決めた理由。それは単にここが志村にとって通学が一番便利でそしてそこそこの進学校であったことと知り合いが先にこの学校に入っていて入学してからの行動が志村にとって便利に働くだろうことが予測出来るなどずいぶんと打算的なことで決められた。

志村には詩織が知らないだろう裏の顔がある。
この学校の一生徒という前というだけでなく、いや志村にとってはそちらのほうが真実の自分であるのかもしれない。
志村はある妻子ある男とその愛人をしていた志村の母親との間に生まれた。不倫関係だった二人は志村の母親が相手に内緒で勝手に志村を妊娠したことから関係が変わって行く。男は地位ある男で妻にも世間にも不倫を知られたくない。しかも子供までできたなど言語道断だった。水商売をしていた志村の母はそれも計算づくでその上で堕胎が不可能な時期になってから男に会いその事実を告げ、男を脅した。

最初から二人の間には純粋な愛など欠片もなかった。お互いを利用してやろうという邪な思いと自分勝手な支配欲のような傲慢さしか持ち得ない関係で男においては遊びでしかなかった。それを知っていた女は金払いのいい男が自分を捨てようとしているのを知って計画を実行した。

ずいぶんと長い間、母親は認知を求めない代わりに志村の父親に集り強請っていた。それも自分の容姿が年をとり衰え始めると別の男を見つけ、新婚で邪魔になった志村を家から閉め出し、一人暮らしを強要した親の風上にも置けない自分最高主義の最低な母親だった。

小学の最高学年の頃には志村にお金はくれるが家には寄り付かなくなった母親に、夜自由に外に出て歩ける志村は夜の繁華街に時間をつぶす場所を求めて俳諧をするようになる。金だけは持っている小学生。小学生だったといっても志村は人より発育がよくその当時、すでに高校生に見えるだけの身長と体格を持っていた。
そして両親どちらに似ても美形と言う甘いマスク、夜の街は自然と志村を受け入れた。

中学になってさらに志村は自由になる。母親の結婚で一人暮らしになり、完全に結婚相手が常識人であるために払ってもらえることになった養育費、その金だけの関係だけで切れたもともと希薄だった親子関係で、最低限学校だけはまじめに通うともともと頭のいい志村も了解済みの条件を押し付けただけの他はまったく干渉されない自由に志村は羽を伸ばした。

その頃には金を持っている志村の周りには使える人間が集まっていて
勝手にチームだと呼ぶものもいるたまり場もでき、そこにお気に入りの人間を集めて昼の仮面をかぶってまじめに過ごした志村のストレスを癒した。

高校に入る頃にはその生活にも若干の飽きを覚えながらも次のゲームが思いつかず無為な時間を過ごしていた。

成績も態度もまじめな昼の志村を疑うものはおらず
夜の志村は同い年の子供らの集まりでキングのように振舞いながらも一歩引いたところで実に冷静で、自分も利用し彼らに利用される側であることを利用していた。

いつでも感情よりも理性。あの母の行き方を近くで見て常に孤独を強いられてきた志村の中には感情のままだけで行動してはならないという戒めと、甘えをもって誰かに無計画に頼った先の破滅を容易に描くことのできる脳があった。

人間を斜めに見て育ってきた穿った志村は高校に入ってもそれを変えることはないと漠然と感じていた。

そして高校での人間関係にもすぐに落胆し始めていた。


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