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「レンは今日泊まる場所決まっているの?」
イレネの言葉にその時ようやく気づいたとばかりにレンが同様に瞳を揺らす。抜け目ないイレネはその同様を読み取ってふふふと笑みを浮かべた。
「彼の元には戻れないものね」
「…。」
「私にいい案があるわ。私の住んでるところにこない?」
「それは…。」
「やっぱりそこまではまだ、よね。でもいいわ。今からでも宿泊できる宿を教えてあげる。顔の聞くところがあるの、他の人も泊まる宿なら良いでしょう?もちろん料金もレンが払うの。ならいいでしょう?」
財布は常に携帯している。ズボンのポケットに、それと服装の胸ポケット。あと僅かにだが足にも仕込んである。もしもの時の危機管理。いざという時にと用心するのは何の保証もない冒険者なら良くやることだ。
いつ魔物に襲われるか分からない。一箇所ならば攻撃を受けた際、なくすかも知れない。盗賊にとらわれるかもしれない。逃げたときお金があると安心な時だってある。子供の頃から備える大人たちを見て育ったレンはそれを見て育ちおのずと自分も用心深く準備をすることを覚えていた。
見た目は少し気さくで気のいい爽やかな冒険者だが、一般人ではない危機に関しての敏感さは人一倍だった。
咄嗟に出てきたが、お金はあると胸元に手を置いて確認し、野宿でも構わないが屋根の下に眠れるならそのほうが良いとイレネの提案に頷いた。
「冒険者用の宿はすぐ一杯になるけど、そこは街外れで観光用なのよ。お年寄りの夫婦が趣味でやっているような民宿みたいな宿でね。宿泊できる部屋も少ないからみんな見落とすの。だからいつも部屋が2,3空いてるのよ。ゆっくりできるいい宿だから行きましょう、ね」
腕に絡みついたイレネに引っ張られるままレンは街のはずれへと案内される。
日が沈みだした街並みはすっかり人もまばらで、空を見れば月が見える。
その月が見下ろすした、二人の影が灯り始めた街灯に長い影を作る。
「明日、私の貢献をしてくれている方に紹介するわ。皆あなたを温かく迎えてくれるわ。とても良い人たちなの。自慢の人たちよ。今でこそこんな街で苦労されていらっしゃるけれど、本当はとても高貴で聡明な方。レンも彼を見本とすれば良いわ」
みゃあと鳴く黒猫が二人の歩く街道の端でゴミをあさる。
家々からは街灯とは別の灯りが宿り、宿に着く頃にはすっかり外は夜だった。
「おばさま、お客様よ。私の大事なお連れ様なの。どうか泊めてあげて」
「まあ、私たちの小さなお姫さまじゃない。いいわ、お客様どうぞこんな所ですが泊まってください。なにもかまえませんがどうぞゆっくりしてください」
宿に入ればイレネの言うとおりの歓迎を受ける。
人のよさそうな婦人に、受付のカウンターには柔和太鼓腹の張り出た主人。主人に今日の宿代を軽く交渉して部屋の鍵を受け取る。
イレネとは部屋に入る前にホールで別れた。
すっかり遅い時間にイレネの家まで送らねばと思うがそれは宿屋の主人が買って出た。そしてレンは部屋へと入り、疲れた体をベッドへとダイブさせた。
柔らかなシーツの匂いに全身の力を抜く。
すぐに眠れそうなほど疲れを感じる。夕食はまだとっていないがこのまま眠ってしまいたい衝動に襲われる。
イレネはやっぱり良い子だ。そして信頼できる人たちが周りにいる。
やっぱり間違っているのは、きっと親父のほうだ。
レンはまた自分の考えに自信を深めた。
「レンは今日泊まる場所決まっているの?」
イレネの言葉にその時ようやく気づいたとばかりにレンが同様に瞳を揺らす。抜け目ないイレネはその同様を読み取ってふふふと笑みを浮かべた。
「彼の元には戻れないものね」
「…。」
「私にいい案があるわ。私の住んでるところにこない?」
「それは…。」
「やっぱりそこまではまだ、よね。でもいいわ。今からでも宿泊できる宿を教えてあげる。顔の聞くところがあるの、他の人も泊まる宿なら良いでしょう?もちろん料金もレンが払うの。ならいいでしょう?」
財布は常に携帯している。ズボンのポケットに、それと服装の胸ポケット。あと僅かにだが足にも仕込んである。もしもの時の危機管理。いざという時にと用心するのは何の保証もない冒険者なら良くやることだ。
いつ魔物に襲われるか分からない。一箇所ならば攻撃を受けた際、なくすかも知れない。盗賊にとらわれるかもしれない。逃げたときお金があると安心な時だってある。子供の頃から備える大人たちを見て育ったレンはそれを見て育ちおのずと自分も用心深く準備をすることを覚えていた。
見た目は少し気さくで気のいい爽やかな冒険者だが、一般人ではない危機に関しての敏感さは人一倍だった。
咄嗟に出てきたが、お金はあると胸元に手を置いて確認し、野宿でも構わないが屋根の下に眠れるならそのほうが良いとイレネの提案に頷いた。
「冒険者用の宿はすぐ一杯になるけど、そこは街外れで観光用なのよ。お年寄りの夫婦が趣味でやっているような民宿みたいな宿でね。宿泊できる部屋も少ないからみんな見落とすの。だからいつも部屋が2,3空いてるのよ。ゆっくりできるいい宿だから行きましょう、ね」
腕に絡みついたイレネに引っ張られるままレンは街のはずれへと案内される。
日が沈みだした街並みはすっかり人もまばらで、空を見れば月が見える。
その月が見下ろすした、二人の影が灯り始めた街灯に長い影を作る。
「明日、私の貢献をしてくれている方に紹介するわ。皆あなたを温かく迎えてくれるわ。とても良い人たちなの。自慢の人たちよ。今でこそこんな街で苦労されていらっしゃるけれど、本当はとても高貴で聡明な方。レンも彼を見本とすれば良いわ」
みゃあと鳴く黒猫が二人の歩く街道の端でゴミをあさる。
家々からは街灯とは別の灯りが宿り、宿に着く頃にはすっかり外は夜だった。
「おばさま、お客様よ。私の大事なお連れ様なの。どうか泊めてあげて」
「まあ、私たちの小さなお姫さまじゃない。いいわ、お客様どうぞこんな所ですが泊まってください。なにもかまえませんがどうぞゆっくりしてください」
宿に入ればイレネの言うとおりの歓迎を受ける。
人のよさそうな婦人に、受付のカウンターには柔和太鼓腹の張り出た主人。主人に今日の宿代を軽く交渉して部屋の鍵を受け取る。
イレネとは部屋に入る前にホールで別れた。
すっかり遅い時間にイレネの家まで送らねばと思うがそれは宿屋の主人が買って出た。そしてレンは部屋へと入り、疲れた体をベッドへとダイブさせた。
柔らかなシーツの匂いに全身の力を抜く。
すぐに眠れそうなほど疲れを感じる。夕食はまだとっていないがこのまま眠ってしまいたい衝動に襲われる。
イレネはやっぱり良い子だ。そして信頼できる人たちが周りにいる。
やっぱり間違っているのは、きっと親父のほうだ。
レンはまた自分の考えに自信を深めた。
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