ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

文字の大きさ
上 下
71 / 114
第五章 ルキソミュフィア救援

第71話 メルヴィ人

しおりを挟む
 最初に、ソフィアステイルが見解を話す事になった。

100年前のあのトトアトエ戦役の時の話だ。

ソフィアステイルとベルフォリスは、当時からアルメイレ国を拠点にしていた事もあり、トトアトエ・テルニアがソルフゲイルに侵攻されて来た事には早い段階から気付いていたのだ。

「あの頃、セレスにはまだ話していなかったと思うが、私とベルはトトアトエ・テルニアの領内に入る事が出来ぬ状態だったのだ。何とかして入ろうとアルメイレとトトアトエ・テルニアの国境の地域は全部まわってみたのだけど、全く入れなかった。何者かが仕掛けた大掛かりな結界の所為でな。」

ソフィアステイルは一息つくと、カップに注がれたコーヒーを口にする。

「その結界には、私とベルにしか発動しない何らかの術式が組み込まれていた様でね、その結界を張った何者かの記憶をすっぽり抜き取られてしまった訳だ。」

首を横に振りながら、ソフィアステイルはため息をついた。

「所が、僕は結界を破ろうとしているソフィアの後ろから見ていた、つまりあまり結界の影響を受けていなかったのが幸いして、結界を張った人物の事をかろうじて覚えていたんだよね。」

ため息をつくソフィアステイルの言葉の続きを紡ぐ様に、ベルフォリスが続ける。

「みんな、思い出して欲しいと言っても多分トトアトエ・テルニアの中に居た人は全員記憶を奪われていると思うんだけど、僕らにはこうやって集まって色々話し合ったり作戦を練ったりする親しい仲間がもう一人居たんだよ!」

仲間がすっかり忘れている人物の事を少しでも思い出して欲しいと言う願いから、ベルフォリスはかつての仲間の事を話す。

「彼が何のために僕達を裏切ったのかは分からない。けれど、僕らは結構仲が良かったと思うんだよ。僕は・・・」

ベルフォリスは、今の自分の中にあるその人物の記憶の印象を話す。

「彼はメルヴィ人で、ちょっと小柄で人見知りがあったけど、仲良くなってからは凄く良い仲間だったと思うんだ。彼の特技の結界術はかなりのモノだったから、あのトトアトエ戦役の時の結界は彼が術式を構築した結界だと思う。
そして、今回のあのコレットの家の・・・・・周囲に張られた結界も多分、彼がやったんだと思う。」

ここまで話すと、ベルフォリスは少し落ち込んだ様な状態になった。

あの、惨劇をかつての彼がやったのだと思うと、ベルフォリスの心の中には憤りを通り越して悲しみが渦巻いていた。

「な、なるほど・・・・・この話は知らなかった。確かに聞いてなかったアタシは。ミカゲは知ってたか?」

セレスは、ベルフォリスが話している間は何度も頷きながら頭にその情報を叩きこんでいた。

「あちしも知らなかったんだち。」

セレスに急に話を振られたミカゲだったが、ミカゲ自身もその謎の結界術師のメルヴィ人の事は、全く持ってサッパリ記憶に無い状態になっていた。

 かつてこの土地がまだトトアトエ・テルニアだった頃からの仲間達の中に居た仲間の一人が何ら顔理由で裏切って、更に仲間全員の記憶から自分自身に関する記憶だけをサッパリ消し去ると言う、ある意味礼儀が正しい様なそんな彼の事を、これから思い出そうとしている。

完全には忘れ切っていないベルフォリスと、完全に覚えていると思しきレオルステイルだけが、少々複雑な心理状態になっていた。

「では、次は儂が話そうぞ?」

少しの沈黙の後、誰もが話しづらい状況だと思っていた空気をバリバリと破壊する音が聞こえてきそうな程の剣幕で、レオルステイルが話し始める。

トトアトエ戦役を乗り越えたメンバーの中では唯一、その謎の人物の事を覚えていると思われるのがレオルステイルだった。

 当時、レオルステイルは諸国漫遊の旅に出かけていて、トトアトエ・テルニアはもちろんの事、そもそも蒼壁の大陸にすら居なかった。

当時は白壁の大陸に行って、巨大な白鯨と一騎打ち?的な事をしていたらしい。

この辺は、セレスも『慟哭の門』を使って時空間移動をした時に知った事実だったので明確な理由は分からないが、とにかく諸国漫遊の旅をしていたと言う事にしておけば、面倒臭い事が回避できそうだと思っていた。

