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第四章 ソルフゲイルの謀略
第65話 絶海の孤島
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横たわるミカゲの横では、セレスとレオルステイル母娘が何やら喧々諤々な事を言い合っていたのだが、当のミカゲには何もする事は出来なかった。
何故なら、今のミカゲはコレットの心の中に入り込んでいたからだ。
レオルステイルの術でコレットの深層意識と言うか魂と言うか、とにかくコレットと言う個人の意識を深い闇の底から救出するのがミカゲの任務だった。
この、人の意識と言う所に入って最初にミカゲが驚いたのが、今まで拘束具だったり竜の身体だったり~と、とにかく基本的に自分の身体は重くて厄介な事この上無い感覚しか感じられてこなかったのに、初めて身体が羽根の様に軽く浮遊感を感じられている状況に少々感動していた。
精神の世界と言うのは、こんなにも重さを感じない世界なのか?と疑問符を投げかけながら、果ての見えない暗闇の中を進んでいく。
その途中で、外から二人の声が聞こえたのだが、これにも驚きを隠せなかった。
人の体の中に意識が入り込んでいる状態なのに、外側の音が中にまで入り込んで来るとは想像もしていなかったからだ。
何はともあれ、ミカゲはコレットの心の中を進む。
最初の頃は暗闇に覆われていた空間だったが、しばらく進むと少し明るくなっていった。
家が見えた。
メルヴィのコレットの家ではなく、海が見えるどこかの土地の風景が見える。
海の近くのその家では、幼いコレットが楽しそうの走り回っていた。
コレットの幼少期の記憶だろうか?と最初ミカゲは思ったが、どうやら違う様だった。
何故なら、その土地は周囲をぐるりと海に囲まれていて、その海の上には他に島も陸地も見えない絶海の孤島の様な所だったからだ。
「ココは一体どこなんだち?」
ミカゲは呟きながらその光景を眺め続ける。
小さなコレットは、孤島の中心にある小さな家に向かって走っていた。
家の前には、脚の膝裏まで到達するほどの長い金色の髪をした女性が立っていて、駆けてくるコレットに向かって手を振っている。
そして、コレットに向かってこう名を呼んだ。
「エルシア~!」
エルシアと呼ばれた少女は、長い金髪の女性の近くまでやってくると、その胸に跳躍して飛び込み、
「ラナティア!」
と、その女性の事を呼んだ。
「お母さんじゃないんだちか。」
雰囲気が似ていたから、てっきり母娘だと思い込んでいたミカゲだったが、どうやら二人の関係はそうではないのか、それともそうなのかは分からなかった。
二人は手を取り合うと、家の中に入って行く。
家の中の様子は見られないのか?とミカゲが思考を巡らせるのと同時に、家の中の光景も目の前に現れた。
この光景は、コレットの記憶なのかも知れない。
家の中での二人は、親子の様な間柄の様に見えた。
本来は違うのかも知れないし、それとも本当に母娘なのかも知れない。
普通にご飯の支度をして食べ、たわいもない話で笑いあっていた。
平和だった。
平穏で、何も不安な要素が無いと思われる空間だった。
しばらく二人の生活を観察していると、妙な違和感をミカゲは感じていた。
一つ不思議な点があった。
二人は一切働いたり農作業などもしている風が無いのに、どこからともなく食材がいつでも豊富にある様に見えた。
まるで、ここは楽園なんじゃないか?と思えるような状況で暮らしていることが分かった。
それと、『ラナティア』と呼ばれた女性には、何か焦っている様なそんな雰囲気を感じ取れた。
何か、『ラナティア』に危機が迫っているのか?それとも島を離れなければならない事情でもあるのか、そんな感じがミカゲに過った。
その予感は当たった。
