ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第五章 ルキソミュフィア救援

第100話 未来視の先 ルキソミュフィア救援

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 コレットは、入口から先のかつて居間だった空間の方に歩みを進めると、昔の記憶の小屋の中とは全く違う雰囲気になっている空間に驚きながらも、小屋の性能と言うか機能の高さに心が高揚していた。

「何で、昔は全然気付けなかったんだろう?」

 そう、昔は、コレットとラナティアの2人だけで住んでいたので、小屋はそれ以上の広さに拡張する必要が無かったのだ。

 と言う事は、数百人の銀狼族が小屋の中に入ったとしても、小屋はその人数に応じて部屋を増やして空間を広げてくれるのだろう。

 皆が集まっている所にコレットが来ると、天空図書館メンバーはコレットの事を最初は全く信じて居なかった事を謝罪した。

 ミカゲがコレットの心の中で見た記憶の説明をした時も、信じて心の底から認めた訳では無かったと、サファルが祖父の言葉を代弁するかのように説明していた。

「その・・・祖父は長い事生きているので、昔に誰かに騙されたり裏切られたりした経験から、簡単に相手を信じなくなっている様です。この僕も・・・銀狼族は特にこの銀色の髪の所為で色々な組織や国に狙われやすかったので、初見でお会いした方をすぐに信用する事が出来なくなっているのです。本当に、大変苦痛を強いてしまった事、申し訳ありませんでした。」

と、今度は本当に、心の底からの謝罪と理解を示した。

 コレットは、やっと自分の心が救われた様な気がしたし、それにこの小屋を銀狼族の避難に活用できそうな目途が立って良かったと思った。

 あとは、

「では、皆の衆!ココから先は本命本題の銀狼族救出作戦改め、『孤島作戦』の実行計画を話そうではありませんか!」

声を高々に、セレスはそこに集まっている面々に、これから実行する作戦についての段取りを決めようと持ち掛ける。

 その姿を見た大司書は、

「ソラ、お前さんは本当にリーダーでも何でもないのじゃな!ふぉっふぉっふぉ。」

言いながら、巨躯の中年オヤジの弟子の情けなく縮こまっている姿を笑った。

 作戦を立てる前に、ココには全員揃っているのか?とセレスが周囲をよく見まわすと、グレアラシルとソフィアステイルの姿が見当たらない事に気付いた。

「あれ?おっかしいな~、さっきは居たような気もしたんだけど。」

首をかしげながら、小屋のドアから外に出て2人の名を呼んだ。

 すると、

「すんません!姐さん~!」

と、セレスの前方、孤島の先端の方からグレアラシルの声がした。

 続いて、

「おや、作戦会議の時間かい?少々待っててくれないか、気になる事があってだな・・・・」

ソフィアステイルは言いながら、先程まで居た雑木林の方をチラリチラリと振り返りながら立ち止まった。

「ん??どうしたんだ、オバさん?誰かそこに居るのか?」

 セレスは、ソフィアステイルが気にしている雑木林が気になって、速足でソフィアステイルの背後に回った。

「あ!待てセレス!」

 ソフィアステイルの制止は一歩及ばず、気にして居た原因とセレスが鉢合わせした。

「・・・・・・・」

「あ、アンタは・・・一体・・・」

 セレスの目の前に現れたのは、屈強な体格で鋭い金色の眼を光らせながら、背に竜の羽根を生やした男だった。

「姐さん、小屋の中の人達には、この人の事秘密にして欲しいんですよ。」

グレアラシルがペコペコ頭を下げながらセレスに懇願した。

 「いや、そんなこと急に言われてもな・・・・」

 セレスは頭をかきながら、ソフィアステイルの背後から出てきた男に目をやりながら、自分の今までの記憶の中で会った事がある人物なのか何なのか、ちょっと力を使って視てみる事にした。

