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第四章 ソルフゲイルの謀略
第66話 旅立ちの日
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ミカゲが過去の世界から認識されなくなった後、『ラナティア』は竜化したニーゼンヴォルフに乗って小さな島を旅立った。
後に残された少女は、しばらくの間泣きじゃくっていたが、涙も声も枯れた頃にようやく家に入って行く。
家の中では、一人ベッドの上で横たわる日々が続いていた。
「ずっとひとりで過ごすのは、子供の精神教育には良くないち。」
ミカゲが呟いても、『エルシア』にはその声は届かない様だった。
ニーゼンヴォルフにだけ届いていたのが不思議な位だった。
何日か経過した頃、『エルシア』の元に他の神族と思われる女性や男性が、ニーゼンヴォルフとは違う竜に乗ってやって来た。
どうやら世話係の様だった・
世話係の神族は、これまた両親なのか?と思いたくなる様な親切さで『エルシア』の世話を焼いていて。
でもって、また当然の様に食材などの生活必需品は家の中から自然に湧いてくる?様で、彼らが生活に困窮するような事は一切無かった。
「あちしも、食料に困らない家に住みたいち。」
この世界が、コレットの夢の中の精神世界の出来事だと言う事を少し忘れそうになりながら、ミカゲは過去の光景を見続ける。
更にしばらくすると、あのニーゼンヴォルフが飛来してきたので、ミカゲはニーゼンヴォルフに察知されない様に乗り出し気味だった身体を低くして身構えた。
ニーゼンヴォルフは周囲を少し見まわした後、何事も無かったかの様に家に入って行く。
家に入ると、『エルシア』がすぐさま駆け寄って、
「『ラナティア』は!?帰って来たの?!」
と、問いかけた。
必死そうな表情の『エルシア』に少し戸惑いを隠せなかったニーゼンヴォルフだが、少し沈痛な表情をしながら『エルシア』に一言こう告げた。
「アリ・ラナティア様は亡くなられました。」
その瞬間、家の中に居たニーゼンヴォルフ以外の者の顔が凍てついた様な、そんな状態になった。
世話係の二人は地面にうずくまって大きく悲しんだ。
当の『エルシア』は、その場で立ちすくんで動かない。
多分、こんな光景になるだろうとニーゼンヴォルフは想像していた様で、特に何の反応も示さず表情も特に変えることなく3人の悲しみの光景をしばらく見ていた後、
「私の仕事は終わりましたので、神界ファールタリアに帰還します。」
と言って踵を返し、家から出て行こうとした。
家から出て行こうとするニーゼンヴォルフだったが、『エルシア』に足をつかまれて身動きが出来なくなった。
ずっと立ち尽くして動かなかった『エルシア』だったが、出て行くニーゼンヴォルフに対してまた「置いて行かれる」と言う現実を突きつけられた事に対して、少しの反抗心を抱いた様だった。
「ま、待って!!私も連れて行って!!」
ニーゼンヴォルフの足をつかむ『エルシア』の顔は涙と鼻水でボロボロになっていたが、それをみても特に何も動じないニーゼンヴォルフが動じたのは、「連れて行って」と言う言葉だった。
「本当に良いのですか?ここでの暮らしは満足されませんでしたか?」
足をつかんで離さない『エルシア』の目を見据えながら、氷炎竜ニーゼンヴォルフは問いかける。
「この島は最後の楽園です。我々が守れなかった楽園で最後に残された地です。この楽園での暮らしを捨てて、外の世界で生きる覚悟はありますか?外の世界は想像以上に過酷で、目を逸らしたくなるような事がたくさんあふれているのですよ?」
更に『エルシア』の目を見ながら続けた。
『エルシア』は、
「確かにこの島は、緑もあって鳥もいて、いつも楽しく過ごせて幸せだった。でもそれは、『ラナティア』が居てくれたから。」
流れてきた涙を拭って更に続ける。
「でも今は、もう『ラナティア』は帰って来ないんでしょ?もう『ラナティア』に会えないのなら、この島は私にとって地獄でしかないの。もう楽園でも何でもないの、だから出て行くの。それに、私は私の事を全然知らない。もっと私は私の事を知りたいの!!」
