ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第六章 ルキソミュフィア攻防

第102話 銀狼族

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 ソルフゲイルの辺境の街セクトシュルツは、商人が集まる街として知られている。

周辺の国々の中でも辺境の割にはかなり大きな街で、その総人口は30万人以上とも言われていた。

 かつてはソルフゲイルの王族の居城が置かれていた事もあり、街の作りは外敵の侵攻を阻む城塞都市と言った作りをしている。

その所為か、数々の戦役の度には物資の補給や兵士の休息の場として活用されてきた経緯のある街だった。

 そんなセクトシュルツにはアスレイの所属する上官とその部隊も休息を取りに訪れていて、隊に所属するもの専用に借りた宿屋もあったのだが、街道で拾った娘は敵軍の残党と言う事もあり、それとは別の宿屋に宿泊することにした。

「まずは、ゼフィリアと合流しないことには始まらない」

 アスレイはこの、拾った少女の処遇に悩んでいた。

 仮にも、一応女性と言う事で、男子たるもの弱っている女性に対しても紳士的でなければ~と言う一念がアスレイの行動を阻んでいた。

「何躊躇しているんだよ、素性を知るためにもその真っ黒なフードとマントを外すくらいはしてもイイんじゃねぇか?」

 と言いながら入ってきた男は、アスレイよりも若干身長の高いスラリとした風貌だったが、髪は漆黒の闇の様だった。

服装もまた拾ってきた少女と変わらない程黒い上着を身に着けていたが、丈が短いせいで下に着ているシャツがほとんど見えている。

 一番容姿的に違ったのは、その頭には角が生えている事だった。

 そう~まるで竜の様な角が生えていたのだ。

「シーヴィルはそうやって、何人の女性を泣かせてきたんだ?」

 シーヴィルと呼ばれた角の青年は、へいへいと言いながら部屋の隅に置かれた椅子に座る。

シーヴィル~あのアスレイが乗っていた黒竜が、人に変幻した姿なのだ。

 黒竜族はある一定年齢になると誰でも人間に変幻できる能力を得られるため、人類と混血になりやすかったりまたは、多くの国々で使役されたり友好関係を結ぶことが容易にできた、言わば種族に繁栄を導く事が容易な種族だったので、ソルフゲイルでも人間と上手く付き合って、今もアスレイとシーヴィルの様な関係を築いている者たちも多く存在していた。

 アスレイ達は、仲間の法術士であるゼフィリアの到着を待っていた。

 黒竜族の特殊能力の一つである、遠くにいる仲間と連絡を取り合あう能力を使って、今しがたゼフィリアにしか対応できない緊急を要する問題が発生した!と言った内容の連絡を送ったのだ。

 普段は沈着冷静で横柄な態度をするゼフィリアが、かなり慌てた様子で応答してきたので、これはかなり早く到着すると思っていた二人だったが、この雨の所為かなかなかゼフィリアは来なかった。

 椅子から立ち上がり、部屋をウロウロし始めたシーヴィルはとうとう痺れを切らして、ベッドに横たえてある少女のフードを外した。

「コラ!!シーヴィル!!女性は丁重に扱わないと~・・・!?」

と、言いかけた所でアスレイは言葉を失った。

 少女の髪は銀色をしていた。

 少しうねりのある髪質をしていて、その銀色の髪は腰まであろうかと言う長さで、この髪を溶かして型に入れたらそのまま銀の延べ棒になりそうな、そんな輝きだった。

 更にじっくり見てみると頭には謎の耳が・・・・

「コイツ、今や希少存在と言われているあの銀狼族じゃないか?」

と、先にシーヴィルが口を開いた。

 銀狼族!?

  アスレイは、にわかに信じがたい表情をして見せた。

何故なら、銀狼族はこのソルフゲイルよりも広い地域で捜索しただけでも、ほんの数百人足らずしか存在していない、いわば絶滅に向かっている種族なのである。

 この銀狼族が絶滅に向かう事となった原因の一つに、その銀色に輝く髪の存在があった。

 その髪は、1本1本が魔力の集合体で、少し切って分け与えてもらうと人間なら約一週間分の魔力として使用出来ると言われている程なのだ。

 そんな髪を狙って今から約100年前、多くの銀狼族が狩られた。

 その頃はまだ数万人は居たとされる銀狼族であったが、大国の~そう、ソルフゲイルの襲撃に遭いその殆どの銀狼族が姿を消した。

 銀狼族は寿命が長い。

エルフほども生きると言われているので、狩っても殺さずに生かして髪を伸ばさせた方が効率が良さそうに見えたが、当時のソルフゲイルの王は捕らえた銀狼族すべてを殺したと記録されている。

 そうして銀狼族の個体数が激減して、今や滅びの一途を辿り待つしかない状態になっていた。

 その銀狼族と思われる少女が、今アスレイ達がいる宿屋の部屋のベッドに横たえられているのだが、最初に見つけた状況を思い出す限り、少女の状態は良いとは言えなかった。 

 アスレイとシーヴィルに回復魔法の心得があればこの状態を打破する事も出来たのだが、到着の遅れている法術士ゼフィリアを待つのみの状態になっていた。

「アイツ・・・本当に遅いな・・・俺がひとっ飛びして捕まえてこようか?」

と、シーヴィルが言ったが、アスレイは止めた。

 何故なら、ゼフィリアはシーヴィルに乗るのをかなり嫌がっていたと言うか、人に変幻しているシーヴィルとはあまりソリが合わない?様子だったので、無理やり迎えになど行ったりしたら大変なことになるかも知れないと思ったのだ。

「とりあえず待とう。来ることは分かっているし、多分この雨の所為で遅れているんだろう。」

と言って窓を見た。

 渋灰色の雨は止みそうにない。

 窓を滴る雨粒を見ながら、アスレイはため息をつくしか無かった。
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