ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第四章 ソルフゲイルの謀略

第51話 赤い月

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 「ええ~?マジですか?」

ベルフォリスは、周囲の皆がほぼ全員首を縦に振る光景を見て、自分の信じた道が実は間違っていた事を初めて知った。

そして、がっくりと肩を落として意気消沈する様を見ていたコレットは、

「元気出してください。お住まいの地域では上手く行かなかったとしても、今はこうして皆で集って良い関係を築けているじゃないですか?それでヨシとしましょう。」

と言って慰めた。

ベルフォリスは、年端も若い人間の少女に慰められる自分を情けないと思いつつも、こんな奇跡の様な人間関係に恵まれている自分を少し誇らしく思った。

 その様子を見ていたセレスは、うんうんと頷きながら件の扉の鍵穴に鍵を差し入れる。

ガチャリと音がすると、すぐ隣の部屋に行くような感覚でドアが開いた。

開いたドアの先には、暗いトンネルの様な道が続いており、トンネルのかなり先の方に光の玉の様な出口が見えた。

「さ、この先に、少しくらいドンパチ派手にやらかしても誰にも気付かれない広い場所がある。皆付いて来てくれ!」

セレスは先陣を切って歩き出す。

次に続いたのはミカゲで、その後ろからはソフィアステイル・レオルステイルと続く。

その後ろにコレットが続いて、コレットの後ろにベルフォリスが続いた。

ベルフォリスがドアの中に入ると、ドアは自然に閉じて暗い空間にぼんやりと佇むドアが置かれた様な状態になった。

「ぅわ!セレス、扉閉まったけど大丈夫なのか?!」

ベルフォリスが驚きで声を上げると、

「なーに大丈夫、帰りに鍵をかざすと開く仕組みになっているんだ~!」

と、先頭から最後尾に届く声で返事をした。

ホっと胸を撫でおろしながら暗闇の細道を進んで行く。

しばらくして、ようやくその広いと言われる所に出た。




 最初の一言はセレスだったが。

「あれ?思ったよりも土地が広がってるな~?前はもう少し狭かった印象だったが。」

言いながら、キョロキョロと周囲を見回した。

東だか南だか北だか西だかも分からず見ていると、

「あれはルルフォロロム山脈だね~標高7500レーテ(m)の霊山だよ。名だたる魔界の神々が住んでいるんだ実際に。蒼壁の大陸の世界みたいに、神は架空に近い存在じゃないんだココではな。っとそもそも魔界と言う名でもないけどな。」

ソフィアステイルが、遥か彼方に見える山脈の名を言って、この広い土地の位置を少し把握した様だった。

コレット的には、ルルフォロロム?何だか言いにくい名前?と思いながら聞いていたのだが、標高を聞いてかなり驚いている。

「7500レーテは高いですね・・・蒼壁の大陸で一番高い山がアルルス山脈にあるアルハアカド山の6200レーテですからね~。それよりも1000レーテ高いんですね・・・・。」

と、度肝を抜かれていた様だった。

「この魔界・・・いや、アレスフィア・ラロゴと言うのじゃこの世界は。蒼壁の大陸のある世界では赤い月と呼ばれている所にこの世界はある。」

ただでさえ広いこの土地に驚いているコレットに、今度はレオルステイルがこの場所の真実を告げた。

「え?アレ・・・・ス?ラ・・ロ??」

「アレスフィア・ラロゴじゃ。魔界と言うのは人間が勝手に言っているこの世界の総称じゃが、儂達もこれに準じてそう呼んでいる。」

コレットにそう言って笑う。

セレスは、

「久しぶりにこの世界の名前聞いたわ~、ってちょっと忘れてたかも。アッチの世界にずっと住んでいるからだな、多分。」

と言って笑うと今度は、

「あちしは今、レオルが言って思い出したお!ずっと魔界魔界言ってたけど、そんな名前だったっち。」

ミカゲも久しぶりに思い出した様で、清々しい顔をしていた。

「そうなんですね、私初めてこの世界の名前知りました。向こうの世界の人はずっと魔界って言い続けると思うんですけど・・・あれ?あと何か凄い事を聞きましたよ私。赤い月がこの世界って、一体どう言う事なんですか?」

コレットは他の皆がサラサラ言っている事が実は凄い事だった事に驚きと疑問と探求心が湧きあがって来て、セレスにそれらの事について尋ねてみたが、

「まぁまぁまぁ。色々コレットには情報量が多過ぎたと思うけど、その説明をする前にまずこの『アリエルシアの弓』っぽいのを作ってしまおうか!」

と言って、いつも腰から下げている鞄の中から、先程皆で魔力を込めた触媒と依代を取り出した。

触媒の玉は、前にコレットが見た時のモノよりも数倍大きくなっていて、多分その大きさが込めた魔力の多さだと容易に考えられた。

一方依代の金属も、前に見た小さな状態とは打って変わって、既に小さいけど弓の形状を成した状態になっていた。

 セレスは、依代の金属をおもむろに地面に突き刺すと、弓の持ち手の部分を握る。

そして、触媒の玉を弓に近づけながら、あの呪文を放った。

 『ソレニウス・フェドキナ』

呪文を唱えると、近づけていた触媒の玉が依代の金属に吸い込まれて行く。

今回は前にグングニルと違って既に武器の形状がある程度出来上がる程の魔力が込められているため、グングニルの様に十数分程度で消える事は無く、3~4日間程度は弓の形状を保っていられる様だった。

「この3~4日って言う日数が鍵になって来ると思うんだよね。1週間だったら可能性として、『アリエルシアの弓」として利用されてしまう可能性が高いけど、この日数なら使う直前位には姿を消せる可能性が高いんだ。」

依代に魔力を注いでいた時に、セレスは皆にこの事を告げていた。

この、3~4日と言う顕現日数を設けるために、皆は全力に近い魔力を注いでいて、今正にセレスも注ぎ込んでいるのだった。

「さぁ、あとは仕上げだ。」

セレスは徐々に、本物の『アリエルシアの弓』・・・・本物の形状はコレットの話やイメージを読み取ったソフィアステイルから聞いて、それをセレスのイメージとして依代に注ぎ込んでいるのだが、果たして本物に近いかまたはそっくりに形成出来るのかは、セレスの魔力と情報量にかかっていると言っても過言では無かった。

「ああ!そうです、本物そっくりです!」

徐々に形成されて行く弓の姿を見たコレットが声を上げる。

その声を聞いたセレスは、最後の詠唱を弓に告げた。
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