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昔々
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昔々、とあるお城にとても物覚えの悪いお姫さまがおりました。
お姫様は自分の名前も忘れてしまうので、ものわすれ姫と呼ばれるようになり、本当の名前は忘れ去られてしまいました。
あまりにもものわすれが酷いので、城中にも町でもものわすれ姫を笑い者にした悪い噂が広まってしまいました。
その悪い噂は当然ものわすれ姫の耳にも届いたのですが、すぐ忘れてしまうので、ものわすれ姫は毎日が幸せでした。
王様も姫が幸せならば良いだろうと、姫のものわすれをなおそうとしませんでした。
ところがある日のこと、ものわすれ姫はよりにもよって一人の魔法使いを怒らせてしまいました。
ものわすれ姫はそんなこともけろりと忘れてしまったので魔法使いはもっと怒りだしました。
かんかんに怒った魔法使いは、ものわすれ姫に呪いをかけました。
それは、全てのことを一生忘れられなくするという呪いでした。
「どうだ、これでもう忘れまい。」
魔法使いは不気味に笑いながら国を出ていきました。
城に帰ったものわすれ姫は驚きました。
王様が、息絶えようとしていたからです
ずいぶん前から病にかかっていたのですが、ものわすれ姫は覚えていなかったのでした。
病にかかった王様を置いて出掛けていたものわすれ姫に、同情してくれる者はほとんどいません。
批難を受けながらも、ものわすれ姫は王様の近くでただ泣き続けました。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
王様が亡くなってからも、ずっと姫は泣き続けました。
もう自分を愛してくれた人はいない。
「こんなに辛いこと、忘れてしまいたい。」
ですが姫は呪いによってすでに、ものわすれ姫ではなくなっていたのでした。
その日から、ものわすれ姫は毎日辛いことばかりでとても苦しんでおりました。
ところがある日、一人の王子がやってきました。
その者はかつて、ものわすれ姫の噂を聞いてから気の毒に思い、顔を覚えてもらえるように毎日通い続けていた王子でした。
「何かを覚えるというのは大切なことです。」
そう言って、誰もが諦めてしまった姫のものわすれを必死になおそうとしてくれた唯一の人でした。
「姫、悲しむ気持ちはよくわかります。けれど、ものわすれをしなくなった今の姫なら反省をすることができます。反省をすることで、同じ間違いを防ぐことができるのです。やり直しましょう。今の姫ならきっと国を支えることができるはずです。私も一緒に手伝いますから。」
こうして、ものわすれ姫は王子と王様が亡くなったことで傾いていた国を立て直すことになりました。
姫の記憶力のおかげで、以前よりも間違いがなくなってすばらしい国へと発展していきました。
そして姫はやっと知ることができたのです。
どんなに辛い記憶でも、覚えていることで大切なことを知ることができると。
今がどれだけ幸せか。どんな苦労によって達成できたのか。
しばらくして、姫は王子と共に自身に呪いをかけた魔法使いの元に行きました。
怒らせてしまったお詫びと、呪いをかけてくれたお礼をするために。
ですが、すっかり老いた魔法使いは何も覚えていませんでした。
「あぁ、お客さんがきてくれたのは久しぶりだ。」
ものわすれ姫をとても憎んでいたはずの魔法使いは、そう言ってにこやかに笑いかけました。
「忘れられるって、こんなに悲しいものなのね。」
姫は寂しそうに、魔法使いと別れを告げました。
「姫、私は最後まであなたとの大切な思い出をどれだけ忘れずにいられるでしょう。」
「あなたが忘れてしまっても、私が覚えているわ。」
「ありがとう。そうだ、姫。まだ大事なことをお忘れでは。」
「大事なこと?」
「あなた様のお名前です。」
最後に王子は、ものわすれ姫の本当の名前を口にしました。
