ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

文字の大きさ
上 下
97 / 114
第五章 ルキソミュフィア救援

第97話 遠路はるばる

しおりを挟む
 このままではセレス達は銀狼族を救えない可能性がある、と言う未来を視てしまったベルフォリスだったが、以前のベルフォリスとは違って、すぐにいつもの顔色を取り戻した。

「こんな寂れた書架でウジウジしていても仕方が無い。僕が視た未来を変えられるのは僕らだけなんだ!」

そう言って、目の前のテーブルの上に並べたカードをかき集めた。

「で、どうするのじゃ?儂らだけで先にルキソミュフィアに乗り込もうと言っておったが、天空図書館行きのメンバーと違って、儂らには迅速に行動出来る足が無いのじゃぞ?」

 これからルキソミュフィアに行くと言っても、ルキソミュフィアは気軽な気持ちで出かけられる距離感に無く、この蒼壁の大陸の南の端にあるメルヴィ・メルヴィレッジからは北の果てに位置するルキソミュフィアなので、それはそれは遠路はるばる地道に移動しなければならなかった。

「忘れてませんか?この書架には奥の手がある事を。」

 どうやって北の果ての国に行こうかと思考していたレオルステイルに、ベルフォリスがニコニコしながら話しかけた。

「奥の手?・・・・・・・・・・あ!」

「そうですよ、レオルさんも散々使ったアレです!」

 散々使ったアレ・・・ソラ・ルデ・ビアスが作った、遠方へも一瞬で行ける扉の事を、ついぞベルフォリスに言われるまですっかりと忘れていたレオルステイルだった。

「確かにアレなら一瞬・・・とまで行かぬとも、何枚かの扉をくぐれば何とか行けそうな気もするの。」

 うんうんと、頷きながらレオルステイルは、今まで目にした扉の枚数と行き先を頭の中で符合させようとしていたが、

「いや待つのじゃ、儂は今までルキソミュフィアに行ったことが無いのでな、あの扉の中でルキソミュフィアに繋がっていそうなモノが分からんのじゃ・・・。」

と、途端に不安そうな面持ちになった。

「あーー、実は僕もなんですよね、ルキソミュフィアの話は散々聞かされていたモノの、実際にかの国に行った事が無いんすよね・・・・。」

 残念そうにため息をつきながらベルフォリスは、がっくりと肩を落とした。

 とは言っても、現時点で既に急を要する状況になっている事は確かなので、地道に自分たちの力だけでルキソミュフィアを目指したとしても3日程度は確実にかかる距離を、数時間~1日以内で到着しようとするなら、何見もの扉をくぐるのかは分からないけど、一か八かの勝負に賭けてみようと2人の意思は固まった。

「もう、打つ手は無い。もしかすると何か他の手もあるかも知れんが、今目の前にある可能性だけを信じて向かってみるとしようかの!」

「ですね~。僕も腹をくくりました。」

 レオルステイルとベルフォリスは、座っていた椅子から立ち上がると、書架の出入り口に厳重な戸締りと結界の魔法を施した。

そして、2階に上がり、書棚の奥にある扉が並んだいつもの間に着いた。

「この青いのが赤い月に行くやつで?」

「この、オレンジ色の扉は、ソルフゲイルの北部ルキソミュフィアからは南西部に当たる、水竜族の住まう『ナタカテ・メソティラウム』に繋がっているのじゃ。儂は昔行って、ちょっと面倒臭かった記憶がある。」

 ベルフォリスは、まだ行った事の無い国の名を聞いて少し心が躍るような感覚を感じたが、今はそんな状況ではないと心を現実に引き戻すため、首をブンブンと横に振った。

「近そうで遠いな~。レオルさん、その時この出入り口の扉以外の扉は見ませんでしたか?」

 ルキソミュフィアと微妙に近いかも知れないと、近くの壁に貼ってある蒼壁の大陸の地図を見ながらレオルステイルに問いかけた。

「うーーーむ、今から結構昔の事じゃからの~。あ!ああ~、多分無かったの、この行って帰って来るだけの扉しか無かったと思う。」

 レオルステイルの回答に、ベルフォリスは意気消沈するっも無く別の扉を指差したが、

「その扉はイカンぞ。ソルフゲイルに繋がっている筈じゃ。いきなり敵国に押し入るのはかなり不利じゃぞ?」

 まさかの、書架の中に敵国に行ける扉がある事実を知ったベルフォリスは、今かなり自分が戦慄している事に驚いた。

「このソルフゲイルはの、トトアトエ・テルニアに攻め込んでくる前までは割と交流があった国なのじゃよ。かつては友好的な国じゃったのだが・・・何がどうなってあんなに好戦的な国になってしまったのか、どこかの機会でソルフゲイルの民に問いかけてみたいぞよ。」

と言ってレオルステイルは、その扉を悲しそうに見つめた。

 となると、結局残されたのは赤い月に行くと言う青い扉になる訳だが・・・・。

「レオルさん、とりあえず赤い月に行って、それから考えよう。天空図書館メンバーも赤い月からさらに移動して図書館に行った?のだろうし。」

「じゃな。赤い月にはまた別の扉の間もあっての、そこからまた各地に行けるようになっていた筈じゃ。」

 レオルステイルの言葉を聞くと、ベルフォリスは赤い月行きの扉を開いた。

 そして、2人は扉の奥の空間に吸い込まれて行った。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...