ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第四章 ソルフゲイルの謀略

第70話 驚愕

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 レオルステイルは、姉妹の間だけでやり取りできる特殊な能力・・・と言う程では無いが、何かあった時には連絡用の魔法を仕掛ける設定にしていた様で、それを使ってソフィアステイルに書架へ戻る様に連絡を取ったらしい。

と、セレスはそれを横目で見ていたのだが、視線に気づいた母の目の輝きは「まだまだお主には早い」と言っていたのが分かった。

 ミカゲの背に乗ってしばらくすると、本当にあっと言う間にアズワルド商店街の中心部近くにある公園に着地した。

日は暮れかかっていてオレンジ色の日差しが周囲を照らしていて、まるですべてがオレンジ色の世界の様になっている。

周囲には、セレスとミカゲの事をよく知っている商店街の住人たちが、今日の商いを店じまいしている最中だった。

レオルステイルとコレットは、この光景をあまり目にしたことが無い様子で、しきりに周囲の光景を見渡していた。

「何だ母さん、アズワルド商店街は初めてだったか?」

周囲の光景に釘付けになっているレオルステイルに、セレスはふと話しかける。

気が付くとミカゲは既に人の形を取っていて、行きつけのパン屋の店先で今日の残り物のパンを受け取っていた。

「この街、アズワルド商店街と言ったかの。お主の名前で作った街なのか?」

レオルステイルが尋ねる。

セレスは、

「元々は別の名前だったんだけどね、アタシが商店の売り上げ向上のために書架にあった魔導書に載ってた魔法をいくつか試したら、何かイイ感じに売り上げが上がった店が出てさ、それでいつしかアズワルド商店街って名前になったのさ。」

と、昔の事を少し思い出しながら嬉しそうに語った。

 長らく、母娘らしい生活をしてこなかったレオルステイルとセレスだったので、もしかするとの別の人生を歩んでいたならば、毎日この商店街で買い物をして夕食を作り食べて1日を終えると言った、ごく普通の生活をしていた可能性もあったのだろうか?と、想像していた。

よくある普通のよくある商店街の風景に目を奪われていたのはコレットも同じだった。

ほんの、数日前には普通の生活を送っていたコレットだったのに、いつの間にかまた天涯孤独の身の上になってしまったのだ。

何も起きていなかったら自分も、今までと同じような生活を送っていたのだろうか?と、自分自身にコレットは問いかけていた。

 しばらく周辺の風景を見ていると、残り物のパンを受け取って来たミカゲがセレス達の所に戻って来ていた。

「さあ、みんな帰るち。多分もうレオルとか戻ってきていると思うんだち!」

そう言って、サッサカ先頭を切って歩きだしていた。

「行こうか。」

セレスはそう声をかけると、ミカゲの後ろに付いて行った。

その後ろ姿を追いかける様に、コレットとレオルステイルも続いた。





 ソラ・ルデ・ビアスの書架の入り口は、普通にドアが開いた。

一瞬あれ?と言った顔をしたミカゲだったが、作戦中に来客があったことを思い出す。

「そうなんだよ、グレだけが残っている時に謎の来客があったんだよな~。」

セレスも、その来客の素性を早く知ろうと、留守番をしていたグレアラシルに声をかけた。

「ただいま戻ったぞ!グレ君留守番ご苦労ご苦労!!」

言いながら、グレアラシルの背をバンバン叩く。

「いてて!痛いっすよ!姐さん!!」

ちょっと咳込みながら、グレラシルはセレスに注意した。

「スマンスマン、で、何か来客があったようだけど、何て人が来たんだ?誰に用事だったんだろ?」

セレスは軽い口調で謝った後、問題の来客について尋ねた。

「ああ~、何かメルヴィの行政府の人で姐さんに用事だったっぽかったすよ。姐さんのフルネームがっつり苗字まで言って、トトアトエ・テルニア真王とまで言ってたっすからね。」

グレアラシルは言いながら、うんうんと言った感じで頷く。

「メルヴィ行政府?」

この単語に食いついたのはレオルステイルだった。

「そうなんす!メルヴィ行政府の『アルセア・ティアード』って名乗ってましたねー。」

グレアラシルは笑顔でレオルステイルにそう、告げた。

「『アルセア・ティアード』じゃと?」

本当にヤツはそう言ったのか?と言いながら、レオルステイルはグレアラシルに詰め寄る。

膨大な魔力の霧がレオルステイルから湧き上がってグレアラシルの身体にまとわりついてきたので、これは相当お冠なのかそれとも別の理由なのか?と怯えながら、首をブンブンと縦に何度も振った。

「マジか・・・・」

その光景を、台所でコーヒーを入れていたベルフォリスが見て呟く。

ミカゲが持ってきたパンをフンワリと焼いて持ってきたソフィアステイルも、唖然とした顔をしてその場で固まった。

「二人とも、台所に居たのか。」

セレスが二人に気付いて声をかけると、驚きのあまり手に持っていたパンを載せたトレーを落としそうになっていたソフィアステイルは我に返って、トレーをしっかりと持ち直した。

「私らは、ほんの一歩先に書架に戻って来てたんだよ。姉さんたちがもう少しで帰ってくると分かっていたからね、コーヒーでも淹れて待とうか?って事にしてたんだよね。」

そう言って、書架の1階のテーブルにトレーを置く。

後に続いてベルフォリスも、持ってきたコーヒーポットと人数分のカップをテーブルに置いた。

 皆が『アルセア・ティアード』の名に驚愕していた頃、コレットは一人もう一つの別のテーブル席に座って、皆の様子を伺っていた。

ちょっと一歩退いた様な、でも仲間に入りたい子犬の様な状態になっていた。

最初に気付いたのはベルフォリスだった。

人間の友達が出来たと言って喜んでいた彼は、一人でポツンとしているコレットに話しかける。

「良かった、無事に戻って来て。本当に悲しい事があったから、あんな状態になっても仕方が無かったよね。でも、本当に良かったよ。僕は本当に嬉しいよ!」

と、テーブルの上に載せていたコレットの手を握った。

コレットは、

「ありがとう、ベルフォリス。私も嬉しいです、また皆と会えて本当に嬉しい。」

ベルフォリスの言葉に、本当に嬉しそうにしながらコレットは涙をこぼした。

「でも、私、多分今まで通りのコレットじゃない・・・・」

コレットは言いかけて言葉を止める。

そして、テーブルの木目を数える様に目を伏せた。

今まで通りのコレットじゃない?

ベルフォリスは、コレットから放たれた言葉に疑問符しか投げかけられない。

その昔に、『アリ・エルシア』と面識があるのは、ミカゲとステイル姉妹だけなので、今まで通りのコレットではないと言われてもサッパリちんぷんかんぷんにしかならなかった。

コレットの言葉に対してベルフォリスは、

「今まで通りとこれからのコレットの違いは僕には分からないけど、これからもコレットはこの書架の仲間って事だけは変わらないよ。」

ベルフォリスがそう言うと、コレットは顔を上げて伏せていた目を見開き、深い海のように青い瞳を輝かせた。

「ベルフォリス・・・・ありがとう。」

二人は笑顔を交わす。

 その光景を近くで見守っていたミカゲは、

「はい!申し訳ないんだちが、そこまで!ベルもコレットもちょっと椅子だけ持ってコッチに集まるち!」

手をパンパンと叩きながら、ちょっとイイ雰囲気になっていた二人を呼び寄せる。

そう、これから、『アルセア・ティアード』に関する情報交換並びに、今回の事件の首謀者と目的を推察するのだ。

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