ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第五章 ルキソミュフィア救援

第99話 小屋の中

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 小屋の扉が開く音を最初に聞いたのは、コレットの後ろからこっそり付いてきていたラテルナだった。

 ラテルナは、コレットが本当に神族なのかを疑っていたので、赤の孤島に着いてからはコレットの行動の一挙手一投足をチェックしてやろうと目論んでいた様だった。

 そんな目論見の中、コレットが吸い込まれるように小屋に近づくと目の前で誰も開けられなかった小屋のドアを開けたので、ラテルナはかなり驚いて悲鳴を上げた。

「キャーーー!!す、凄いですわ!!本当に開きましたわ!!」

 ラテルナの悲鳴は、島の各所に散らばっていた他の面々の所にまで響く程に高い声だったので、慌てて皆は小屋の方に集まって来た。

「どうした?ラテルナ!何があったんだ!」

 最初にラテルナの所にやって来たのは兄のサファルで、

「どうした?大丈夫だちか?」

次に来たのはミカゲだった。

 その後はゾロゾロと、ソラ・ルデ・ビアスやグレアラシル、ソフィアステイルと続いて最後に大司書がやって来た。

「見ましたわ!」

 集まった面々に、ラテルナはこの一言だけ告げながら小屋の方を指差した。

 その指差された方向に全員が目をやると、今まで誰も開けられなかった小屋のドアが開き、小屋の中にコレットが入っている様子が伺えた。

「わーーーい!!コレット!!やったんだち!!」

 喜び勇んでミカゲが、コレットの所に走って行った。

 その頃コレットは、昔の記憶を辿りながら、小屋の中を歩いていた。

 小屋の中にあった、いつもラナティアと食事をしていたテーブル、食材はどこから来るのか分からなかったけど、お茶を入れたり使った食器を洗っていた台所、いつもラナティアからもらった?と思われる大きなぬいぐるみを抱えて寝ていたベッド・・・・。

 コレットが、現時点で思い出せる範囲の記憶の小屋の中のイメージが、そのまま小屋の内部に反映されているかの様に、思い描いた通りのベッドが残されている事に、少し不信感を抱いた。

「オカシイ。だって私、この小屋を去ってから何年?どころかもしかすると数百年単位で居なかった可能性すらあるのに、まるで昨日までここに住んでたみたいに綺麗。ぬいぐるみも、絶対ボロボロになっている筈なのに。」

言いながら、ぬいぐるみを抱きしめた。

 この呟きを、喜び勇んで小屋に入って来たミカゲは聞き逃さなかった。

 怪訝そうに小屋の中を物色するコレットの背後から、

「それ、本当だちか?」

ミカゲは、コレットの疑問に対して、真偽を問いかけた。

 ミカゲが問いかけの言葉を発したのとほぼ同時に、書架の他のメンバーや銀狼族の面々も小屋に入って来た。

 そして開口一番、こう言ったのだ。

「へぇ~?思ってたよりも広いな~。」

セレスが、予想外の言葉を口にした。

「あら!この広さがあれば、ある程度の銀狼族の皆様は寝泊まり出来そうですわね!」

 ラテルナに至っては、更に上を行く言葉を発している。

「この小屋は、外観よりも内部が広い構造、つまり空間を捻じ曲げて建てられている様ですね。」

サファルは、コレットが知らなかった小屋の構造を把握して居る様だった。

 台所の隣の、ベッドが一つあるだけの寝室で佇んでいるコレットを見つけたセレスは、

「コレット!小屋を開けられて良かったな!それにしてもこの小屋のつくり、不思議と言うか、アタシがグレに作ってやった個室に近い魔法構造で建てられているんだな~。コレットは知ってたか?」

と、今の今まで全く小屋の構造がどんなモノで出来ているかなんて想像もしたことが無かったコレットに、自然な感想を言って来たのだった。

 初めて来た知らない土地の建造物の構造が、自分の扱う魔法に近い事に喜びを感じているセレスだったが、目の前で立ち尽くしているコレットは茫然自失しながら、

「いえ・・・・私、今初めてこの小屋の構造を知ったばかりなので、セレスさんが期待されている様な言葉は話せないと思います・・・・。

と、かなり意気消沈した様子で答えた。

 大きなぬいぐるみのあるベッドの上には、先に来ていたミカゲが座っていたのだが、そのミカゲも、

「めちゃくちゃ不思議なんだち。この小屋、コレットが小さい頃に住んでいた小屋だったからもう少し荒れていると思ってたんだちよ。でも全然荒れてないどころか、小屋の建材に使われている木も新品同様だち。多分あちしの見解だけどこの小屋は、天界で作られた素材で出来ている可能性が高いだち。」

小屋の疑問を、セレスに話した。

 セレスは情報過多になると思考が止まりやすい性質だったが、今回のこの小屋に関しては鋭く志向が回った様で、

「あ、つまり、この小屋の空間レベル的には天界と同等と言う事になる訳だな?」

ポン!と手を叩きながら、小屋の不思議をアッサリ解明した。

 空間が天界と同等?

 コレットは、小屋に住んでいた時の事を更に思い出す。

 小屋はいつも清潔だったし、どこの水源から引っ張ってきているのか分からないけど、いつも台所から綺麗な水が出ていて、新鮮な野菜や果物はいつでも好きな時に食べられたし、服が汚れてもクローゼットに行けば綺麗な服がいつでも用意されていた。

 あと、時々使いの者らしき人が小屋の中に何人も現れたけど、あの人達は一体どこから来たのだろう?とは思ったけど、追求した事は無かった・・・・

 これがもし、セレスの言う『小屋の空間レベルが天界と同等』と言うのであれば、すべて合点が行く。

また、大勢が押しかけて来た時、一人当たりに必要な空間の確保をするために小屋が自動的に拡張したのも、天界のシステムが働いているのだとしたら・・・・

「天界は、まだ滅んではいない。」

 コレットは、天空図書館に入ってすぐに大司書に言われた「天界はもう無い」と言う言葉に、心の奥底では絶望していたのだが、表面的には無意識を装って来ていたのだ。

 無言で、虚空を見つめて佇んでいるコレットにセレスは、

「大丈夫か?アタシがまた気の利かない事言っちゃった所為で・・・本当に済まない!」

何か、自分がコレットの気に障る様な事を言ってしまって、それでコレットの動作が止まってしまっているのだと勘違いしたセレスが、平謝りした。

「そうだち!セレスはいっつも一言多いんだち!と言いたい所だったけど、今回はセレスは特に何も悪い事言ってないだち、安心して良いんだち。」

 ミカゲは、うんうんと首を縦に振りながらセレスを慰めた。

 そんないつもの書架での様なやり取りをめにしていると、コレットの心の中で渦巻いていた、悲しい様な怒りの様な疑問の様な妙な感覚が、氷が解ける様にじんわりと消えていくのを感じた。

「ふふっ!あははは!何か、いつもの書架の中みたい!」

 コレットは、さっきまで色々と考えていた事を考えるのを止めた。

 今、一人で悩んでも、何も前には進まないのだ。

「何か今、ちょっと色々一人で考え込んでたんですけど、止めました!皆で考えましょう!」

 そう言って、スッキリとした笑顔をセレスに向けた。

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