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妻という人は
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「しゃんとしなさいよね、あんたは」
歩いていると背中を何者かに叩かれる。それに俺は振り返ると
眼鏡をかけた一人の女性がニコニコと笑って俺を見上げていた。
ああ、またあんたか
俺はため息を吐いて飽きれを表すように肩をすくめる。
俺をシャムネコみたいだという彼女は何故か時々俺を付け回して
困らせる。
第一印象から彼女に好かれるような行動などとった覚えなどないのに
彼女は俺にいつも笑顔を向けてきた。
「シャルはすぐ猫背になるのよね。自信のなさが格好まで表れてるなんてダサッ」
「なっ」
ケラケラと笑いながらまた背を叩いた彼女のいいように俺は目を瞠る。
それは言い過ぎではないだろうか。
意識して背筋を伸ばしてから彼女を睨んだ。
黒髪を一本のおさげに編んだ
あんたこそ地味で目立たない外見の女じゃないか。
あんたこそ
「間違わないで。私はあんたと違ってあの女と比較されても卑屈になってないわ。あんたが兄弟たちにコンプレックスをもって自分に卑屈になってるのとは違ってね」
「ぐっ」
聖女は二人、この世界に現れた。
一人はこの女。
もう一人は、…俺の兄たちにちやほやされて王宮の中で
まさに女王のように傅かれて暮らしている。
俺はどうもそれに馴染めない。
だからこそ見下され真偽を疑われたもう片方のこの女が
纏わりつくのかと思えば…。
「なに壁に頭つけて項垂れてるのよ。失礼ね」
「いったでしょ。私はあんたにこそ才能があるといっているのよ」
ちらりと見れば不敵に笑う、地味な女。
「手を出して」
勝手に俺の手を握っていつもの呪文をつぶやく。
『ステータスオープン』
これは聖女の特権スキルを使う〝言葉”らしい
そして俺の真実を無条件に彼女に映し出すらしい。
「貴方、自分が思うほど才能なしじゃないのよ。努力もちゃんと力になって
数字で出てる。ただ目の前にあいつらがいて見えなくなっているだけ」
そう言う彼女の言葉を俺は素直に信じられない。
甘い言葉、そんな堕落へと誘惑するような言葉をすぐに「はい」と
頷いて聞けるほど俺は素直ではない。
自分でも思うほどのひねくれ屋だ。
疑心暗鬼で彼女が離した手を見る。
俺は俺にあるという秘められた能力を見るステータスなるものを
確認することは出来ない。
ただそれがあるとするなら彼女の言葉を鵜呑みにするしかない。
「私に任せなさいよ」
後に俺の妻となってくれる人は
どんと胸を叩いた。
「親父、母さんは…」
妻は俺に息子という大切なものを贈ってくれた人。
必ず迎えにいくからな。
その時は…。
あの頃、素直になれずに言えなかったほめ言葉を言ってやるよ。
あんた可愛い女だって。
「しゃんとしなさいよね、あんたは」
歩いていると背中を何者かに叩かれる。それに俺は振り返ると
眼鏡をかけた一人の女性がニコニコと笑って俺を見上げていた。
ああ、またあんたか
俺はため息を吐いて飽きれを表すように肩をすくめる。
俺をシャムネコみたいだという彼女は何故か時々俺を付け回して
困らせる。
第一印象から彼女に好かれるような行動などとった覚えなどないのに
彼女は俺にいつも笑顔を向けてきた。
「シャルはすぐ猫背になるのよね。自信のなさが格好まで表れてるなんてダサッ」
「なっ」
ケラケラと笑いながらまた背を叩いた彼女のいいように俺は目を瞠る。
それは言い過ぎではないだろうか。
意識して背筋を伸ばしてから彼女を睨んだ。
黒髪を一本のおさげに編んだ
あんたこそ地味で目立たない外見の女じゃないか。
あんたこそ
「間違わないで。私はあんたと違ってあの女と比較されても卑屈になってないわ。あんたが兄弟たちにコンプレックスをもって自分に卑屈になってるのとは違ってね」
「ぐっ」
聖女は二人、この世界に現れた。
一人はこの女。
もう一人は、…俺の兄たちにちやほやされて王宮の中で
まさに女王のように傅かれて暮らしている。
俺はどうもそれに馴染めない。
だからこそ見下され真偽を疑われたもう片方のこの女が
纏わりつくのかと思えば…。
「なに壁に頭つけて項垂れてるのよ。失礼ね」
「いったでしょ。私はあんたにこそ才能があるといっているのよ」
ちらりと見れば不敵に笑う、地味な女。
「手を出して」
勝手に俺の手を握っていつもの呪文をつぶやく。
『ステータスオープン』
これは聖女の特権スキルを使う〝言葉”らしい
そして俺の真実を無条件に彼女に映し出すらしい。
「貴方、自分が思うほど才能なしじゃないのよ。努力もちゃんと力になって
数字で出てる。ただ目の前にあいつらがいて見えなくなっているだけ」
そう言う彼女の言葉を俺は素直に信じられない。
甘い言葉、そんな堕落へと誘惑するような言葉をすぐに「はい」と
頷いて聞けるほど俺は素直ではない。
自分でも思うほどのひねくれ屋だ。
疑心暗鬼で彼女が離した手を見る。
俺は俺にあるという秘められた能力を見るステータスなるものを
確認することは出来ない。
ただそれがあるとするなら彼女の言葉を鵜呑みにするしかない。
「私に任せなさいよ」
後に俺の妻となってくれる人は
どんと胸を叩いた。
「親父、母さんは…」
妻は俺に息子という大切なものを贈ってくれた人。
必ず迎えにいくからな。
その時は…。
あの頃、素直になれずに言えなかったほめ言葉を言ってやるよ。
あんた可愛い女だって。
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