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入れ替わったJKが真面目すぎる

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「困ったなぁ…。」


僕は小説家である。儲けてはいない。
書きたいものが書けるような立場ではなく、「入れ替わりものでも書いてくれ」と頼まれてネタを考えているところだった。

これがなかなか、定番すぎて斬新な話が浮かばない。
男と女。親と子供。金持ちと貧乏。人間と動物。

もっと違うものが書きたくて、試行錯誤をしたものである。
双子。老人と幼子。ロボットと人間。
どうも話が上手く構成できない自分に苛立っていた。


おっと、今困っているのはその件ではなく…。



目の前にいるのが僕で、今の私が女子高生になってしまったことに対してだ。

「うわぁ。」

こんなことが実際に起こるとは。
ちょうど入れ替わりネタを考えていたタイミングで、こうなってしまうとは。
夢でも見ているかのような気分だ。

というか、ネタを考えるあまりに周囲を見てなかった僕が女子高生とぶつかったのだから、全面的に僕が悪いので申し訳ない。
一瞬でも、小説のネタに使えるかな?と思ってしまった自分が情けない。


「あの…。」


それにしても、先ほどから私が何も喋ってくれないんだがどうしたものか。
え?入れ替わってるよね?君の中身は女子高生なんだよね?
まさか中身が空っぽだとか、中身の私が残ってるとかじゃないよな!?

え、違うよね!?なんだか怖くなってきたんだが!?


「ぼ、僕たち…入れ替わってるん、ですよね?」


震える声で訪ねると、返事が返ってきた。


「あなたがそう言うなら、たぶんそうだと思います。」


よかったーー!!中身は無事だーーーー!!


「私の気が狂ったのかと思いました。もしくは記憶喪失とか。」

「君、入れ替わりものとか読んだことないの!?」

「ありますけど…実感なくて。」






互いの状況を確認したところで、今後の相談をすることにした。
もう一度、同じことをやれば元に戻れることを期待して実行してみたが成功しなかったことだし。


「定番からしてみても、誰も信じてくれないかもしれないし、精神の病と思われて外に出してもらえなくなるのも困るから…ここはやはり秘密にするべきかな?」

「それなんですけど、私は公表するべきだと思います。」


なんかすっごい目付きで睨まれた。
僕ってそんな顔できるの?


「現実的に考えてください。家族を騙せると思いますか?結果的におかしいと思われて病院行きですよ。」

「僕もそれなりに現実的に考えてるんですけど!?」

「第一、入れ替わりは世間に認知させるべきだと昔から思ってたんです。秘密にする必要あります?」

「いや、だから言ったじゃないか。信じてくれるかわからないし、精神の病だと思われたら面倒なことになるし。」

「信じられないのは、そういう実例が証明されてないからです。」


相手は僕に向かって強く言い放った。


「私たち以外にも、同じような入れ替わりになった人がでるかもしれない。もう既にいてもおかしくない。だからこそ主張しないと、ありえないものとして否定され続けるんです。」


言われてみると、マイノリティに近いようなものに思えてきた。


「実例があれば、他にも同じ人が見つかるかもしれない。相談ができるかもしれない。対策もできるだろうし、戻り方がわかるかもしれないんですよ。」


たしかに。
入れ替わりがどれだけ面倒なのかは読書でよく知っている。
だがもしも世間が事実だと認めてくれるようになったとしたら、どれだけ救われるだろう。

僕はともかく、女子高生だった彼女は不安なことだろう。見ず知らずの男なのだから。
そんな彼女の姿が変わっていても、彼女の家族が認めてくれて、同じように生活できたなら…。


「まぁ、そうだよね。秘密にするのは物語を面白くするためでもあるだろうし。」

「とはいえ信じてくれると期待はしてないですけどね。さっき、私も自分が狂ってると思いましたし。」


あ、そういえば言ってたっけ。


「でもバレるのを恐れながら、嘘をついて自分を偽りながら生きるよりは良いと思いませんか?」



ここまで言われてしまったら、もうどうしようもない。
あとは僕が決断するだけなのだ。

秘密にするのも面白そうだが、ここは彼女の意見も尊重したい。


「わかったよ。入れ替わりのことは公表してみよう。」




その後、男が女子高生に絡んでいるとの通報で一悶着あったのはまた別の話である。
そうだよな。知らんおっさんから説教されてる女子高生の図とか完全に通報ものだったな。
警察はさすがにやばいから適当にごまかしたが。


「まずは家族に相談して、医者にも相談してみましょう。」

「大丈夫かなぁ。」

「なんだったらテレビ出演でアピールすれば一発ですよ。」

「え、テレビでるの!?」


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