おとぎ姫の異種間恋愛物語

たとい

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ラプンツェル

蛇のラプンツェル

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高い塔に、一人の魔女が住んでいました。




「ここでなら誰にも邪魔されずに魔法の研究ができるわ!」




ところがある日、一匹の蛇が塔の最上階まで登ってきました。

そして一つだけある窓から部屋に入ると、あろうことか魔法の植物であるラプンツェルをぱくりと一飲みしてしまったのです。

蛇はたちまちに大きくなり、金色の大蛇になっていました。

地下から帰ってきた魔女はびっくりです。




「馬鹿な蛇ね!魔女のものを盗み食いするだなんて。」




部屋から追い出したくても大きすぎるし、暴れまわったせいで体が絡まっていてどうすることもできません。

幸い、魔法の効果は主に金色になった蛇の皮の表面に出ていたので脱皮をして魔法の力が皮と一緒に抜けるまで魔女は世話をしてやることにしました。

蛇は何度か魔女の態度に腹を立てて魔女を食ってやろうかと考えましたが、魔女を食べてしまったら世話をしてくれる者がいなくなるので我慢しました。

いつしか魔女は蛇のことを、盗み食いした食べ物と同じラプンツェルという名前で呼ぶようになりました。

蛇も、世話をされているうちに魔女と気さくに話すようにもなりました。




「ラプンツェル、外にいる男たちを追い払ってちょうだいな。」




塔には幾度か男たちが訪れていました。

そこに住む彼女の歌声がとても美しかったので、それを偶然聞いた者が塔までやってきてしまうのです。

そして窓から彼女を見ると、男たちはその美しさにすっかり魅了されてしまうのでした。

彼らがあんまりにも鬱陶しかったので蛇は自分の尻尾を窓からおろして追い払いました。

邪魔だった男たちを追い払ってもらえて大喜びした彼女は、蛇が塔にやってきた男たちを追い払うたびに御馳走を用意してやりました。

蛇は何もしなくても御馳走をもらえるし、彼女は邪魔者を追い払ってもらうことができて、互いに幸せな毎日を送るようになりました。




「あなたがいてくれてよかったわ。私、男性が苦手だからこの塔に一人で暮らしていたの。」




美人なのにもったいない、と蛇は思いました。

さて、最近は尻尾で追い払ってきていたおかげか塔にやってくる人間は少なくなったのですが、一人の男だけが毎日のよう訪れておりました。

その男は毎回、しつこく尻尾につかまろうと必死でした。おそらくは、それに登って塔に入るつもりなのでしょう。

実は、追い払われた男たちの誰もがそれを巨大な蛇の尻尾だなんて気づいていませんでした。

普通は尻尾より頭を出すものですし、こんなにも大きくて長い尻尾も見たことがありません。なにより金色に光る生き物がいるなんて思いもしなかったのです。

知っていたら、きっともっと大騒ぎになっていたことでしょう。




「おや、なかなか根性のあるやつがいるな。」




こっそりと隠れて外の様子を見ていた蛇は、どれだけ追い払われてもあきらめず彼女への愛を語るその男に感心し、彼ならば彼女ともうまくやっていけるだろうと蛇は思いました。

そこで塔にやってくる男性がついに彼一人になった頃、蛇は大人しく尻尾に男を登らせてやりました。

蛇は顔を隠して部屋の様子を静かに伺うことにしました。

男が尻尾を登って窓から部屋に入って部屋を見渡していると、そこへ彼女が地下から戻ってきました。

とうとう出会えたことに男は歓喜しましたが、一方の彼女はそれはもう驚いた顔をして男を凝視しました。

男が近づこうと一歩前に進むと、彼女は脅えて下がろうとしたのですが慌てていたので転んでしまいました。

そんな彼女を心配して男は彼女の手をとったのですが、彼女の持っていた薬や本を見てその手を止めました。




「まさか、魔女だったのか!?」




男は彼女が魔女だと知ると、先ほどまでの態度とは打って変わって嫌悪の目を向けました。

蛇は自分の過ちに気が付きました。彼女は優しいが魔女であり、魅力的だが忌み嫌われる存在であったこと。

彼女が男性を苦手になったのも、言い寄ってきた男が自分の正体を知った途端に迫害するからでした。

男は魔女をつかむと机に突き飛ばしました。その衝撃で机に置いてあった紙やら薬瓶やらが飛び散り、魔女はそのまま地面に倒れてします。

余程魔女を恐れているのか、男はトドメをさそうと持っていた短剣で襲い掛かろうとしました。

もちろん、それを蛇が黙って見ているはずがありません。その身を挺して魔女を守りました。

男は思わず悲鳴を挙げました。なにせ、目の前に巨大な蛇の顔が現れたのです。

蛇を見た男は、自分が登ってきたものや部屋の周囲にある金色の長いものが蛇の体であったことを知りました。

恐怖のあまりに彼は窓から慌てて飛び出して逃げてしまいました。




「この高さから落ちて逃げる余裕があるなんて、運の良いやつだな。…おい、大丈夫か。」




幸いにも、蛇の金色の皮はとても固くて丈夫にできていたので刃が通ることはありませんでした。

しかし、魔女が目を抑えたまま動きません。机にぶつかった時に体を痛めたせいもありましたが、飛び散った魔法の薬が目にかかったせいで何も見えなくなっていました。

蛇は心配して顔を覗き込みました。ですが彼女は助けてもらったお礼を言うこともなく、ただ冷たい声で放っておいて欲しいと言い放ちました。

彼女に黙って男を塔に入れてしまったのだから当然のことです。蛇は哀しそうに俯きました。




「ただ、幸せになってほしかったんだ。」




申し訳なく思いながら、蛇は窓から尻尾を引っ込めて彼女を守るように囲いました。

すると彼女に触れた皮の鱗が光り出し、金色が消えた頃には彼女の体の痛みや傷は全てなくなっていました。蛇の目元から落ちた鱗も、彼女の瞼に落ちると同じように光り出して、彼女の目を治していました。

魔法のラプンツェルを食べた彼の鱗には、病気を治す力があったのです。

彼女はそれを理解し、治った目でもう一度蛇を見つめなおしました。

怪我や目を治すことができても、犯してしまったしまった過ちに後悔していた蛇を見ながら、彼女は優しく言いました。




「あなたって本当に馬鹿な蛇ね。あなたがいてくれるだけで私は幸せになれるのに。」




だから今、こうやって体の怪我も目も治ったのだと彼女は蛇を慰めた。







それから幾年たったことだろう。

最期の男も来なくなったので、塔に訪れる者はもういません。

蛇のラプンツェルはあれからすぐに脱皮して、元の普通の蛇に戻りました。

ですが、その蛇はまだ塔に残っていました。

最後まで魔女のそばにいることを決めたからです。




「おはよう、ラプンツェル。」




ほほ笑んだ魔女を見て、彼女の肩にのった蛇のラプンツェルは嬉しそうにすり寄りましたとさ。
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