もっと異世界の話を聞こうか-連載版-

12時のトキノカネ

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母親の名前を凛子から明子に変更しました。
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父親のいる宿屋の部屋に戻ることができず、レンは二階の階段を下りて一階の食堂を突っ切る。本来なら昼食の時間は過ぎてまだの食事でも、となるだろうがそんな気分にはなれない。
ふらりと宿屋を出て、今滞在している街の大通りを当てもなく歩く。
興味本位に店の中に入る気にもなれずもっぱら商品を飾っているウインドウを眺めて通り過ぎる。

頭の中は考えるのを拒絶したように真っ白だった。

適当に歩いていてもどこかには行き着くもので、次第に街の中心地、広場に出てしまう。そこは長閑で噴水に座る人。ベンチに座る人。
大道芸人、その大道芸人の芸を見る人、近くで売られているお菓子を火って食べる人。いろんな人々が憩いに来て和やかに過ごしていた。

どこか自分のいる命のやり取りをする職業が嘘のような
幸せに満ちた穏やかに暮らす人々に見えた。
毎日、モンスターを狩って殺して、怪我を負って、そんな生活が馬鹿みたいだ。
安定できる危険のない生活。

定住して生き、家族と何の変哲もないが変化もない変わらない毎日を営むのもいいと思わせてくれる笑顔に満ちた広場だ。

時にこの場で罪人の公開処刑を行っている同じ場だとは思えない。

店は景気欲呼び込み、客は会話で商品を頼みながらおまけに喜ぶ。

じっと人の動きをなんとなく座って見ていた。

どうしてか、自分だけここには不似合いな異分子に思えたけれど
いろんな街で流れて定住しない自分には似合いのように思えた。

レンには故郷だと思える場所はない。

いつも父と二人きり。ギルドの依頼を受けて街にとどまり、次の街へ次の依頼を受けに行く。
そして異世界への情報を探してあてどない放浪。
それに不満はない。

異世界への道探しは夢があった。まだ見知らない母の故郷こそ自分の故郷だと思っていた部分もある。

この世界で頼るのもいつも当てにするのも父親だけ。
共通の願いを持って、普通の親子以上に結びついた絆があったと思う。

父親を殴った。殴り飛ばされた父のシャルは当然吹き飛ばされて床に転んでいた。今頃殴られたほほは熱を持ってはれているだろうか。

「……。」

謝りに行こうか。
シャルは絶対にレンを探す。あの父親はぶっきらぼうにしてみせても実は根の部分でレンにすごく甘い過保護な父なのだ。
絶対に心配しているだろう。

広場で座っているうちに日も傾いて夕時から薄暗闇になる。
こうなると人々が徐々に自分たちの家路に着く。

いい加減、冷めてきた頭にレンも腰を上げ帰ろうとして声がかかった。


「レン?一人でいるの?」

でもそれは今、レンが望んでいた人物ではなかった。





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