57 / 114
第四章 ソルフゲイルの謀略
第57話 謀略
しおりを挟む
「おかしい。」
セレスは、赤い月の平原でコレットとミカゲからの合図を待っていた。
ミカゲには今世界樹との繋がりが構築されていたお陰で、かつて世界樹の守り人だったセレスとレオルステイルとの間で、距離感を無視して意識を疎通する事が出来るのだ。
その高機能を最大限に利用して今回の作戦を実行しているのだが、想定していた予定が過ぎても弓のすり替えを実行しても良いと言う合図が来なかったのだ。
「さっき、コレットを家まで連れて言った所までは連絡が来ているんじゃがの、それ以降の連絡はまだ来ておらぬのでな。」
レオルステイルは済まなそうに答える。
「いや、気にしないでくれ、母さん。これは、連絡する任務を怠っているミカゲの責任だ。」
とセレスは手をヒラヒラとさせながらレオルの言葉を突っぱねる。
ヒラヒラと手を動かしながら、ミカゲは一体何をやっているんだ?とセレスは天を仰いだ。
赤い月の平原の上空の薄緑色の空には雲一つ無く、ただただ広かった。
まるで、空の色がセレスの瞳になったかの様だった。
誰も居ない?自分の家の中を探索していたコレットは、ある部屋で普段は目にしない状況を目の当たりにした。
そう、それはコレットの自室で、普段は自分の魔道の研究や新しい魔法の開発をするために、部屋の壁と言う壁に本棚が設置されていて、まるでソラ・ルデ・ビアスの書架コレットの家支店の様な状態になっていた。
そんな本だらけのコレットの部屋が、何者かに荒らされた様な状態になっていたのだ。
特に、コレットの魔法の研究には欠かせない魔導書の入っていた本棚が荒らされていて、何か重要な書物を探していた様な状態になっていた。
「これってもしかして、私があの書架から珍しい書物を借りて来ていると想定して、その魔導書なりなんなりを盗み出そうとしてたって事?」
言いながら、床に散乱した本を拾いながらコレットは、この状況は何者か?賊の侵入によるものだと悟った。
一体誰が?
そう思いつつも、ある人物に心当たりがあった。
「多分あの、御三家の次男の人ね。」
言いながら、本を机の上に置く。
「残念でした、私はまだあの書架から、何の本も借りてないのよね。」
そう言ってコレットは、自室を後にした。
あと行っていない部屋は、ダンスパーティも出来る広間と、いつも美味しい料理を作ってくれるシェフが集うキッチン・・・・
普段なら、お腹が空いて仕方なくなる楽しい空間の筈のキッチンに行く足は、まるでツルツルに凍った池の氷の上を歩くかの様な足取りになった。
何か、恐怖の権化のような存在がキッチンに居る様な、そんな感覚が襲い掛かってきた。
とりあえずキッチンに向かうには広間を通り抜けなければならなかったので、まずは目の前に近づいてくる広間に入ってからキッチンに行く事にしようとコレットは考えていた。
もしかしたら実は、今正にミカゲから貰った鱗を使うタイミングなのでは?ともコレットは思ったが、真実を見るまでは重い足取りでも歩みを前に進めた。
広間に続くドアの前に立つ。
玄関先の『アリエルシアの弓』から歩いてきたコレットだったが、今の今まで誰にも会うことは無かった。
つまり今、この家は誰も居ない状態になっていた事になる。
誰も居ない状態ではあったが、これから入る広間からは少し人の気配がした。
「もう、皆もしかしてサプライズ?私を驚かそうとしているのかしら?」
コレットは少し安堵した様な気分になって、広間のドアを開く。
ギィ~っとちょっと立て付けの悪いドアの様な音がして、広間が開かれた。
「・・・・・・・」
しばしの沈黙があった。
コレットは目を疑った。
広間の天井には、凝った意匠の豪華なシャンデリアがかかっていた筈だったが、シャンデリアは地面に落ち、ガラスの破片を氷の様に散乱させている。
その、氷の様なガラスの破片を更に輝かせるかの様に、広間の床は赤く染められていた。
「・・・・・・・・・」
はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・
「ああ・・・・・・」
「ああああ・・・・・・」
息が続かない。
呼吸が、何とか命をこの世に踏みとどまらせるのが精いっぱいな程度にしか続かなくなっていた。
