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かぐや姫
五つの宝
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昔々、光輝く竹から女の子がでてきたそうな。
その子はとても美しい姿へと成長し、かぐや姫と名付けられた。
嫁にしたいと願い出た者たちに、かぐや姫はその志を知るために課題を出した。
「これから言うものを持ってくることができたのならば、その御方と結婚します。」と。
「さて、困ったことになりましたわね。」
ふぅ、とため息をついて、かぐや姫は庭を見つめた。
「あぁ、かぐや姫。悩める姿もお美しい。」
そう言ったのは子安貝を持ってきた燕。
燕はかぐや姫を見つめながら華麗に飛びまわった後、彼女の肩に舞い降りた。
「疲れていらっしゃるのなら私の歌声でも聞かせましょうか。きっと癒されることでしょう。」
「いやいや、おいらの毛皮を撫でるといいよ。」
燕に対抗してきたのは、燃えない皮衣をもつ火鼠。
座っていたかぐや姫の膝に、ぴょんと乗っかった。
「撫で心地は最高だよ?ほらほら、触らせるなんて君だけなんだから。」
「お主ら、あまりかぐや殿を困らせるでない。」
玉を頸に持つ龍が勇ましい顔を覗かせた。
長年生きてきたこの龍も、かぐや姫を一目見てから初めて恋い焦がれた一匹である。
「全く。姫君に失礼であるぞ。」
「ソノトオリ。かぐや姫様にソノ態度。シカモ触れるなど、ナンテ恐れ多い。」
仏の御石の鉢を身に宿した岩男が、少しカタコトな口調で話に混じる。
普段は御石の輝きを閉じ込めているが、ひとたび開けば目映いばかりの光を放つ彼は静かに佇む。
「私はかまわないわ。ほら、あなたもそんなところにいないで、もっとこっちにいらっしゃって。」
「は、はい。ありがとう、ございます。」
庭の端からおずおずと近寄ってきたのは、蓬莱の玉の枝を持つ樹木の種族。
顔はないが、仕草だけで彼の控えめな性格や感情はよくわかる。
「皆様、あまり遠慮なさらくてもよろしいのですよ。だって、私の望んだものを持ってきてくださったのだもの。」
そう、彼らこそがかぐや姫の無理難題に答えてだ五つの宝を持ち込み課題を達成した求婚者なのである。
かぐや姫も、まさか宝を持っていた者から求婚されるとは思ってもいなかった。
しかも全員ほぼ同時。
課題を出したのだから、この中から結婚する殿方を選ばなくてはならないのである。
「なにより、これまで結婚を迫ってきた殿方の誰よりも偽りも見栄もない、素直で着飾ったところがないところを私は好んでおりますの。」
想定外のことではあったが、かぐや姫は彼らのことをすぐに気に入り、求婚を受け入れた。
故に今、誰を選んだら良いかとても悩んでいたのである。
「こうなればかぐや殿。もう一度課題を出してみてはいかがであろうか。我々はたしかに、ここまで来るのにそれぞれ苦労したが、宝を手に入れるという試練は乗り越えてはいない。」
「いえ、それは駄目よ。この課題を出したせいで無理をして被害を受けそうになった方々がいたんだもの。」
「だからこうして、おいらたちと一緒に過ごすことで互いを理解してから決めることにしたんだよね。」
「えぇ、そうよ。でもよかった。」
「良かった、とは。何がでしょうか。」
樹木の問いに、かぐや姫は空を見ながら答えた。
「私の無理難題に答えて、伝説の宝を持つあなた方なら、きっと月からの使者が来ても恐れることはないんだもの。」
「何をおっしゃいますル。仏の御石の鉢を宿した自分はトウゼンのこと。」
「蓬莱の玉の枝を持つ私だけではありません。ここにいる者は皆、月夜の者と等しい位や力を持っています。」
「例え他に、どのような事態が起きたとしても龍の我が全力でそなたを守ると誓おう。」
戯言ではないその言葉に、かぐや姫は安心したような、それはそれは麗しい笑顔を見せたそうな。
