ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第四章 ソルフゲイルの謀略

第59話 世界樹の下で

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 世界樹の下には、すぐに着いた。

瞬き1つの時間しか経っていなかった。

憔悴しきったミカゲと生気を失っているコレットを、世界樹の根の所にある椅子の様なくぼみに座らせる。

レオルステイルは、ミカゲと世界樹の契約の更新をしたパネルの所に行き、何やら世界樹に対して操作をしていた。

 セレスは、今にも命の灯が消えそうになっているコレットの意識を繋ぎ留めるために、心の奥から話しかけつつ回復の術をかけつづけた。

ミカゲの体力は回復して行った様だったが、コレットからは魔法を拒絶するかのような壁が邪魔をしていて、セレスの術が身体に浸透してくれそうな状態にならない。

焦るセレスは術の強度を高くしようとするが、その手をレオルステイルが止めた。

「強過ぎる術は、人間のコレットの身体には厳しかろう。このまま感情に任せて回復術をかけても、壊れるのはお前ではなくコレットの方じゃぞ。」

首を横に振りながら、セレスの手を掴んで、コレットとミカゲから少し引き離した。

「母さん!!」

セレスはレオルステイルに追いすがるが、

「今は我慢せよ。お前は我々のリーダーなのじゃぞ。アリエルシアの弓奪還計画は失敗したがの、我々の目的は潰えていないのじゃ。その辺を弁えよ。」

レオルステイルは、セレスの感情を汲みつつも厳しい言葉を投げかけた。

これは、仲間を束ねる主導者としての自覚をもっと理解して欲しいと言う、母心からの言葉だった。

 セレスは小さく首を縦に振ると、ミカゲとコレットから少し離れた。

ミカゲはそれに気が付くと、疲弊しているセレスの頭を撫で始めた。

「セレスは偉いんだち。あちしは知ってるち。でも、みんなを助けようとして無理する癖があるんだち。それだけは昔から変わらないんだち。」

ふぁさふぁさと、赤い炎の様なセレスの髪と頭を撫でる手が心地良かった。

まだ、昔セレスが幼少の頃にミカゲが撫でてくれた時と同じ感覚が、身体全体を巡った。

「コレットは落ち着いてきたち。セレスの回復魔法は拒絶されてるぽいけど、心が深淵に落ちる事はもう無いと思うち。」

ミカゲはそう言いながら、今度はコレットの金色の髪を撫でた。

 あの、コレットの家から出る時の、生気を失った人形の様な状態からはかなり回復して、かろうじて生にしがみつこうとしている状態になっていた。

それを見たレオルステイルは、

「世界樹からの働きかけは成功している様じゃな。実は、コレットの身体に残る世界樹のお茶成分を頼りに、身体の中から回復力を高めてみたんじゃよ。」

そう言って、世界樹の枝を眺めた。

天空にまでそびえ立つ世界樹の梢は遠く、地面に落ちる光はほんの僅かになっている。

「コレットも結構世界樹のお茶を気に入っていた様子だったのでな、もしかすると・・・と思って試しにやってみたのじゃが、正解だった様じゃ。」

 レオルステイルの機転で、まさかの世界樹のお茶の成分を利用して身体の中から回復魔法をかけると言う発想に、セレスはポカンとしていた。

その発想があったか!と言うよりは、亀の甲より年の劫とも取れるレオルステイルの今までの人生の経験則の方に目から鱗が落ちていた。

「な、成程・・・外からの回復魔法を拒絶して来る相手には、まず世界樹のお茶を飲ませると良い・・・と。勉強になりました。」

感服した様子で、セレスはレオルステイルに頭を下げた。

「分かれば良いのじゃ。さて、身体の回復は出来たが、次は肝心の心じゃな・・・・」

レオルステイルは、先程まで苦悶の表情だったコレットが安らかな顔をして眠っているのを確認すると、次の課題を攻略しようとする探求家の様な表情になった。

しかし、腕組みをして厳しい表情のまま次の行動に出ようとしない。

「どうしたんだ?母さん、世界樹を使って心の均衡を取り戻す方法とか、小難しい方法があるんだろう?」

セレスが問いかけると、

「あるにはある。ただ、この方法はかなり危険を伴う。もしかしたら失敗して、コレットは永遠に眠り続けることになるやも知れぬのじゃ。だから儂は、これから行う魔道の実行に躊躇している。」

普段の陽気な表情からは想像も出来ない位に、絶望と希望の狭間に立たされている様な顔のレオルステイルの表情を見たセレスは、先程までの少し希望が出て来た気分から、一気に崖下に突き落とされた様な気分になった。

「母さんともあろう人が、そんなに大変なのか?コレットを助けられないのか?」

焦りを隠せないセレスは、レオルステイルに問い詰める。

そんな娘の姿を見たレオルステイルは、

「まぁ、難しい事は確かじゃが、ミカゲが協力してくれれば何て事は無い、至極簡単に事が進むと思うから安心するのじゃ!」

まるで、今までの暗く絶望的な状況は冗談だったと言わんばかりに、レオルステイルは微笑んだ。

コレットを抱きしめて、全身全霊で救おうとしている竜の少女が救世主になるのだ。

 レオルステイルの、ただならぬ雰囲気を醸し出している笑みを目にしたミカゲは、脚の先から頭の先を走る電撃の様な痺れを感じた。

本当は竜なのに、それ以上に大きな存在ににらまれたカエルの様な、そんな気持ちになった。

「あちし・・・頑張るち・・・だからレオル、あちしを食べないでくれだち・・・・」

ミカゲは目の前の大魔法使いに対して、最大限の懇願をした。

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