「ああああああああああああ!!!!」
「ああああああぁぁぁあああ!!ミカゲぇぇぇえええええ!!!!」
コレットは、鱗に全身全霊の力を振り絞って、ミカゲの名を叫んだ。
「あいよ!!」
ミカゲは、瞬き程の時間でコレットの傍らに現れた。
あの鱗は、鱗の妖精が現れるとか使い魔が現れるタイプのモノだったのだが、コレットの叫びがただ事ではないと判断したミカゲは、鱗から発せられた危機感を頼りに瞬間移動をしてきたのだ。
「コレット、何があっ・・・・・た・・・・・」
ミカゲは、コレットの身体を支えながら広間の光景を目の当たりにした。
そこには、累々と積み重ねられたこの家の住人の魂無き骸があるばかりだった。
「やられた!!」
ミカゲは唇を噛みしめながら怒りを露わにした。
唇からは鮮血が滴り落ちたが、ミカゲは一切気にする事は無かった。
そして、
「来い!!『慟哭の門』!!!」
渾身の力を振り絞って、魔力の反転無しの膨大絶大な最大級の『慟哭の門』を召喚した。
『慟哭の門』は、赤い月とこの蒼壁の大陸までとの距離感を無視して、先程のミカゲと同じ位の速度でコレットの家の広間に展開した。
急にミカゲによって展開を余儀なくされた『慟哭の門』の本来の主であるソフィアステイルは、少々苛立った様な表情を見せながら、門の中から出てきてミカゲに詰め寄った。
「ちょっとちょっとミカゲさん?今回の作戦の方針だった魔力質量の反転しなくてイイんですか?と言うか、何で主であるこの私より、ミカゲの方が『慟哭の門』を自在に動かせるんでしょうか?その辺の説明を是非!聞かせて頂ける・・・・・んで・・・しょ・・・・・・・・・」
途中まではミカゲの首根っこを捕まえて文句を言っていたソフィアステイルだったが、途中から広間の中心に視線を落として言葉が出なくなった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・な!」
「やられた!!!!」
やっと言葉を出して憤慨したソフィアステイルは、ミカゲにしがみついて今にも死にそうになっているコレットを見た。
コレットは感情を無くし、声も失い、ただやっと生きている様な状態になっていた。
ソフィアステイルは、コレットの身体をミカゲごと抱きしめて涙した。
セレスは、赤い月の平原でコレットとミカゲからの合図を待っていた。
ミカゲには今世界樹との繋がりが構築されていたお陰で、かつて世界樹の守り人だったセレスとレオルステイルとの間で、距離感を無視して意識を疎通する事が出来るのだ。
その高機能を最大限に利用して今回の作戦を実行しているのだが、想定していた予定が過ぎても弓のすり替えを実行しても良いと言う合図が来なかったのだ。
「さっき、コレットを家まで連れて言った所までは連絡が来ているんじゃがの、それ以降の連絡はまだ来ておらぬのでな。」
レオルステイルは済まなそうに答える。
「いや、気にしないでくれ、母さん。これは、連絡する任務を怠っているミカゲの責任だ。」
とセレスは手をヒラヒラとさせながらレオルの言葉を突っぱねる。
ヒラヒラと手を動かしながら、ミカゲは一体何をやっているんだ?とセレスは天を仰いだ。
赤い月の平原の上空の薄緑色の空には雲一つ無く、ただただ広かった。
まるで、空の色がセレスの瞳になったかの様だった。
誰も居ない?自分の家の中を探索していたコレットは、ある部屋で普段は目にしない状況を目の当たりにした。
そう、それはコレットの自室で、普段は自分の魔道の研究や新しい魔法の開発をするために、部屋の壁と言う壁に本棚が設置されていて、まるでソラ・ルデ・ビアスの書架コレットの家支店の様な状態になっていた。
そんな本だらけのコレットの部屋が、何者かに荒らされた様な状態になっていたのだ。
特に、コレットの魔法の研究には欠かせない魔導書の入っていた本棚が荒らされていて、何か重要な書物を探していた様な状態になっていた。
「これってもしかして、私があの書架から珍しい書物を借りて来ていると想定して、その魔導書なりなんなりを盗み出そうとしてたって事?」
言いながら、床に散乱した本を拾いながらコレットは、この状況は何者か?賊の侵入によるものだと悟った。
一体誰が?
