ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

文字の大きさ
上 下
112 / 114
第六章 ルキソミュフィア攻防

第112話 世界樹の守護竜

しおりを挟む
 え・・・・?

 世界樹を守護する守護竜を狩る?

そんな事を考えた者は今まで居ただろうか?

 この、蒼壁の大陸には4本の世界樹があって、そのうちの1本がルキソミュフィアにあるとされている。

 ソルフゲイルでもその情報は確かなモノではなく、昔から4本あるかも知れない?程度のウロ覚えな事実でしか無かった。

 しかし、世界樹は4本あってしかもそのうちの1本がルキソミュフィアにあると知れる様になったのはごく最近で、ルキソミュフィア侵攻の理由はもしかしたら世界樹の利権をめぐるものだとばかり思っていたのだ。

 それが、世界樹の利権と言うのは隠れ蓑で、実際は世界樹を守護する竜を狩るのが目的だと言う。

「それって、正気の沙汰じゃない気がするんですが・・・」

  アスレイは、恐る恐る本心をユリウスに呟いた。

 それを聞いたユリウスは、

「オレも実際の所、御伽話か?と耳を疑ったさ。」

と言いながら首を横に振る。

「ただ、王にはどうも、守護竜を何とか出来る秘策がある様でなぁ~・・・・おっとこの先は、最重要機密だ。」

そう言って口をつぐんだ。

 父を亡くしてからのユリウスは戦場の鬼の様だと言う話を聞いていたアスレイには、まだ昔の面影が残る気さくな性格を垣間見ることが出来て少し嬉しい気持ちになったが、ソルフゲイル王の画策について話す姿は、これからの戦況を楽しんでいる様にしか見えなかった。

 世界樹を守護する竜を狩る。

 ソルフゲイル王は一体、狩った竜で一体何をするつもりなのか・・・・?!

その答えは王にしか分からない。

 御三家と崇められる一族の者だとしても、直系の長子でもない自分には何も知らされることなど無いのだと、アスレイは自分の身の上を呪った。

 ただ、そんな事を考えている今現在も、進軍と侵攻は続いている。

 アスレイは、あの銀狼族の少女の屍を拾う様な事にはなりたくないと、心の中で願うしか無かった。





 ナタリアの報告に愕然とするルキソミュフィアの評議会だったが、絶望している時間などある筈も無く、副首領は下げた顔をすぐに上げて会場に詰めていた兵士に指示を出し始めた。

 まずはルキソミュフィアのソルフゲイル側の入り口を固めたり、武器の配置も急がせた。

 とりあえず、ソルフゲイル側が黒龍族を使って飛来してきたとしても、1日近くの時間を要さなければならない距離がある事だけが救いだった。

 しかし相手の出方が明確に掴めていない以上、一体どこを重点的に防衛するべきかの要点が分からないのが難点だった。

 どの地域を重点的に攻めてくるのか?

 何を狙ってソルフゲイルは侵攻して来るのか?

 もしかしてまた銀狼族を根こそぎ奪いに来るのか?

可能性を考えるだけで、いくつも予想が上がってくる事に周囲の者達はいら立ちを募らせて行った。

 リテラとナタリアも、

「お前達も防衛任務に就いてもらうぞ。まず氷風の谷のリテラ、お前はこれから来るニーア―ライルとともに氷風の谷に向かえ。氷風の谷の世界樹の守護竜を守るのだ。」

 副首領から直々に命を下されたリテラは、その場でひざまづき短い返事をした。

 ニーア―ライルが帰還?と言っていた言葉通り、顔を上げると目の前にニーア―ライルが立っていた。

「ニーア―ライル!!」

 リテラが名を呼ぶと、

「遅くなった!悪い悪い。でも急ぐよ。ナタリアは戦力的に強いから、ルキソの元老院前の広場で待ち伏せしてると良いかもね。」

リテラの隣で立ち尽くしていたナタリアに、ナタリア所属の分隊長よりも早く指示をした。

「ニーア―ライル!それはワシが出そうと思ってた指示だぞ・・・!」

 背後の扉から慌てて入ってきた分隊長が、残念そうに肩を落としているのを見たリテラは、

「仕方がないですよ、ニーア―ライルの方が上官なんですから!」

と言って慰めた。

「それよりも、副首領!」

 リテラと共に氷風の谷へ向かうため、その肩に手を置いたニーア―ライルは不意に副首領に声をかける。

「何だ!言ってみろ。」

 副首領は簡潔に返事を求めた。

「ソルフゲイルの目的は、氷風の谷の世界樹の守護竜です!古竜の血を何かの実験に使いたい様です!」

 ニーア―ライルは、諜報活動の中で知りえた情報を副首領に伝えた。

 副首領は、

「氷風の谷には屈強な戦力をかなり回してある。彼等と共に守護竜カティスフィル様をお守りするのだ。」

とニーア―ライルに言い残すと、多くの軍人が集まっている詰め所に向かっていった。

「御意。」

 ニーア―ライルは軽く会釈程度に首を垂れると、すぐさまリテラに向き合った。

「って言う訳なので、行くよ!」

 リテラが返事をする間も無く、2人の身体は空気に溶けた。

 その場には、ナタリアだけがポツンと残された。




 瞬きの間に氷風の谷に着いたリテラ達だったが、いつもの様に氷風の谷の詰め所前では無く、世界樹の期の目の前に着地したことに驚きを隠せないでいた。

「ニーア―ライル、どうしたの?いつもとは違う場所・・・」

 リテラがニーア―ライルに問いかけると、「シッ!」と言葉を制止され、

「リテラ、静かに。林の向こうにソルフゲイルの先遣隊が来てるんだ・・・」

と、最大限の警戒を促した。

「え?もう・・・?」

 リテラがアワアワとしながら身体を震わせると、

「大丈夫、もうすぐ援軍が来る。」

と、リテラの耳に囁いた。

「援軍?」

 それって一体誰?

リテラがニーア―ライルに問いかけようした時、目の前に大きな黒い塊が現れた。

 それはまるで、ニーア―ライルの疾風の技を使った時の様に、突然空気の中から現れたのだった。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ 小さいからって何もできないわけじゃない!

渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞! ◇2025年02月18日に1巻発売! ◆05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。 スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。 テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。 リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。 小型オンリーテイム。 大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。 嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。 しかしリドルに不安はなかった。 「いこうか。レオ、ルナ」 「ガウ!」 「ミー!」 アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。 フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。 実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

処理中です...