ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第六章 ルキソミュフィア攻防

第108話 元老院

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 かのソルフゲイルは王を中心とした王立国家だが、ルキソミュフィアは完全なる民主主義の国家だった。

 各地域には長老と呼ばれる地域長を配属し、彼らがその地域の意見をまとめていた。

 長老達は月に1度開かれる長老会議で、モクトの意思をまとめてモクト長が元老院に行き、民意を国に届ける仕組みになっていた。

 モクトと言うのは別の国の単位で言うと、県とか省とかそんな感じの地域の分け方の単位の事で、ルキソミュフィアはかなり大昔~1000年以上前からこのモクトと言う単位を使っている。

 リテラの住んでいたモクトは氷風の谷モクトで、近くには年中雪が積もっている氷風山がそびえている事からこの名になったそうなのだが、近隣住民やルキソミュフィア国内の住民からは、そのまんまじゃないか?と言われている事に少々頭を悩ませているらしい。

 その氷風の谷モクトは、首都であるルキソからはかなり離れているのでリテラは中々帰京する事は出来ない様だった。
 
 そのモクト長が集まる元老院だが、各地域から集まってきた意見や苦情や、視察などで見分してきた問題の解決をしながら、ルキソミュフィアと言う国を動かしていた。

 その元老院の中で最高位に当たるのが、首領だった。

 首領は、他の国でいうところの国王に相当する立ち位置なのだが、民主主義国家であるルキソミュフィアでは、首領と言う名で国の長を呼んでいる。

 しかし実は、本来の首領はソルフゲイル戦役の前に斃れられ、現在不在のままだった。

 現在は代理で、副首領のルザエル・ベルファルド氏が就いているのだが、ベルファルド氏はルキソの民からの人気が高く、多くの人が首領選挙を行わなくても人気投票だけでルキソの首領に就任しそうだと予感していた。
 
 ルキソの元老院にリテラがが向かっている理由は、ソルフゲイル戦役での生存報告と、セクトシュルツで見たソルフゲイルの状況などの情報のすり合わせをする為だった。

 なので、あのソルフゲイルの軍人に命を救われた話等々に関する話をしないように、リテラは気を引き締めながら元老院の建物の門の前に進んだ。

「氷風の魔導士リテラです。生存確認と状況報告に参りました。」

 元老院の門前に立ちはだかる門番にそう告げながら、リテラは軍服の上着のフードを外して銀色の髪を露わにする。

すると、強固な壁の様な門番の顔色が途端に青ざめて、柔らかいカーテンの様にヒラリと門前から立ち位置を移動した。

 リテラは、軽く会釈をしながら門を通り過ぎ、元老院の評議会が開催されている会議室の大きなドアの前に進んで行った。
「さて・・・・面倒な質問されなきゃいいけど・・・・」

 ドアの向こう側からは、喧々諤々な言い争いをする声が漏れてくるのが聞こえて来たが、臆する事無くリテラはそのドアを2回叩いた。

「入って良し。」

 誰かの低い声で入場の許可が出されると、リテラは会議室のドアを開ける。

少し重いドアを開けると、そこにはルキソミュフィアの各地域から集まったモクト長が集まっていた。

 ルキソミュフィアのモクトは全部で18に分かれているのでモクト長は18人だが、議会を進行する議長と副議長、議会の内容を記録する書記官が2人と副首領の合わせて23名が元老会議室に集っていた。

 リテラが帰還したタイミングが良かったのか悪かったのか、偶然臨時会議が招集されいて、今正に会議が進行されていたと言う状況だった。

「よく戻ったな、リテラよ。」

そう声をかけて来たのは、リテラの故郷である氷風の谷モクトのモクト長であった。

 名は、セイデン・アルディエラ。

 エルフと人間の混血のハーフエルフである。

「長老・・・」

 リテラはハっとなり、頭を下げた。

故郷のモクト長に会うのはかなり久しぶりだったので少し緊張したが、声をかけられてすぐ、普段通りに戻った。

「現在、今後の戦略と実行部隊の選出について話おうておる所じゃ。」

 そう言ってきたのは、元老院で一番最高齢のモクト長で銀狼族のヨキサ・ククメシュだった。

 ヨキサ・ククメシュは、ルキソミュフィアがルキソミアだった頃からこの国の行く末を考えてきた人で、かつてルキソミュフィアが王立国家だった頃の最後の王に仕えていた従者の一人でもあった。

 リテラは幼少の頃より孤児だったため、昔からヨキサにはよく面倒を見てもらっていたという経緯があった。

と言う事もあり、ヨキサの前で自らの報告が出来る事に少し安心感を抱いた。
 
「報告します。第一魔道部隊第二遊撃班所属のリテラです。ただ今帰還いたしました。」

 そう言って、リテラは頭を下げた。

 そしてすぐ、顔を上げた。

「我が第二遊撃班は、私を除いて全滅したと考えられます。」

と、曖昧な報告をした。

 それに早速疑問を抱いたのが、緑風の森のモクト長であるサラーサ・リゲルだった。

サラーサは完全なるエルフで、主に森林の管理育成に努めている。

 普段は、森林の奥にある妖精界の門の周辺で活動しているのだが、元老院が開かれる時だけ街に下りてきていた。

「何故、自分だけ生き残った事を確信出来ないのか、答えよ。」

 その問いに、あのソルフゲイル民に捕まって保護された事を素直に答える訳には行かなかったので、少しばかり架空の内容に訂正してリテラは伝える事にした。

 街道沿いで行き倒れていた所をソルフゲイルの軍人に捕らえられた所までは同じだが、その後見張りの隙をついて脱走に成功して、あとはニーアーライルで帰還した~と言う事にした。

 多分この話なら、それなりに納得してくれるとも踏んで話した。

「そうか・・・・一時期だけソルフゲイルに捕らえられていたのだな。」

 リテラはコクリと頷いて、また前を見据えた。

「お腹が痛くなったフリをして用を足しに行った隙に、変身の技を使って変装してヤツらの目を欺いて脱走しました。」

 どの変身を使ったのか見せるため、リテラは二度目に使った変身を見せた。

 金髪に青い目、ピンク色の服~の、いかにもドコにでも居そうな街の娘風味に変身して見せた。

「なるほどのぅ~、これならヤツらもまさか銀狼族とは気づくまい。」

 ヨキサ・ククメシュが目を細めながら笑った。

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