そう言って、今度はつま先立ちになってニーゼンヴォルフの服の胸ぐら辺りを掴んだ。
ニーゼンヴォルフは、この『エルシア』の言葉を重く受け止めた様で、ゆっくりと目を閉じた後、またゆっくりと目を開けた。
そして、世話係の2人に対して、
「と言う訳だ。なのでお前たちの任務もここまでだ、下がって良い。」
と一言伝える。
これを聞いた2人は、悲しみの行動を急に辞め、まるで人形の様に立ち上がってゾロゾロと外に出て行った。
世話を焼いている間は人間の様だったが、実は感情の乏しい人形だったのかも知れなかった。
世話係が急に出て行ったのを見た『エルシア』は、
「本当に連れてってくれるの?」
と、ニーゼンヴォルフに確認する。
「ええ、勿論です。私よりも上位の神籍に属している貴方の言葉には、逆らう事は出来ませんので。」
そう言って、今度はニーゼンヴォルフも外に出て行こうとする。
「待って!持っていきたいものがあるの!」
『エルシア』は、ニーゼンヴォルフの背中を追う前に、ベッドの隙間から一対の弓と矢を取り出した。
「それは?」
ニーゼンヴォルフが問いかけると、
「これ、前に『ラナティア』が作ってくれた弓矢なの。あなたの弓にしなさいって言って。だから持っていくの!」
黄金色に輝く弓矢を抱きかかえながら、今度こそニーゼンヴォルフの背中を追う。
小さな体に大きな大人用の弓矢が大きくて、このまま竜化した自分の背に乗るのは難しいだろうと判断したニーゼンヴォルフは、
「しばしその弓、私にお預けください。私が持っていた方が安全に弓矢を運ぶことが出来ますゆえ。」
と言って弓矢を受け取ると、背に荷物をくくり付ける皮ベルトで丁寧に自分の身体に装着させた。
「本当だ、凄い!ありがとう!!」
『エルシア』は朗らかにお礼を言う。
「礼には及びません。では、行きましょう。」
外に出るとすぐ、ニーゼンヴォルフの身体は大きな竜の姿になり、小さな少女を背に乗せた。
落ちない様にしっかりと掴まっててくれ~と竜化する前に一言言っていた言葉は、この神の少女に届いたか不安だったが、『エルシア』はしっかりと掴まっていた。
それを確認すると竜は一声雄たけびを上げた後、小さな絶海の孤島から飛び立った。
空は既に日が落ちかけていたが、赤く染まった空の果てに向かって竜は飛んで行ったのだった。
後に残された少女は、しばらくの間泣きじゃくっていたが、涙も声も枯れた頃にようやく家に入って行く。
家の中では、一人ベッドの上で横たわる日々が続いていた。
「ずっとひとりで過ごすのは、子供の精神教育には良くないち。」
ミカゲが呟いても、『エルシア』にはその声は届かない様だった。
ニーゼンヴォルフにだけ届いていたのが不思議な位だった。
何日か経過した頃、『エルシア』の元に他の神族と思われる女性や男性が、ニーゼンヴォルフとは違う竜に乗ってやって来た。
どうやら世話係の様だった・
世話係の神族は、これまた両親なのか?と思いたくなる様な親切さで『エルシア』の世話を焼いていて。
でもって、また当然の様に食材などの生活必需品は家の中から自然に湧いてくる?様で、彼らが生活に困窮するような事は一切無かった。
「あちしも、食料に困らない家に住みたいち。」
この世界が、コレットの夢の中の精神世界の出来事だと言う事を少し忘れそうになりながら、ミカゲは過去の光景を見続ける。
更にしばらくすると、あのニーゼンヴォルフが飛来してきたので、ミカゲはニーゼンヴォルフに察知されない様に乗り出し気味だった身体を低くして身構えた。
ニーゼンヴォルフは周囲を少し見まわした後、何事も無かったかの様に家に入って行く。
家に入ると、『エルシア』がすぐさま駆け寄って、
「『ラナティア』は!?帰って来たの?!」
と、問いかけた。
必死そうな表情の『エルシア』に少し戸惑いを隠せなかったニーゼンヴォルフだが、少し沈痛な表情をしながら『エルシア』に一言こう告げた。
「アリ・ラナティア様は亡くなられました。」
その瞬間、家の中に居たニーゼンヴォルフ以外の者の顔が凍てついた様な、そんな状態になった。
世話係の二人は地面にうずくまって大きく悲しんだ。
当の『エルシア』は、その場で立ちすくんで動かない。
多分、こんな光景になるだろうとニーゼンヴォルフは想像していた様で、特に何の反応も示さず表情も特に変えることなく3人の悲しみの光景をしばらく見ていた後、