「ずっと、おぼえていてくれたのね。ありがとう。」
二人は寄り添って国へと帰っていきましたとさ。
お姫様は自分の名前も忘れてしまうので、ものわすれ姫と呼ばれるようになり、本当の名前は忘れ去られてしまいました。
あまりにもものわすれが酷いので、城中にも町でもものわすれ姫を笑い者にした悪い噂が広まってしまいました。
その悪い噂は当然ものわすれ姫の耳にも届いたのですが、すぐ忘れてしまうので、ものわすれ姫は毎日が幸せでした。
王様も姫が幸せならば良いだろうと、姫のものわすれをなおそうとしませんでした。
ところがある日のこと、ものわすれ姫はよりにもよって一人の魔法使いを怒らせてしまいました。
ものわすれ姫はそんなこともけろりと忘れてしまったので魔法使いはもっと怒りだしました。
かんかんに怒った魔法使いは、ものわすれ姫に呪いをかけました。
それは、全てのことを一生忘れられなくするという呪いでした。
「どうだ、これでもう忘れまい。」
魔法使いは不気味に笑いながら国を出ていきました。
城に帰ったものわすれ姫は驚きました。
王様が、息絶えようとしていたからです
ずいぶん前から病にかかっていたのですが、ものわすれ姫は覚えていなかったのでした。
病にかかった王様を置いて出掛けていたものわすれ姫に、同情してくれる者はほとんどいません。
批難を受けながらも、ものわすれ姫は王様の近くでただ泣き続けました。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
王様が亡くなってからも、ずっと姫は泣き続けました。
もう自分を愛してくれた人はいない。
「こんなに辛いこと、忘れてしまいたい。」
ですが姫は呪いによってすでに、ものわすれ姫ではなくなっていたのでした。
その日から、ものわすれ姫は毎日辛いことばかりでとても苦しんでおりました。
ところがある日、一人の王子がやってきました。
その者はかつて、ものわすれ姫の噂を聞いてから気の毒に思い、顔を覚えてもらえるように毎日通い続けていた王子でした。
「何かを覚えるというのは大切なことです。」
そう言って、誰もが諦めてしまった姫のものわすれを必死になおそうとしてくれた唯一の人でした。
「姫、悲しむ気持ちはよくわかります。けれど、ものわすれをしなくなった今の姫なら反省をすることができます。反省をすることで、同じ間違いを防ぐことができるのです。やり直しましょう。今の姫ならきっと国を支えることができるはずです。私も一緒に手伝いますから。」
こうして、ものわすれ姫は王子と王様が亡くなったことで傾いていた国を立て直すことになりました。
姫の記憶力のおかげで、以前よりも間違いがなくなってすばらしい国へと発展していきました。
そして姫はやっと知ることができたのです。
どんなに辛い記憶でも、覚えていることで大切なことを知ることができると。
今がどれだけ幸せか。どんな苦労によって達成できたのか。
しばらくして、姫は王子と共に自身に呪いをかけた魔法使いの元に行きました。
怒らせてしまったお詫びと、呪いをかけてくれたお礼をするために。
ですが、すっかり老いた魔法使いは何も覚えていませんでした。
「あぁ、お客さんがきてくれたのは久しぶりだ。」
ものわすれ姫をとても憎んでいたはずの魔法使いは、そう言ってにこやかに笑いかけました。
「忘れられるって、こんなに悲しいものなのね。」
姫は寂しそうに、魔法使いと別れを告げました。
「姫、私は最後まであなたとの大切な思い出をどれだけ忘れずにいられるでしょう。」
「あなたが忘れてしまっても、私が覚えているわ。」
「ありがとう。そうだ、姫。まだ大事なことをお忘れでは。」
「大事なこと?」
「あなた様のお名前です。」
最後に王子は、ものわすれ姫の本当の名前を口にしました。
「ずっと、おぼえていてくれたのね。ありがとう。」
二人は寄り添って国へと帰っていきましたとさ。
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