「ほおぅ・・・貴様、未来視が出来るのか。」

謎の男が、セレスの行動に関心を持った様だった。

「ま、まぁね。ちょっと先しか視えないけど、まぁまぁ当たるんだぜ・・・・って!」

 未来視の事を言われた反動で、セレスは少し先の未来をうっかり視てしまっていた。

 そしてその、ちょっと先の未来には、セレスが想定していなかった事態が起きていたのだ。

「マジか・・・、参ったな~・・・あ、でも・・・いや、しかし。」

と、これからの作戦に支障が出る可能性を何とか回避出来ないかと、思考を巡らせた。

 その様子を見ていた男は、

「実は俺も少しばかり未来を察知する能力持ちでな、この島の行く末を案じて、もう何年も前からここに潜伏していた。」

と言いながら、セレスの緑色の瞳を睨む様に見つめた。

 一瞬、男の金色に光る眼光に怯みそうになったセレスだったが、

「確かに。アタシらの遂行したい目的の前でこの問題を持ち出せば、皆が困惑して作戦が上手く行かない可能性が高いだろうね。」

参ったね?と言いたげにセレスは手を「参った」のポーズでヒラヒラさせると、

「アンタはこれからどうする気だい?アタシらはこれからすぐにルキソミュフィアに向かうけど。」

 セレスの問いかけに男は、

「俺はこの島に残り、想定外の事態を解決するための魔道の準備をさせてもらう。」

そう言って、元居たであろう雑木林の方に向かって踵を返した。

 雑木林に向かって歩き出した男にセレスは、

「そーいや名前を聞いてなかったな。これから、運命を共に打破する仲間になるなら、名は名乗ってもらわないと。因みにあたしは~・・・」

 セレスが名乗ろうとすると、

「知っている。旧トトアトエ・テルニア国王セレスフィル・アズワルド・トトアトエだろう。俺の名は、グレアリー・ニーゼンヴォルフ。ニーゼンとでも呼んでくれれば良かろう。」

予想外に男は、サラりとセレスのフルネームを言った後、記憶に新しいかも知れない歴史上凄い名前を言った気がした。

「は?」

 このタイミングでセレスは情報過多になった様で、作戦を云々するのは困難?になったかも知れなかったが。

「と言う訳でねセレス、アンタが視たちょっと先のイカンな未来ってのを私らも見せてもらっちゃってね、それであの人に色々指示されたから、まずはルキソミュフィアに行ったら本当・・・・色々やる事たくさんあるから、覚悟しておきなさいよ!」

 ソフィアステイルがセレスの背中をバシっ!と叩いて渇を入れ終わった頃には、ニーゼンは姿を消していた。

 全く持って食えない男だとセレスは肩をすくめながら、

「じゃ、オバさんとグレ!皆の居る小屋に戻るぞ。とりあえず今の話は内密にして・・・・ルキソミュフィアでのソルフゲイルとの戦闘作戦を立てよう。」

 2人の腕を掴んで引っ張りながら、セレスは小屋に意気揚々と入って行った。





「お、お待たせ~!」

 セレスが小屋に戻ると、どうもあらかた作戦の全容は決まった様で、

「遅いぞセレス!何やってたんだち!」

プンスカお怒り気味のミカゲが、セレスの腰辺りをバンバン叩きながら文句を言って来た。

「ミ、ミカゲさん痛いっす!文句ならこの2人に行ってくださいよ!」

言いながら、後ろから付いてきたソフィアステイルとグレアラシルを指した。

「この2人、島の北側に広がる雑木林の奥が気になるって言って探検してたらしいんすよ。」

「でも、特に何も無い林だったわね~、残念。」

ソフィアステイルが、ミカゲの髪をくしゃくしゃにしながら答えた。

 グレアラシルに至っては、

「そうなんですよ!ミカゲさん、俺が小屋の方に行こうとしたら、ソフィアさんがお前も付き合え!って言って~。」

と、本当は自分が先に林の中に入って行ったにもかかわらず、諸悪の根源はソフィアステイルだと言わんばかりに言い訳をした。

 グレラシルの言い訳に怒り始めたソフィアステイルを横目に、セレスはソルフゲイル軍と対峙した時の対戦計画を練り始める。

 魔道の心得があって接近戦が得意な者、魔法で遠距離攻撃しか出来ない者、魔法が使えなくて接近戦が出来る者・・・の配置を細やかに設定し、ソルフゲイル軍の戦術の先を4~5手先まで予測した上の先手を取る作戦を練った。

 そして、先程のあの男が言っていた場所を、ルキソミュフィア救援のために降り立つ最初の地に決めた。

「皆、準備はイイ?・・・・しばらくは後戻りは出来ないよ?」

 セレスは、孤島の小屋に集まった面々の顔を見ながら、最後の確認をすると、

「じゃあオバさん!『慟哭の門』全開でやっちゃって!!」

と、ソフィアステイルに命じた。

「えーえー、私の機嫌は最悪だけど、仕方が無いですね~ぷんすか!」

 何やら先程のグレアラシルが擦り付けた罪?に対しての怒りが、未だ収まっていないソフィアステイルだったが、お家芸とも言える慟哭の門を展開し、小屋に居る面々を全て乗せた。

「流石、全員ある程度の高魔力なだけあって安定するわ~。」

 先ほどまでのお怒りはどこかに飛んでいったのか、ソフィアステイルが合図すると、総勢9名を乗せた門はスゥ~っと空気に溶けた。

 


 

第五章 完


 
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