ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第四章 ソルフゲイルの謀略

第58話 失敗

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 「これは、私達だけで片づけられる問題じゃない、とりあえずこの屋敷全体を結界で囲って、ヤツらがまた戻って来れない様にはしておく。」

そうソフィアステイルは言って、手際よく有言を実行して行った。

そして、

「ちょっと『門』で向こうのメンバー連れて来るから。」

と言って一瞬消えて、またすぐ『門』を展開した。

向こうで、予めある程度の説明をして来てから直後の時間軸に戻ってきた様で、広間に降り立ったセレスは沈痛な面持ちで、悪夢のような光景を目の当たりにしていた。

「参った・・・・想像を絶するって言うのはこう言う事を言うんだな。」

「本当に、儂も永い時を生きているがの、人間たちの方が我ら魔族と呼ばれる種族よりも残忍で狡猾じゃと思うぞ。」

レオルステイルは憤りを通り越した感情で、周囲の空気を満たした。

 ミカゲは、コレットを発見した時の状態で佇んでいた。

コレットを抱きしめたまま、コレットから溢れてくるはずの感情を待っていた。

しかしコレットは、家族を全て亡くすと言う衝撃に心と身体が耐えられず、かろうじて生きている様な状態になっていた。

 最後に『慟哭の門』から降りて惨状を見渡したベルフォリスは、さっきまで朗らかな笑顔で自分を勇気づけてくれていた少女が生気を失った状態になっているのを見て、言葉を無くしていた。

「・・・・・・・・・」

 つい先程まで皆で楽しかった時間を共有していたのが、幻だったかの様な状況になっていた。

「え?何?どゆ事?・・・・・」

ベルフォリスは、この光景に見覚えがあった。

昔、ベルフォリスがまだ幼少の頃、セレスの家がご近所さんで一緒に遊んでいたあの頃。

ベルフォリスは両親に連れられて、この蒼壁の大陸の地に出かける事となった。

大陸では、ベルフォリスの両親の親族が暮らしていたため、子連れの挨拶に行くと言った感じだった。

そのタイミングで、当時の人間に襲われた。

人間の目的は、ベルフォリスの祖父の使う特殊な魔法を記した魔導書だったと言う。

祖父は魔導書はくれてやるから命だけは取らないでくれと懇願したが、それは守られなかった。

ベルフォリスは母の魔法で周囲からは姿を見られなくされて難を逃れたが、両親とその家族は人間に殺され、たった一人になってしまった。

当時のベルフォリスはまだ幼くて、すべてを理解するまでにかなり時間がかかったお陰で、憎しみや憤りを抱いたまま成長する事は無かった。

また、しばらく成長するまではセレスの家で暮らしていたので、寂しさを味わうヒマが無かったのが救いだった。

 そう。

ベルフォリスは、コレットにはこれから幸せな生活をしばらくさせて、憎しみや憤りの感情に支配されない様にしなければならない。

穏やかに過ごせる環境で、心を取り戻して欲しいと願った。

「皆、済まない。アタシの見通しが甘かった。今回の作戦は失敗だ。そして、多大なる被害と尊い命をたくさん失ってしまった。」

セレスは、今回の作戦の為に尽力してくれた仲間に向かって、深々と頭を下げた。

下げたが、それはすぐ解除させられた。

「何を馬鹿げた事を言っているのだ?セレス。私達も同罪だ。こんな派手なやらかしに気付かずに、のうのうと赤い月で勝った気になっていたのだからな。」

ソフィアステイルがセレスの頭を掴んで、すぐさま直立の状態に戻した。

「た、多分・・・・ヤツらの中に、か・・・かなり高度な結界術を使う者がいる・・・・・ち。」

コレットを抱きかかえたままのミカゲが、声を振り絞って話始めた。

「ミカゲ、無理するな。お前はコレットの感情を抑制する為に今も、コレットの精神状態を維持し続けているんじゃからの!」

レオルステイルはミカゲの傍に寄り添い、ミカゲの負担を軽減しようと、コレットの肩に手を置いた。

「うう!これはマズいぞ?精神崩壊を起こしかけている。」

コレットの深層意識を覗き見たレオルステイルは、コレットに今起きている状態を皆に伝えた。

「なら、この場はオバさんとベルに任せて、アタシと母さんはミカゲとコレットを連れて世界樹に向かおう。それでイイよな?ベル!」

急な、でも、コレットを回復させるためには無駄な時間をかけられないと言うのなら、ベルフォリスは快く承諾した。

「それしか道が無いのなら、頼んだぞセレス!この子は多分、僕の最初の人間の友達なんだ!」

ベルフォリスの言葉にセレスは、強く頷いて、

「アタシの全力と尽くす!だからベルは、この家を元のキレイな状態に戻しておいてくれ!」

セレスはそう言って、ミカゲの肩に手を置き、レオルステイルとミカゲの世界樹の繋がりの力を使って、世界樹の袂までの移動を実行した。

 まるで、空気に溶けるかのように4人の姿が消え、屋敷の中にはソフィアステイルとベルフォリスが残された。

この状況にソフィアステイルは、

「おや、おやおやおや、何だか懐かしいねベル、お前と何かをやらかしていたあの頃が懐かしいよ。」

そう言って少し笑んだが、すぐに無表情になった。

 ベルフォリスも、ちょっと懐かしさを感じたが笑むことは無く、目の前の骸を弔うための準備をし始める。

 コレットの家族の骸は、残虐にも甚だしい程に斬られた痕が残されていた事が原因で、殆どの者は失血死と言う状態になっていた。

「こんな事やったヤツ、よっぽどこの家族が憎かったのか?」

腑に落ちない感情がベルフォリスの中でモヤモヤと渦巻いていたが、それを解消する術は今は持ち合わせていなかった。

ソフィアステイルはそんなベルフォリスを見て、

「早く彼らを安寧の地に送ってやろう。この『慟哭の門』なら、一瞬で着くさ。それと、コレットがいつでも彼らに会いに行ける様な場所に移してやらないとな。」

と提案した。
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