ミカゲがその二人の生活を見始めて何日か分経った頃、絶海の孤島の家に何者かが訪問してきた。
絶海の孤島なのに船にも乗らず、突然上空から飛来してきたのだ。
飛来してきたのは男で、男の背中には龍の羽根が存在していたことから、ミカゲの様な竜種だと言う事が分かった。
「あのお兄さん、あちしと同じ竜族なんだち。」
そう言ってミカゲは、男に親近感を感じた。
男は家のドアをノックすると、こう呼びかけた。
「アリ・ラナティア様!出撃の準備が整いました。」
男の呼びかけからすぐに、『ラナティア』が顔を出した。
「準備は出来ています。竜化して待機を。」
男にそう命ずると、家の前の少し広くなったところに『ラナティア』は歩いていく。
言われた男の方は、その後方から付いて行き、一定の距離を置いた所で竜に変幻し始めた。
ほんの瞬きの間に男は、竜化したミカゲ程の巨体の竜に変幻し、『ラナティア』に騎乗をする様に促した。
いざ騎乗せんと『ラナティア』が手綱を手に取ろうとした時、家の中から『エルシア』が飛び出して来た。
「ラナティア~!!行っちゃヤダ!!」
涙をボロボロと流しながら、『エルシア』は『ラナティア』の脚にすがりつく。
その様子を『ラナティア』は、愛おしそうに見つめた後、腰を下ろして『エルシア』と同じ目線で語りかけた。
「エルシア、ごめんね。これはもう昔から決定していた事項で、私が行かなければ世界は崩壊してしまうかもしれないの。でも、この戦の引き金を最初に引いたのは私なんだけどね。」
そう言って、『エルシア』の頭を撫でた。
「エルシア、あなたの事は本当の娘みたいに思っているわ。これからも、未来永劫私の娘だったら~と思ったこともあったけど、それは絶対に無理なの。と言うか、私の様な戦神の様になっては駄目よ。あなたは、アリ・エルシアは人々に平和と希望を齎す女神になって欲しいかしら。」
「アリ・エルシア」
ミカゲはふと呟く。
今までアリエルシアと言う名前の神様だと思っていたけど、アリ・エルシアの『アリ』の部分は古代語の女神と言う意味だったことをついぞ思い出したのだ。
「『アリ・ラナティア』確かに古の戦神に居たち・・・・」
ミカゲは、今目の前に広がる光景と自分の記憶をすり合わせていく。
セレスよりも長く生きていてかつレオルステイルよりも若干若い年齢にもなってくると、古の物語の断片を記憶していたりするのだ。
竜族の間で幼少期より神話の英雄達の話を聞かされてきた記憶があるミカゲには、あの大戦の物語が脳裏に思い出されていた。
世界樹の守護者になったあの日、レオルステイルが語っていた暗黒竜討伐の話だ。
あの大戦では、多くの神々が神の御業を駆使して暗黒竜を苦しめて行ったと言う。
そこに、ミカゲの祖先のグレアリー・ニーゼンヴォルフも参戦していたのだ。
「もしかするとこのお兄さんがグレアリー・ニーゼンヴォルフ?」
竜化した男の顔をマジマジと覗き込んでいると、急に竜の目がミカゲの居る中空を睨んだ。
「ぅわ!」
まさか目が合うと思わなかったミカゲは、このヘンテコ空間の中の後方に後ずさる。
昔の光景を映す映像の中では、
「どうしました?ニーゼンヴォルフ」
と、『ラナティア』が竜に問いかけていた。
「ぅわ、マジなんだち?昔と今とで時空を超越してるんだち??」
半信半疑だったが、このコレットの精神世界の記憶の中で見る過去の世界は、この現代の世界と時空を超越する事が出来る様だった。
目が合った、「ニーゼンヴォルフ」と呼ばれた男=竜は多分、あの氷炎竜グレアリー・ニーゼンヴォルフ種の始祖の男だと思われた。
そして、当時世界樹の守護竜をやっていた筈だったので、未来から過去の記憶を覗き見ている現代の世界樹の守護竜の同種族のミカゲの意識に気付いても、何ら不思議は無かったのだ。
ミカゲが過去の光景を、少し遠くから離れて見るようになると、向こうからミカゲの存在を捉える事が難しくなるようで、以降はミカゲの視線に対して過剰に反応する事もなくなった。