その、トトアトエ戦役時にはこの地を離れていたレオルステイルだったが、それ以前は世界樹の守護者をやっていたので、当然トトアトエ・テルニアにはいつも居たのは間違いなかった。

「ヤツと儂らが最初に会ったのは、今から約130年前じゃ。メルヴィの寿命から考えると、今を生きているのは到底信じられん。しかし、今回の話を総合的に考えると、やはりヤツが今回の事件の黒幕なのは間違い無かろう。」

この、現メルヴィ・メルヴィレッジをまとめるメルヴィの長ですら年齢が約150歳程なのだが、既に見た目はエルフの数百歳以上と言った高齢の状態になっている。

と言う事から考えられるのが、実はメルヴィ人はそんなに長生き出来ない種族だと言う事だ。

この辺の国に住んでいる者の常識では、普通の人間よりもちょっとだけ寿命が長い位なのがメルヴィと、認識しているのが当たり前だった。

「確かに、そう考えると本来の彼ならもう、どこかで命を全うしていてもおかしくない年齢になっているよな・・・昔、僕の記憶が正しければ、当時で既に彼は30歳近い年齢になっていた筈だから。」

ますます、話の渦中のメルヴィ人への疑惑が更に深くなっていく。

「皆はヤツが高位の結果術師だと認識しているやも知れぬが、実はヤツに結界術を教えたのはこの儂よ!」

レオルステイルは、明確にメルヴィの人物の事を覚えているどころか、それ以前の経歴の部分からの知人であることを今、初めて語る。

「ヤツは今、このメルヴィの行政府の行政官になって潜伏して、『アルセア・ティアード』なる名で暗躍している様じゃがの、本当の名は別にあるのじゃ。」

・・・・・・本当の名。

レオルステイルがその名を放つ瞬間、書架の中の空気が一瞬凍てついた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

ブラックボックス 〜禁じられし暗黒の一角〜

parip Nocturne
ファンタジー
 皆に平等に与えられた権利それが、使役することだ。  王道ハーレムものです。最初は、説明ありつつ、なので長くなると思いますが何卒ご自愛を。

転生して一歳児の俺が未来の大魔王として担ぎ上げられたんだけどこれなんて無理ゲー?

東赤月
ファンタジー
高校生の竜胆兼は、ある日自宅で眠りにつくと、いつの間にか生まれたばかりの赤ん坊になっていた。 転生した先の世界、カンナルイスには魔法が存在するということを知った兼は、ゲームの主人公のように魔法が使えることに憧れる。 しかし魔族として生まれ落ちた兼は、魔族社会の貴族が集まる社交パーティーで、なんと伝説の大魔王と契約を交わしてしまう。 一歳児にして大魔王になるという未来が決められてしまった兼は、ファンタジー世界を自由気ままに楽しく過ごすという目標のため、どうにかその地位から抜け出そうとするのだが……?

世界樹の下で

瀬織董李
ファンタジー
神様のうっかりで死んでしまったお詫びに異世界転生した主人公。 念願だった農民生活を満喫していたある日、聖女の代わりに世界樹を救う旅に行けと言われる。 面倒臭いんで、行きたくないです。え?ダメ?……もう、しょうがないなあ……その代わり自重しないでやっちゃうよ? あれ?もしかしてここ……乙女ゲームの世界なの? プロット無し、設定行き当たりばったりの上に全てスマホで書いてるので、不定期更新です

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

燕の軌跡

猫絵師
ファンタジー
フィーア王国南部の国境を守る、南部侯ヴェルフェル家。 その家に百余年仕える伝説の騎士がいた。 侯爵家より拝領した飛燕の旗を掲げ、燕のように戦場を駆けた騎士の名は、ワルター・フォン・ヴェストファーレン。 彗星のように歴史の表舞台に現れた彼の記録は、ふたつの異様な単語から始まる。 《傭兵》と《混血》。 元傭兵のハーフエルフという身から騎士への異例の出世を果たした彼は、フィーア王国内外で、《南部の壁》《南部の守護神》と呼ばれるようになる。 しかし、彼の出自と過去の名を知る者はもう居ない。 記録に載らない、彼が《ワルター》と名乗り、《ヴェストファーレン》を拝命するまでの物語。 ※魔王と勇者のPKOのスピンオフとして楽しんでいただければ幸いです。世界は同じですが、時代背景は140年くらい前の話です。

処理中です...