ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第五章 ルキソミュフィア救援

第85話 酒場『グレイスルフ・ド・ラルムストル』

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『グレイスルフ・ド・ラルムストル』?

当然今日初めて入った酒場なので、初めて聞く名前なのは当たり前なのだが、どこかで聞いたような感覚を感じたのはセレスだけだったのだろうか。

「グレイスルフ・・・・って、オヤジのお母さんの名前じゃね?」

セレスは、自身が幼少期に少しだけ会ったことがある祖母の名を口にした。

祖母は既に他界してしまっているのだが、まさかこの白壁の大陸の街で聞く事になるとは、予想外の事だった。

「ああ、そうだ。グレイスルフ・ド・ラルムストルは拙者の母の名だ。」

口を開こうとする度にアルファスが説明していて話すタイミングを逸していたソラ・ルデ・ビアスは、ようやく言いたかったことを口にした。

「へへっ!そうなんす!実はこの酒場、ソラのお母さんが昔開いた酒場なんですよね~。で、赤い月に戻る時に引き継いだのがワタクシめと言う事なんですね~。」

「ああー!」

 ぽん!っと手を打ちながら、今の今まで忘れていた事をセレス達は思い出した。

そう、この男、最初に説明を受けた時に『赤い月から来た』と言う文言を言われていたじゃないか?と、やっと思い出していた。

赤い月から来ていてソラ・ルデ・ビアスと旧知の仲と言う事は、当然そう行った経緯があって然りだと念頭に置くべきだったと、セレスは失念していた事を反省していた。

「グレイスルフ、懐かしいだち。」

ミカゲは、懐かしい名前を話す酒場の男に笑顔を返した。

「お!ミカゲ殿!お久しぶりです。」

ミカゲに気付いたアルファスは、何やら少々かしこまった丁寧な口調になっている。

「なんだミカゲ、この男と知り合いだったのか?」

久しぶりに入った酒場の雰囲気に飲まれていたソフィアステイルは、ようやく口を開いて質問する。

「実はだち、あちしがソラに引き取られる前はグレイスルフの居る場所の近くに住んでたんだち。その時住んでた所によく出入りしてたのが、このアルファスと言うヤツなんだち。」

と、ミカゲは、昔魔王の御影として生活していた頃を思い出しながら話す。

「昔住んでた・・・つまり魔王の城に出入りしていたのか?お主??」

ソフィアステイルが、アルファスを訝しげな眼で見ながら問いかける。

ミカゲの言葉から、アルファスの真実が徐々に明らかになって行った。

「ははは~、何かコチラで説明するまでも無く素性がバレて行ってますね~・・・。」

アルファスは苦笑いをしながら頭をポリポリかいている。

ちょっと困ったぞ!的な視線をアルファスは旧知の友人に送ると、

「じゃ、ここからの色々の説明は拙者がしよう。」

ソラ・ルデ・ビアスは、一つ軽い咳ばらいをすると、長年の友人に関する説明をし始めた。




「拙者がこのアルファスと会ったのは、まだ拙者が若造の頃だ。今のセレスと同じ位の頃だったか。当時の魔王の城で文官をしていた時に、文官見習いで来たんだ。」

チラリと、当時の事を思い出しながらアルファスを見ると、当時の真面目そうな面影の無くなった、いかにも?酒場の兄さん風の居間のアルファスがヒラヒラと手を振っている。

「ええ?文官?全然見えない!」

セレス以下の面々は、各々が想像する分間のイメージとはかけ離れているアルファスの風貌を見て、正直な感想をぶつけていた。

「続きを聞けば納得するやも。文官見習いとして入って来たこの男に、拙者は魔導書の整理とか新しい魔道の記録を教えたりしていたんだがな、やっぱり途中で文官は向かないと言って結構早くに辞めて行ったのだった。」

「ええもう、その辺は自他ともに認める黒歴史でして・・・・」

アルファスはまた、頭をかきながら苦笑いを決め込む。

書架の面々は、呆れた視線をアルファスに投げかけた。

「そうこうしているうちに、拙者の母が白壁の大陸で小さな居酒屋を始めた。実は母は赤い月でも有名な酒蔵の出身でな、元々酒の知識が非常に高い人物だったんだ。それを活かそうと、この場所に店を構えたのが今から約~この大陸時間で600年ほど前~。」

600年。

と言うと、普通の人間の文明なら幾度となく目まぐるしく変化して居そうなものなのだが、この白壁の大陸では他の大陸よりも変化が少なく巡っている様で、600年の時を経てもこの地域では昔と変わらない風景を維持してきていた。

「その時、この居酒屋の第一の店員に選ばれたのが、このワタクシめ!と言う事なんですね~ハイ。」

アルファスは、この土地でもう600年もずっと店員をやって来ている事実を伝えた。

「で、今は、恐れ多くもこの酒場『グレイスルフ・ド・ラルムストル』の店長になっている訳です。」

そう言って、周囲を見渡した。

「母の遺言でな、コイツに店を任せるって言って亡くなったので、まぁ仕方が無いと言うか何と言うか・・・でも、コイツには酒場の経営の方が性に合っていた様だった。」

「文官よりもね。」

言いながら、旧知の二人は笑いあう。

 書架の面々と書架の主、そして酒場の店長との和気藹々とした過去の話で盛り上がっている中でも、一人言葉を発することなく佇んでいたコレットが、やっと口を開いてきた。

「そうだったんですね・・・思い出しました。私、一時期この店に居ました。グレイスルフさんと一緒に昔、この店に居ました・・・・。」

「え?コレット、本当?」

セレスが急に話し始めたコレットに声をかける。

すると、

「やっと思い出しましたね、アリ・エルシアさん!」

アルファスは、もう一人の旧知の仲である筈の仲間に声をかけた。

「私が、コレットとしての意識を獲得するに至ったのが、この酒場だったんです。」

アリ・エルシアが、何故コレットと言う別の意識で生きる事になったのか?の原点が、まさかこの酒場『グレイスルフ・ド・ラルムストル』にあった事を、今コレットは思い出して来ていた。

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