「コレットの心の中なのに、何だか非常に疲れたんだち。」
ミカゲはこの光景の行きつく先まで見るために、少し体を光景の傍まで寄せた。
何故なら、今のミカゲはコレットの心の中に入り込んでいたからだ。
レオルステイルの術でコレットの深層意識と言うか魂と言うか、とにかくコレットと言う個人の意識を深い闇の底から救出するのがミカゲの任務だった。
この、人の意識と言う所に入って最初にミカゲが驚いたのが、今まで拘束具だったり竜の身体だったり~と、とにかく基本的に自分の身体は重くて厄介な事この上無い感覚しか感じられてこなかったのに、初めて身体が羽根の様に軽く浮遊感を感じられている状況に少々感動していた。
精神の世界と言うのは、こんなにも重さを感じない世界なのか?と疑問符を投げかけながら、果ての見えない暗闇の中を進んでいく。
その途中で、外から二人の声が聞こえたのだが、これにも驚きを隠せなかった。
人の体の中に意識が入り込んでいる状態なのに、外側の音が中にまで入り込んで来るとは想像もしていなかったからだ。
何はともあれ、ミカゲはコレットの心の中を進む。
最初の頃は暗闇に覆われていた空間だったが、しばらく進むと少し明るくなっていった。
家が見えた。
メルヴィのコレットの家ではなく、海が見えるどこかの土地の風景が見える。
海の近くのその家では、幼いコレットが楽しそうの走り回っていた。
コレットの幼少期の記憶だろうか?と最初ミカゲは思ったが、どうやら違う様だった。
何故なら、その土地は周囲をぐるりと海に囲まれていて、その海の上には他に島も陸地も見えない絶海の孤島の様な所だったからだ。
「ココは一体どこなんだち?」
ミカゲは呟きながらその光景を眺め続ける。
小さなコレットは、孤島の中心にある小さな家に向かって走っていた。
家の前には、脚の膝裏まで到達するほどの長い金色の髪をした女性が立っていて、駆けてくるコレットに向かって手を振っている。
そして、コレットに向かってこう名を呼んだ。
「エルシア~!」
エルシアと呼ばれた少女は、長い金髪の女性の近くまでやってくると、その胸に跳躍して飛び込み、
「ラナティア!」
と、その女性の事を呼んだ。
「お母さんじゃないんだちか。」
雰囲気が似ていたから、てっきり母娘だと思い込んでいたミカゲだったが、どうやら二人の関係はそうではないのか、それともそうなのかは分からなかった。
二人は手を取り合うと、家の中に入って行く。
家の中の様子は見られないのか?とミカゲが思考を巡らせるのと同時に、家の中の光景も目の前に現れた。
この光景は、コレットの記憶なのかも知れない。
家の中での二人は、親子の様な間柄の様に見えた。
本来は違うのかも知れないし、それとも本当に母娘なのかも知れない。
普通にご飯の支度をして食べ、たわいもない話で笑いあっていた。
平和だった。
平穏で、何も不安な要素が無いと思われる空間だった。
しばらく二人の生活を観察していると、妙な違和感をミカゲは感じていた。
一つ不思議な点があった。
二人は一切働いたり農作業などもしている風が無いのに、どこからともなく食材がいつでも豊富にある様に見えた。
まるで、ここは楽園なんじゃないか?と思えるような状況で暮らしていることが分かった。
それと、『ラナティア』と呼ばれた女性には、何か焦っている様なそんな雰囲気を感じ取れた。
何か、『ラナティア』に危機が迫っているのか?それとも島を離れなければならない事情でもあるのか、そんな感じがミカゲに過った。
その予感は当たった。
ミカゲがその二人の生活を見始めて何日か分経った頃、絶海の孤島の家に何者かが訪問してきた。
絶海の孤島なのに船にも乗らず、突然上空から飛来してきたのだ。
飛来してきたのは男で、男の背中には龍の羽根が存在していたことから、ミカゲの様な竜種だと言う事が分かった。
「あのお兄さん、あちしと同じ竜族なんだち。」