あぁ、これだから悩ましい。
なんとも贅沢な悩みであった。
その子はとても美しい姿へと成長し、かぐや姫と名付けられた。
嫁にしたいと願い出た者たちに、かぐや姫はその志を知るために課題を出した。
「これから言うものを持ってくることができたのならば、その御方と結婚します。」と。
「さて、困ったことになりましたわね。」
ふぅ、とため息をついて、かぐや姫は庭を見つめた。
「あぁ、かぐや姫。悩める姿もお美しい。」
そう言ったのは子安貝を持ってきた燕。
燕はかぐや姫を見つめながら華麗に飛びまわった後、彼女の肩に舞い降りた。
「疲れていらっしゃるのなら私の歌声でも聞かせましょうか。きっと癒されることでしょう。」
「いやいや、おいらの毛皮を撫でるといいよ。」
燕に対抗してきたのは、燃えない皮衣をもつ火鼠。
座っていたかぐや姫の膝に、ぴょんと乗っかった。
「撫で心地は最高だよ?ほらほら、触らせるなんて君だけなんだから。」
「お主ら、あまりかぐや殿を困らせるでない。」
玉を頸に持つ龍が勇ましい顔を覗かせた。
長年生きてきたこの龍も、かぐや姫を一目見てから初めて恋い焦がれた一匹である。
「全く。姫君に失礼であるぞ。」
「ソノトオリ。かぐや姫様にソノ態度。シカモ触れるなど、ナンテ恐れ多い。」
仏の御石の鉢を身に宿した岩男が、少しカタコトな口調で話に混じる。
普段は御石の輝きを閉じ込めているが、ひとたび開けば目映いばかりの光を放つ彼は静かに佇む。
「私はかまわないわ。ほら、あなたもそんなところにいないで、もっとこっちにいらっしゃって。」
「は、はい。ありがとう、ございます。」
庭の端からおずおずと近寄ってきたのは、蓬莱の玉の枝を持つ樹木の種族。
顔はないが、仕草だけで彼の控えめな性格や感情はよくわかる。
「皆様、あまり遠慮なさらくてもよろしいのですよ。だって、私の望んだものを持ってきてくださったのだもの。」
そう、彼らこそがかぐや姫の無理難題に答えてだ五つの宝を持ち込み課題を達成した求婚者なのである。
かぐや姫も、まさか宝を持っていた者から求婚されるとは思ってもいなかった。
しかも全員ほぼ同時。
課題を出したのだから、この中から結婚する殿方を選ばなくてはならないのである。
「なにより、これまで結婚を迫ってきた殿方の誰よりも偽りも見栄もない、素直で着飾ったところがないところを私は好んでおりますの。」
想定外のことではあったが、かぐや姫は彼らのことをすぐに気に入り、求婚を受け入れた。
故に今、誰を選んだら良いかとても悩んでいたのである。
「こうなればかぐや殿。もう一度課題を出してみてはいかがであろうか。我々はたしかに、ここまで来るのにそれぞれ苦労したが、宝を手に入れるという試練は乗り越えてはいない。」
「いえ、それは駄目よ。この課題を出したせいで無理をして被害を受けそうになった方々がいたんだもの。」
「だからこうして、おいらたちと一緒に過ごすことで互いを理解してから決めることにしたんだよね。」
「えぇ、そうよ。でもよかった。」
「良かった、とは。何がでしょうか。」
樹木の問いに、かぐや姫は空を見ながら答えた。
「私の無理難題に答えて、伝説の宝を持つあなた方なら、きっと月からの使者が来ても恐れることはないんだもの。」
「何をおっしゃいますル。仏の御石の鉢を宿した自分はトウゼンのこと。」
「蓬莱の玉の枝を持つ私だけではありません。ここにいる者は皆、月夜の者と等しい位や力を持っています。」
「例え他に、どのような事態が起きたとしても龍の我が全力でそなたを守ると誓おう。」
戯言ではないその言葉に、かぐや姫は安心したような、それはそれは麗しい笑顔を見せたそうな。
あぁ、これだから悩ましい。
なんとも贅沢な悩みであった。
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