「私の仕事は終わりましたので、神界ファールタリアに帰還します。」
と言って踵を返し、家から出て行こうとした。
家から出て行こうとするニーゼンヴォルフだったが、『エルシア』に足をつかまれて身動きが出来なくなった。
ずっと立ち尽くして動かなかった『エルシア』だったが、出て行くニーゼンヴォルフに対してまた「置いて行かれる」と言う現実を突きつけられた事に対して、少しの反抗心を抱いた様だった。
「ま、待って!!私も連れて行って!!」
ニーゼンヴォルフの足をつかむ『エルシア』の顔は涙と鼻水でボロボロになっていたが、それをみても特に何も動じないニーゼンヴォルフが動じたのは、「連れて行って」と言う言葉だった。
「本当に良いのですか?ここでの暮らしは満足されませんでしたか?」
足をつかんで離さない『エルシア』の目を見据えながら、氷炎竜ニーゼンヴォルフは問いかける。
「この島は最後の楽園です。我々が守れなかった楽園で最後に残された地です。この楽園での暮らしを捨てて、外の世界で生きる覚悟はありますか?外の世界は想像以上に過酷で、目を逸らしたくなるような事がたくさんあふれているのですよ?」
更に『エルシア』の目を見ながら続けた。
『エルシア』は、
「確かにこの島は、緑もあって鳥もいて、いつも楽しく過ごせて幸せだった。でもそれは、『ラナティア』が居てくれたから。」
流れてきた涙を拭って更に続ける。
「でも今は、もう『ラナティア』は帰って来ないんでしょ?もう『ラナティア』に会えないのなら、この島は私にとって地獄でしかないの。もう楽園でも何でもないの、だから出て行くの。それに、私は私の事を全然知らない。もっと私は私の事を知りたいの!!」
そう言って、今度はつま先立ちになってニーゼンヴォルフの服の胸ぐら辺りを掴んだ。
ニーゼンヴォルフは、この『エルシア』の言葉を重く受け止めた様で、ゆっくりと目を閉じた後、またゆっくりと目を開けた。
そして、世話係の2人に対して、
「と言う訳だ。なのでお前たちの任務もここまでだ、下がって良い。」
と一言伝える。
これを聞いた2人は、悲しみの行動を急に辞め、まるで人形の様に立ち上がってゾロゾロと外に出て行った。
世話を焼いている間は人間の様だったが、実は感情の乏しい人形だったのかも知れなかった。
世話係が急に出て行ったのを見た『エルシア』は、
「本当に連れてってくれるの?」
と、ニーゼンヴォルフに確認する。
「ええ、勿論です。私よりも上位の神籍に属している貴方の言葉には、逆らう事は出来ませんので。」
そう言って、今度はニーゼンヴォルフも外に出て行こうとする。
「待って!持っていきたいものがあるの!」
『エルシア』は、ニーゼンヴォルフの背中を追う前に、ベッドの隙間から一対の弓と矢を取り出した。
「それは?」
ニーゼンヴォルフが問いかけると、
「これ、前に『ラナティア』が作ってくれた弓矢なの。あなたの弓にしなさいって言って。だから持っていくの!」
黄金色に輝く弓矢を抱きかかえながら、今度こそニーゼンヴォルフの背中を追う。
小さな体に大きな大人用の弓矢が大きくて、このまま竜化した自分の背に乗るのは難しいだろうと判断したニーゼンヴォルフは、
「しばしその弓、私にお預けください。私が持っていた方が安全に弓矢を運ぶことが出来ますゆえ。」
と言って弓矢を受け取ると、背に荷物をくくり付ける皮ベルトで丁寧に自分の身体に装着させた。
「本当だ、凄い!ありがとう!!」
『エルシア』は朗らかにお礼を言う。
「礼には及びません。では、行きましょう。」
外に出るとすぐ、ニーゼンヴォルフの身体は大きな竜の姿になり、小さな少女を背に乗せた。
落ちない様にしっかりと掴まっててくれ~と竜化する前に一言言っていた言葉は、この神の少女に届いたか不安だったが、『エルシア』はしっかりと掴まっていた。
それを確認すると竜は一声雄たけびを上げた後、小さな絶海の孤島から飛び立った。
空は既に日が落ちかけていたが、赤く染まった空の果てに向かって竜は飛んで行ったのだった。
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