そう言ってミカゲは、男に親近感を感じた。
男は家のドアをノックすると、こう呼びかけた。
「アリ・ラナティア様!出撃の準備が整いました。」
男の呼びかけからすぐに、『ラナティア』が顔を出した。
「準備は出来ています。竜化して待機を。」
男にそう命ずると、家の前の少し広くなったところに『ラナティア』は歩いていく。
言われた男の方は、その後方から付いて行き、一定の距離を置いた所で竜に変幻し始めた。
ほんの瞬きの間に男は、竜化したミカゲ程の巨体の竜に変幻し、『ラナティア』に騎乗をする様に促した。
いざ騎乗せんと『ラナティア』が手綱を手に取ろうとした時、家の中から『エルシア』が飛び出して来た。
「ラナティア~!!行っちゃヤダ!!」
涙をボロボロと流しながら、『エルシア』は『ラナティア』の脚にすがりつく。
その様子を『ラナティア』は、愛おしそうに見つめた後、腰を下ろして『エルシア』と同じ目線で語りかけた。
「エルシア、ごめんね。これはもう昔から決定していた事項で、私が行かなければ世界は崩壊してしまうかもしれないの。でも、この戦の引き金を最初に引いたのは私なんだけどね。」
そう言って、『エルシア』の頭を撫でた。
「エルシア、あなたの事は本当の娘みたいに思っているわ。これからも、未来永劫私の娘だったら~と思ったこともあったけど、それは絶対に無理なの。と言うか、私の様な戦神の様になっては駄目よ。あなたは、アリ・エルシアは人々に平和と希望を齎す女神になって欲しいかしら。」
「アリ・エルシア」
ミカゲはふと呟く。
今までアリエルシアと言う名前の神様だと思っていたけど、アリ・エルシアの『アリ』の部分は古代語の女神と言う意味だったことをついぞ思い出したのだ。
「『アリ・ラナティア』確かに古の戦神に居たち・・・・」
ミカゲは、今目の前に広がる光景と自分の記憶をすり合わせていく。
セレスよりも長く生きていてかつレオルステイルよりも若干若い年齢にもなってくると、古の物語の断片を記憶していたりするのだ。
竜族の間で幼少期より神話の英雄達の話を聞かされてきた記憶があるミカゲには、あの大戦の物語が脳裏に思い出されていた。
世界樹の守護者になったあの日、レオルステイルが語っていた暗黒竜討伐の話だ。
あの大戦では、多くの神々が神の御業を駆使して暗黒竜を苦しめて行ったと言う。
そこに、ミカゲの祖先のグレアリー・ニーゼンヴォルフも参戦していたのだ。
「もしかするとこのお兄さんがグレアリー・ニーゼンヴォルフ?」
竜化した男の顔をマジマジと覗き込んでいると、急に竜の目がミカゲの居る中空を睨んだ。
「ぅわ!」
まさか目が合うと思わなかったミカゲは、このヘンテコ空間の中の後方に後ずさる。
昔の光景を映す映像の中では、
「どうしました?ニーゼンヴォルフ」
と、『ラナティア』が竜に問いかけていた。
「ぅわ、マジなんだち?昔と今とで時空を超越してるんだち??」
半信半疑だったが、このコレットの精神世界の記憶の中で見る過去の世界は、この現代の世界と時空を超越する事が出来る様だった。
目が合った、「ニーゼンヴォルフ」と呼ばれた男=竜は多分、あの氷炎竜グレアリー・ニーゼンヴォルフ種の始祖の男だと思われた。
そして、当時世界樹の守護竜をやっていた筈だったので、未来から過去の記憶を覗き見ている現代の世界樹の守護竜の同種族のミカゲの意識に気付いても、何ら不思議は無かったのだ。
ミカゲが過去の光景を、少し遠くから離れて見るようになると、向こうからミカゲの存在を捉える事が難しくなるようで、以降はミカゲの視線に対して過剰に反応する事もなくなった。
「コレットの心の中なのに、何だか非常に疲れたんだち。」
ミカゲはこの光景の行きつく先まで見るために、少し体を光景の傍まで寄せた。
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