そう思いつつも、ある人物に心当たりがあった。
「多分あの、御三家の次男の人ね。」
言いながら、本を机の上に置く。
「残念でした、私はまだあの書架から、何の本も借りてないのよね。」
そう言ってコレットは、自室を後にした。
あと行っていない部屋は、ダンスパーティも出来る広間と、いつも美味しい料理を作ってくれるシェフが集うキッチン・・・・
普段なら、お腹が空いて仕方なくなる楽しい空間の筈のキッチンに行く足は、まるでツルツルに凍った池の氷の上を歩くかの様な足取りになった。
何か、恐怖の権化のような存在がキッチンに居る様な、そんな感覚が襲い掛かってきた。
とりあえずキッチンに向かうには広間を通り抜けなければならなかったので、まずは目の前に近づいてくる広間に入ってからキッチンに行く事にしようとコレットは考えていた。
もしかしたら実は、今正にミカゲから貰った鱗を使うタイミングなのでは?ともコレットは思ったが、真実を見るまでは重い足取りでも歩みを前に進めた。
広間に続くドアの前に立つ。
玄関先の『アリエルシアの弓』から歩いてきたコレットだったが、今の今まで誰にも会うことは無かった。
つまり今、この家は誰も居ない状態になっていた事になる。
誰も居ない状態ではあったが、これから入る広間からは少し人の気配がした。
「もう、皆もしかしてサプライズ?私を驚かそうとしているのかしら?」
コレットは少し安堵した様な気分になって、広間のドアを開く。
ギィ~っとちょっと立て付けの悪いドアの様な音がして、広間が開かれた。
「・・・・・・・」
しばしの沈黙があった。
コレットは目を疑った。
広間の天井には、凝った意匠の豪華なシャンデリアがかかっていた筈だったが、シャンデリアは地面に落ち、ガラスの破片を氷の様に散乱させている。
その、氷の様なガラスの破片を更に輝かせるかの様に、広間の床は赤く染められていた。
「・・・・・・・・・」
はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・
「ああ・・・・・・」
「ああああ・・・・・・」
息が続かない。
呼吸が、何とか命をこの世に踏みとどまらせるのが精いっぱいな程度にしか続かなくなっていた。
「ああああああああああああ!!!!」
「ああああああぁぁぁあああ!!ミカゲぇぇぇえええええ!!!!」
コレットは、鱗に全身全霊の力を振り絞って、ミカゲの名を叫んだ。
「あいよ!!」
ミカゲは、瞬き程の時間でコレットの傍らに現れた。
あの鱗は、鱗の妖精が現れるとか使い魔が現れるタイプのモノだったのだが、コレットの叫びがただ事ではないと判断したミカゲは、鱗から発せられた危機感を頼りに瞬間移動をしてきたのだ。
「コレット、何があっ・・・・・た・・・・・」
ミカゲは、コレットの身体を支えながら広間の光景を目の当たりにした。
そこには、累々と積み重ねられたこの家の住人の魂無き骸があるばかりだった。
「やられた!!」
ミカゲは唇を噛みしめながら怒りを露わにした。
唇からは鮮血が滴り落ちたが、ミカゲは一切気にする事は無かった。
そして、
「来い!!『慟哭の門』!!!」
渾身の力を振り絞って、魔力の反転無しの膨大絶大な最大級の『慟哭の門』を召喚した。
『慟哭の門』は、赤い月とこの蒼壁の大陸までとの距離感を無視して、先程のミカゲと同じ位の速度でコレットの家の広間に展開した。
急にミカゲによって展開を余儀なくされた『慟哭の門』の本来の主であるソフィアステイルは、少々苛立った様な表情を見せながら、門の中から出てきてミカゲに詰め寄った。
「ちょっとちょっとミカゲさん?今回の作戦の方針だった魔力質量の反転しなくてイイんですか?と言うか、何で主であるこの私より、ミカゲの方が『慟哭の門』を自在に動かせるんでしょうか?その辺の説明を是非!聞かせて頂ける・・・・・んで・・・しょ・・・・・・・・・」
途中まではミカゲの首根っこを捕まえて文句を言っていたソフィアステイルだったが、途中から広間の中心に視線を落として言葉が出なくなった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・な!」
「やられた!!!!」
やっと言葉を出して憤慨したソフィアステイルは、ミカゲにしがみついて今にも死にそうになっているコレットを見た。
コレットは感情を無くし、声も失い、ただやっと生きている様な状態になっていた。
ソフィアステイルは、コレットの身体をミカゲごと抱きしめて涙した。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる