ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第四章 ソルフゲイルの謀略

第45話 ソルフゲイルの素性

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 メルヴィレッジの北部の西側の半分に覆いかぶさる様に、ソルフゲイルと言う国は存在していた。

蒼壁の大陸の西側に位置していて、大陸の中心部にまでせり出している。

元々は小さな国土の国だったが、周辺の小国に侵略して行き国土を拡げた。

そしてある時、メルヴィレッジ周辺に多く住んでいた銀狼族と言う種族を丸ごと滅ばさんとする勢いて襲い掛かり、当時トトアトエ・テルニアと呼ばれていた隣国に戦争を仕掛けた。

トトアトエ・テルニアに当時居た銀狼族の多くがソルフゲイルに連れていかれ、二度と戻っては来なかった。

その後、ソルフゲイルに忍び込んで偵察活動をしていた者からの報告でも、ソルフゲイル国内のどこに行っても銀狼族を見る事は無かったと言う。

因みに、当時連れ去られた銀狼族の人数は2千人以上だった。

そうして、ただでさえ少なくなっていた銀狼族は滅びの道を辿り始めたが、蒼壁の大陸の最北の地にある国ルキソミュフィアによって保護され、今ではルキソミュフィアの国を動かす重鎮に銀狼族も加わっている程になって行った。



 ソルフゲイルは主とする国民が人間で構成されている、言わば反亜人・獣人国家だ。

エルフやドワーフと言った妖精族もあまり見かけないので、行商や魔法の販売に訪れる妖精族には厳しい反応をされる国だと思った方が良さそうだ。

それでも、ソルフゲイルに住む人は購買意欲が高いと言う事で、獣人や亜人は魔法や服装で変装してはソルフゲイルで商売をする者は多い。

いつしか、商品がしっかりしているモノを売りに来る亜人や獣人は、その商品を好んで買う人達に認められ、今では変装こそしている者の街の中心部で堂々と屋台を開いて商売をしている者も多く存在していた。

基本的に、ソルフゲイルの国民は特に銀狼族などの別の種族の事を意識して生活している様には見えない。

むしろ、平和で安定的に生活で来てさえいれば亜人や獣人から買った商品でも普通に使ったり食べたりしている、と言った具合に特に他の種族を怪しんだりする事は無いのだが、軍部がそれを許していない感じだった。

 ソルフゲイル軍は、人間こそ至高の種族であり、他の種族はすべて下賤な種族として位置付けていた。

その中でも、特に魔力の強かった銀狼族に目を付けて、銀狼族の魔力を利用した、とある計画を実行する事になった。

その計画を遂行するために銀狼族の多くが狩られ、ソルフゲイルの収容所に押し込められたと言う。

収容所内は幾多の魔法陣が張り巡らされ、魔力を持たない者が入っても気分を害すほどだったそうだ。

収容所で行われた計画がどんなモノだったかを知る人は少ない。

しかし、収容所の扉が次に開いた時にその中から出て来たのは銀狼族では無かった。

黒光りする鱗が特徴の、飛翔能力が高く人語を介してかつ人の姿に変幻出来る、黒竜族と呼ばれる竜族が姿を現したと言う。

銀狼族の魔力が目的なら髪の毛だけを奪えばよいのだが、銀狼族の身体も魂も全てが必要だったこの計画では、銀狼族をトトアトエ・テルニアから根こそぎ奪う必要があった。

そうして戦争を仕掛けて、銀狼族以外の人間や亜人・獣人の多くが犠牲になって行った。



 その時トトアトエ・テルニアの王をしていたセレスフィル・アズワルド・レティ・トトアトエには、何の力も無かった。

ちょっと3日先の事がぼんやりと頭に浮かぶ程度の未来予知しか残っていなかったので、手持ちの魔導書から使える魔法を使っていたに過ぎなかった。

王が微弱な力しか持っていなかった事を、国民は恨まなかった。

何故なら、このトトアトエ・テルニアと言う国は、王と前王が何も無い所から国を興し、荒れ果てた土地を人の住みやすい土地に変えていき、ソルフゲイルで迫害されていた獣人や亜人を全て受け入れて国民として来たのだ。

そんな王がある時から力を無くした事は些細な事だった。

この国に国民が集まったのは、国王が力を持っているからではなく、人の心に寄り添って国を動かしてきたからだった。

ソルフゲイル軍は、最新鋭の魔法や兵器でトトアトエ・テルニアの首都を焼き、周囲は焼け野原になったと言う。

その後トトアトエ・テルニアの王は国の運営をメルヴィ族の長に引き継ぎ、下町の商店街の書架に身を潜めた。

以降100年間ほどは表舞台に立つ事無くひっそりと生活してきたが、ここ10年位は下町の商店街で色々な実験をしている所為で、裏通りの商店街の名がアズワルド商店街と言う名になったと言う。

こんな感じでかつての王は俗世とは離れた所で生活してきたが、身を賭して守らなければならないと誓った銀狼族が守る国が、ソルフゲイルに狙われていると言う。

今、ソルフゲイルが狙っているのは、蒼壁の大陸の北部の国ルキソミュフィアにある世界樹を守護する竜を狩る事。

世界樹の守護者を狩って一体何をするのか分からないが、危険な事をするのは間違い無いだろう。

この目的を遂行するために今、ソルフゲイルはルキソミュフィアと戦争をしているのだった。

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